盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権末期の2007年3月、時事週刊誌「ハンギョレ21」に「若い進歩論者」3人の座談会の内容が掲載された。見出しは「ベネズエラの国民に道を問う」というもので、「盧武鉉に失望し、チャベスに沸き返える」といった小見出しも目を引いた。
「ベネズエラは新自由主義の波に真っ向から挑み、基幹産業と鉱物エネルギー産業の国有化を進める一方、市場中心ではなく、社会的連帯を重視する経済体制を実験..
続き読む
盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権末期の2007年3月、時事週刊誌「ハンギョレ21」に「若い進歩論者」3人の座談会の内容が掲載された。見出しは「ベネズエラの国民に道を問う」というもので、「盧武鉉に失望し、チャベスに沸き返える」といった小見出しも目を引いた。
「ベネズエラは新自由主義の波に真っ向から挑み、基幹産業と鉱物エネルギー産業の国有化を進める一方、市場中心ではなく、社会的連帯を重視する経済体制を実験している」「盧武鉉大統領は選挙運動の際に掲げた公約とは違って、就任した直後に米国を訪問し、いわゆる『収容所発言』を行った。イラク派兵を皮切りに、韓米FTA(自由貿易協定)を一方的に進めたことも、支持者たちが予想することのできなかったことだった。一方、チャベスは米国のあらゆる圧力とけん制に対し、成功裏に対処している」「ベネズエラは国際原油価格が上昇したことで、毎年GDP(国内総生産)の伸び率が増加している。史上最悪といわれたインフレーションも徐々に収束する兆しを見せつつある」
約10年が過ぎ去った今、この座談会の内容は「盧武鉉シーズン2」と言われている文在寅(ムン・ジェイン)政権について、多くのことを考えさせている。「左翼の実験台」とされていたベネズエラは今、亡国の一途をたどっている。チャベスは亡くなり、チャベス路線に忠実に従った後継者のマドゥロ大統領政権は、1万%を超える物価上昇率、100万人を超えるエクソダス(海外逃亡)に直面している。「地上に地獄があるとすれば、断然ベネズエラがこれに含まれるだろう。人民の地獄脱出が大規模で行われている。食糧、水、電気、薬品など全てのものが足りないこの呪われた地を後にしている」(スイス日刊紙NZZ)こうして、韓国左翼の「熱狂」ぶりはむなしく崩れ去ったわけだ。
驚くべきことに、現在文政権下で進められている政策の方向性は、過去のベネズエラと非常によく類似している。新自由主義を排斥して国家主義に向かおうとしている点、資本統制、参与民主主義、民衆の権力強化、反大企業政策、福祉政策の拡大、などがそうだ。今韓国経済は深刻な混乱期を迎えている。最低賃金の急激な引き上げと勤労時間の短縮は、自営業や零細商工業者の経済活動を圧迫し、今ではストライキを誘発している。経済見通しに対する不安、「積弊」の独走と自画自賛に対する社会的反感、健全な批判とけん制が消えた左翼独裁が横行したことで、社会全体が活力を失い、不安と悲観におびえている。
韓国は、「南米の希望」であり「左翼政治のロ-ルモデル」とされたベネズエラとは大きく異なる点がある。第一に、韓国経済は米国資本の「植民地」ではない。韓国は今では自活力を備えた経済構造を持ち合わせているほか、潜在的競争力を年々育んでいる。ベネズエラが米国大資本の試験場だったのとはベースからして違っている。第二に、韓国にはベネズエラにはない「北朝鮮」という変数がある。北朝鮮の存在は、韓国が安保を至上課題として取り上げるほかない環境を造成している。第三に、韓国には石油がない。ベネズエラは政権が滅びても、石油という資源は残る。韓国は、滅びればそれでおしまいなのだ。
韓国をあえて今にも滅びそうな国と比べようとするのは、何もサディズム(加虐症)や「左翼政権たたき」などといった低い次元からのものではない。わずか10年という短い間に昨日の英雄が今日の笑い者となり、昨日の富国が貧国の奈落に陥る可能性があるという生々しい現実が悲惨に感じられ、恐ろしいからだ。チャベス路線を敬愛した韓国の左翼、進歩陣営が相変らずその路線を追従する傾向を見せているのも問題だ。
左翼陣営は、文大統領が最近規制改革に乗り出したことで、「大企業配慮型路線」への転換として、一斉に反発し始めた。文政権としても経済的な難局を打開するために、規制緩和は避けられない状況なわけだが、文大統領の「改革」はスタートラインから壁にぶち当たっている。理念の色を塗りたくり、権力を自分勝手に使用すればするほど、経済は常にうまく回らなかったものだが、その歴史は今でも繰り返されているようだ。文大統領は、やがて米国との関係でも終戦宣言や在韓米軍などの問題で、再び陣営内の反米路線と衝突するかもしれない。北朝鮮の側に付くのか、米国の側にとどまるのかを巡り、文大統領と文大統領の支持層は路線闘争を経験することになるだろう。
興味深いことは、「盧武鉉政治」について語る際に、右翼も左翼も皆が逸脱の兆候として、FTAを取り上げ、イラク派兵について触れ、済州軍港を問題としたように、後日「文在寅政治」について語る際は、おそらく銀産分離(産業資本による銀行株式の所有を制限する制度)など「規制緩和」を取り上げるかもしれない。ただ盧武鉉元大統領はこれらを全てやってみせたが、文大統領はそれさえも全うできるかどうか時間をかけて見守るべき時だ。
金大中(キム・デジュン)顧問
朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
Copyright (c) Chosunonline.com