▲金昌均(キム・チャンギュン)論説主幹
数日間、きつい暴言で脅しをかけてきた北朝鮮が南北連絡事務所を吹っ飛ばしてしまった。金与正(キム・ヨジョン)は文在寅(ムン・ジェイン)大統領に向かって「偉そうなふり、正義感の強いふり、平和の使徒のように振る舞うのがおぞましく、不格好だ」と言葉の爆弾まで落とした。このような屈辱を受けなければならないとは、文政権の対北朝鮮政策にどのような問題点があったというのだろうか。何かが食い違い、何かが起こってい..
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▲金昌均(キム・チャンギュン)論説主幹
数日間、きつい暴言で脅しをかけてきた北朝鮮が南北連絡事務所を吹っ飛ばしてしまった。金与正(キム・ヨジョン)は文在寅(ムン・ジェイン)大統領に向かって「偉そうなふり、正義感の強いふり、平和の使徒のように振る舞うのがおぞましく、不格好だ」と言葉の爆弾まで落とした。このような屈辱を受けなければならないとは、文政権の対北朝鮮政策にどのような問題点があったというのだろうか。何かが食い違い、何かが起こっているのは明らかだ。しかし、その主語が対北朝鮮政策なのかは疑問だ。対北朝鮮政策は大韓民国の国益のため北朝鮮の変化を誘導するものだ。北朝鮮を動かすためにムチを手にすれば北朝鮮に対する圧力政策、ニンジンを与えれば北朝鮮に対する包容政策と言われる。ところが、文政権は北朝鮮を変えようとしたことがない。
大韓民国の対北朝鮮政策の最優先課題は北朝鮮の核廃棄だが、文政権ではその単語自体が消えてしまった。北朝鮮がアレルギー反応を起こすからだ。代わりに非核化という言葉を使っている。どちらでも同じではないかと思うかもしれないが、全く違う。北朝鮮が言う非核化は、韓半島(朝鮮半島)の非核化だ。核戦力を備えた在韓米軍が韓半島から離れることが最初のボタンであり、前提条件である。だが、その非核化という言葉すら口にできなくなった。昨年末、国連駐在の北朝鮮大使が「非核化は交渉のテーブルから降ろされた」と言ったと思ったら、その数日前に北朝鮮外務省の局長が「非核化という出まかせは放り出せ」と言っていた。
対北朝鮮政策では、北朝鮮の人権問題も忘れてはならない。文政権に入って北朝鮮人権財団は閉鎖され、北朝鮮の人権国際協力大使は空席状態だ。対北朝鮮人権団体への支援は削減されたり、打ち切られたりした。国連の北朝鮮人権決議に共同提案国として参加してきた慣例も11年ぶりに破られた。韓国外交部長官は「北朝鮮との非核化交渉において、人権は優先順位にない」と弁明した。文政権が北朝鮮に非核化を強く要求したことがあっただろうか。
対北朝鮮政策の最終目標は南北統一だ。憲法第1章第4条に「大韓民国は統一を志向し、自由民主的基本秩序に立脚した平和的統一政策を樹立し、これを推進する」と書かれている。文大統領は2017年7月、ドイツのベルリンで「人為的な統一を追求しない」と宣言した。 「私は憲法を順守し」という言葉で始まる就任宣誓を読んだ2カ月後に憲法無視を公言したのだ。
文大統領は2018年9月1日、平壌・綾羅島競技場での演説で「金正恩(キム・ジョンウン、朝鮮労働党)委員長と北の同胞たちがどのような国を作っていくのか、胸を熱くして見た」と言った。「どれほど民族の和解と平和を渇望しているのか、切実に感じ、確認した」とも言った。北朝鮮が進んでいる方向に共感し、北朝鮮の平和の意志を確認したということだ。北朝鮮がそうなら、何の変化が必要だろうか。文大統領は北朝鮮を今の姿のままで愛している。文大統領が立て直そうとしたのは、北朝鮮を安全保障上の脅威として認識・警戒している大韓民国と米国の「ゆがんだ」見方だった。
文大統領は韓半島の運転席に座っていたが、方向を指示するカーナビゲーション・システムは金正恩の手中にあった。文政権は、政権初期の韓国戦争(朝鮮戦争)終戦宣言採択を国政の中核課題に掲げて総力戦を展開した。北朝鮮が「終戦宣言を一日でも早くすることが信頼回復の第一義的な要素」とサインを送ったからだ。文大統領は米国を説得しようと、「終戦宣言をして問題が発生したら取り消せばいい」という常識外れの話をしたりした。2018年10月、金正恩は「終戦宣言はあまり重要ではない」と言って制裁緩和を要求し始めた。北朝鮮のサインが変わると、文政権もハンドルを回した。文大統領は欧州歴訪で、各国の首脳に会うたびに「制裁緩和で非核化を促進しよう」と呼びかけたが、「実質的な非核化になるまで制裁を順守すべきだ」と面と向かってとがめられた。
文政権が発足した2017年5月9日、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは「韓国は月光時代に入る」と書いた。大韓民国新政権の韓半島政策を、(金大中〈キム・デジュン〉・盧 武鉉〈ノ・ムヒョン〉大統領時代の)太陽政策と、文大統領の姓(moon)を合わせて「月光(moonshine)政策」と呼んだものだ。月は自ら光を発することができず、太陽の光を反射する。文政権は金正恩の希望に応じて、大韓民国と国際社会の変化を推進した。文政権の韓半島平和プロセスは大韓民国の対北朝鮮政策ではなかった。金正恩の対南・対米工作の下請けサービスだった。韓半島専門家らが文大統領のことを金正恩の首席報道官あるいは代理人と呼ぶようになったのもそのためだ。月光政権は「金正恩太陽光」を投影しようとすさまじく努力したが、「北朝鮮の核容認、制裁解除」という注文契約を完遂できなかった。だから嫌がらせをされているのだ。
文大統領はまだ大統領選挙候補で、選挙まであと1カ月という2017年4月10日、フェイスブックに「文在寅は金正恩が最も恐れる大統領になるだろう」と書いた。金正恩は怖がって後ろに隠れ、妹が代わりに大統領をあざ笑い、嘲弄(ちょうろう)しているようだ。
金昌均(キム・チャンギュン)論説主幹
朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
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