今年7月2日午前1時ごろ、江原道江陵市のある交差点にて。消防隊員が、呼吸困難を訴える80代の女性を救急車に乗せて病院へ向かっていた。信号は赤だったが、搬送を急ぐためサイレンを鳴らして交差点を渡ろうとした。そのとき、左から走ってきたタクシーが減速できず、救急車の側面に突っ込んだ。事故でタクシーの運転手は軽いけがを負った。消防隊員は近くの119センターから2台の救急車を呼び、患者とタクシー運転手を病..
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今年7月2日午前1時ごろ、江原道江陵市のある交差点にて。消防隊員が、呼吸困難を訴える80代の女性を救急車に乗せて病院へ向かっていた。信号は赤だったが、搬送を急ぐためサイレンを鳴らして交差点を渡ろうとした。そのとき、左から走ってきたタクシーが減速できず、救急車の側面に突っ込んだ。事故でタクシーの運転手は軽いけがを負った。消防隊員は近くの119センターから2台の救急車を呼び、患者とタクシー運転手を病院へ搬送した。
事故を調べた警察は「赤信号で交差点に進入した救急車の過失」と判断した。交通事故処理特例法は、救急車など緊急自動車に対する免責規程を置いていない。当時救急車に乗っていた消防隊員が、タクシーの運転手に250万ウォン(現在のレートで約25万円、以下同じ)、救急車に乗っていた患者に50万ウォン(約5万円)を私費で払うことで示談が成立した。
米国は違う。米国では、救急車とぶつかったら事故原因を問わず一般車両の側に100%責任がある。ニューヨーク駐在員時代に救急車と接触事故を起こした人物は「救急車が助手席に突っ込んだ。救急車の過失だったが、修理費を全額こちらが出して、刑事処罰を避けるため弁護士を選任して裁判を受けた」と語り、「米国人が救急車にきちんと道を譲るのは、市民意識があるからでもあるが、自分の責任を避けるための行動」と指摘した。
■交通事故・器物破損で訴えられる消防隊員
消防隊員にとって時間は命だ。火災や救助の現場に素早く到着してこそ、命を助けることができる。ところが「ゴールデンタイム」を守ろうとして交通事故になるケースがある。消防車・救急車の交通事故は年間500件前後発生する。消防車などに加害責任があると、おおむね保険で処理される。この場合、保険料が上がり、その分予算を必要とする。保険処理には時間がかかるため、10万-20万ウォン(約1万-2万円の少額事故の場合、陳情者の要求に押されて消防隊員が私費で示談金などを出すケースがしばしばある。保険処理をすると人事で不利益を被りかねないという考えもある。ソウル・江東消防署のチョン・ボンチェ救助第1隊長(50)は「サイレンを鳴らしていても譲らない車とぶつかる事故がほとんど。そんな車のドライバーが『修理費を払え』と言ってくると、頭に血が上りそう」と語った。
■緊急出動のサイレンに「うるさい」とどなる
消防隊員の力を奪うものはまだある。サイレンを鳴らして走ると「サイレンがうるさい」「本当に患者を乗せているのか」と抗議する人が少なくない。とりわけ夜にサイレンを鳴らし、警告灯をつけていくと「うちの子が目を覚ました」「静かに患者を運んでいけ」と言われることもある。今年4月には、光州で「ここは住宅街です。緊急車両のサイレン(警笛)の騒音を少しばかり減らしてください」という垂れ幕が掲げられたこともある。
消火や救助の過程でドアや、そのほかの財産を破損したという理由で、損害賠償請求に苦しむこともある。ソウル消防災難本部によると、2015年から今年6月末までの間に「消火などで生じた器物破損を弁償すべき」という要求は54件あった。今年5月、ソウル・江東消防署に「ガールフレンドが連絡してこない」という通報が入った。千戸洞の住宅街に到着し、ドアをたたいても全く反応がなかったため、消防官は窓を破った。煙が充満していた。そのときようやくドアが開き、20代の女性が出てきた。火災の危険性があったため、着火炭が置かれていたオンドルの床を切り取った。すると女性は「どうしてオンドルの床を切るのか、弁償しろ。でないと陳情を出す」と抗議した。消防官は「説得して、どうにか陳情は防いだが、『溺れた人を助けて荷物を差し出す』よりもひどいのではないか」と語った。
■暴行される救急隊員
消防隊員は暴行や暴言にも苦しめられている。今年7月20日午後8時11分ごろ、忠清南道の119総合状況室に「頭が痛くて目まいがする」と通報が入った。天安市仏堂洞の通りにいる通報者を助けるため、天安市の双竜119安全センターでは救急車を出動させた。現場に到着した女性救急隊が通報者を発見し「どこが苦しいですか」と尋ねると、通報者は酒の臭いを漂わせながら「○○女め!」とどなり、手に持っていた携帯電話で救急隊員の頭をたたいた。この女性救急隊員は現在も、酒に酔った人間から救急の通報が入ると、昔の記憶を思い出して不安を感じるという。裁判にかけられた通報者は懲役1年、執行猶予1年、保護観察200時間、社会奉仕命令20時間を言い渡され、釈放された。
消防・救急隊員に対する暴行事件は、14年に131件、14年に198件、16年に199件と増加傾向にある。出動して通報者に暴行され、全治2週間のけがをした27歳の消防士は「救助の過程で、いつも暴行を意識するようになった。そのせいで、本当に助けが必要な人を心を込めて救助できないのではと心配」と語った。
ユ・ジハン記者
朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
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