金海新空港が白紙になったとき「天人共に怒る」と興奮した大邱市長は、下手を打った。青瓦台(韓国大統領府)が仕掛けた「加徳島のわな」に自ら身を投げ出したのだ。
韓国の現政権の人々は、選挙にさえ勝てるのならば手段・方法を選ばないプロだ。「わいせつ」呉巨敦(オ・ゴドン)元釜山市長が原因で行われる補欠選挙で「加徳島新空港」カードを切らないとしたら、むしろおかしい。親与党系の新聞・メディアもこれを「政治的な..
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金海新空港が白紙になったとき「天人共に怒る」と興奮した大邱市長は、下手を打った。青瓦台(韓国大統領府)が仕掛けた「加徳島のわな」に自ら身を投げ出したのだ。
韓国の現政権の人々は、選挙にさえ勝てるのならば手段・方法を選ばないプロだ。「わいせつ」呉巨敦(オ・ゴドン)元釜山市長が原因で行われる補欠選挙で「加徳島新空港」カードを切らないとしたら、むしろおかしい。親与党系の新聞・メディアもこれを「政治的な狙いのあるくせ球」と評した。釜山市長補欠選挙だけでなく、後年の大統領選挙でも「加徳島新空港」カードは魔法になるだろう。逃げていった釜山票をまた引き戻し、慶尚道地方を「PK」(釜山・蔚山・慶尚南道)と「TK」(大邱・慶尚北道)に分断することができる。
現政権が組み立てた戦略通りにPK・TKは動き始めた。両地域の新聞は一斉に、1面からお互い食い付いている。数年前に見た衝突の状況が再現される兆しだ。保守系野党で同じ釜の飯を食っていたPK・TK出身者は反目するだろう。現政権が、これ以上に望んでいるものがあるだろうか。
4年前に慶尚道地方の広域自治体首長間で結ばれた「紳士協定」(金海新空港)を、PKが破るような様子を見せたのは事実だ。TKとしてはむなしいだろう。だが現政権が仕掛けた落とし穴に、そろってはまることは避けなければならない。最悪の結果が待っているにもかかわらず、大邱市長やTK議員らは加徳島新空港反対集会に動員をかける計画を立てているだろう。地方メディアも「TKの団結力を示せ」と太鼓をたたいている。しかし、鉢巻きを締めて繰り出しても事態は解決しない。そんなことをすればするほど、現政権が仕掛けた「分断の落とし穴」に一層深くはまっていくだけだ。
今、TKは加徳新空港問題から一歩引くのが賢明だ。現政権に釣られた泥沼の戦いを止めることができる道だ。そうしなければ、国策大事業を持ち出して選挙のたびにこんなふざけたことをする現政権の道徳的問題が、PK・TK対立にすり替えられてしまう。国策事業の選定手続きや規定を無視して予備妥当性調査も省略し、むやみに押し付ける政権与党の独裁的な動きにも、立ち向かうことができなくなる。
盧武鉉(ノ・ムヒョン)、李明博(イ・ミョンバク)候補はいずれも韓国東南部の新空港を公約に掲げたが、経済性不足で白紙になった。それにもかかわらず、次の大統領選候補らも全く同じ公約を掲げた。空港の立地を巡ってPK・TKの激突が頂点に達すると、朴槿恵(パク・クンへ)政権は世界最高の権威を持つ「パリ空港公団エンジニアリング(ADPi)」に委託を行い、慶尚道地方の各首長は結果に従うと約束した。圧倒的な点数で、金海空港の拡張という決定が出た。加徳島はびりだった。
しかも金海新空港は、釜・蔚・慶の中間くらいに位置する。釜山市内から30分もかからない。加徳島よりアクセス性が良く、距離も短い。経済性・安全性などの面で最高点が付けられた。台風や高潮、津波が押し寄せかねない加徳島は、航空機の離着陸には向かない弱点を持つ。深い海を埋め立てるので地盤沈下問題も生じる。だが釜山には、科学的判定の代わりに「金海新空港は安全ではない」という迷信が広がっている。
工期の側面からも、金海空港に滑走路を1本増やして施設を拡張する方が早い。深い海を埋め立てて空港鉄道や道路網を全て新たに引かねばならない加徳島新空港の費用は、金海の2倍を超える10兆2000億ウォン(現在のレートで約9490億円)と推定された。土木関係者らは、実際にはこれよりもずっと費用がかさむとみている。
なぜ釜山では、こうした悪条件の加徳島にこだわるのか。幅が狭く、海岸の山地に沿って帯状に伸びているせいで、空港の敷地がないのだ。加徳島は釜山の西端にある。釜山の東側からはアクセス性が悪い。蔚山市からは完全によその空港になる。蔚山市長は、同じ与党側の首長だという理由で加徳島案に付き合ってやっている。
どういう風の吹き回しなのか、釜山の人々は、加徳島に造ってこそ「PK宿願事業」が実現するのだと信じている。加徳島は隣接する釜山新港と連携して24時間運営が可能な「アジアのハブ空港」になるだろうという。世界150都市とつながる仁川空港のごとく語っている。だが航空業界や関連の専門家らは、これがどれほど現実と懸け離れたばら色の幻想であるかを説明してくれるだろう。天文学的な金額を投じて空港を造っても、航空会社は採算が取れなければ就航しない。航空路線は、旅客と貨物の需要があってこそやって来るものだ。
盧武鉉政権時代、「2025年には需要増加で金海空港が飽和状態になるだろう」という、東南地域新空港のための研究報告書が出た。果たして今、そうなっているだろうか。韓国国内の各空港は、水増しの航空需要を掲げて選挙公約で建設された。その空港の大部分は開店休業状態だ。大変な額の韓国国民の税金をばらまいて、トウガラシを干している。空港誘致を自分の業績として誇る政治家の中に、その後の巨額の慢性赤字について責任を取った者はいない。
加徳島新空港さえできれば釜山がぱっと変わるかのように語る政治家がいるならば、取りあえず詐欺師と同じように見ていればいい。空港がどんな魔法をかけるというのか。TKは足を止め、PKは票の買収行為に幻惑されないこと祈るばかりだ。
崔普植(チェ・ボシク)先任記者
朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
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