▲韓悳洙・大統領権限代行/写真=NEWSIS

 韓悳洙(ハン・ドクス)権限代行が8日、大統領が指名権を持つ分の憲法裁判官2人を指名する際に掲げた表面的な理由は「憲法裁判所の機能まひを防ぎたい」というものだった。今月18日に文炯培(ムン・ヒョンベ)、李美善(イ・ミソン)裁判官が後任のいないまま退任したら憲法裁は6人体制になり、少なくとも2カ月以上、その機能を果たせなくなる。そのため韓代行は、これまで保留していた馬恩赫(マ・ウンヒョク)憲法裁判官の任命と共に2人の新裁判官(李完揆〈イ・ワンギュ〉法制処長、咸尚勲〈ハム・サンフン〉ソウル高裁部長判事)の指名で憲法裁判所9人体制を復旧させようとしているのだ。

【表】韓悳洙首相の憲法裁判官指名に対する法曹界の意見

 だが政界からは、韓代行は憲法裁判所の保守・進歩の構図を念頭に置いたのだろう、という分析が出ている。憲法裁の現在の構図は、この日から任期をスタートさせた馬恩赫裁判官を含めて「保守・中道4、進歩(革新)5」だ。文炯培・李美善裁判官が退任して李完揆・咸尚勲候補が合流すれば、構図は「保守・中道6、進歩3」に変わることになる。反面、民主党の主張通りに韓代行が大統領指名分の裁判官2人を指名しない状態で、民主党への政権交代が実現した場合、憲法裁の構図は「保守・中道4、進歩5」になるものとみられる。議会権力を民主党が握っている状況で今後の「けん制」を考慮すると、韓代行は弾劾の圧迫を甘受してでも、裁判官の指名を強行するほかなかったのだ。

 韓代行はこの日、2裁判官の指名を発表するとともに「私心なく、ひたすら国のために賢い決定を下そうと最善を尽くした」「私の決定の責任はひたすら私にある」と発言した。さらに「李完揆法制処長と咸尚勲部長判事はそれぞれ検察と裁判所で要職を務めつつ長い経歴を積み、公平かつ公正な判断で法曹界内外において高い信望がある」「お二人こそ、韓国国民個々人の権利に細かく目を通しながら、同時に国全体のための判断をしていただける適任者だと考えている」とし「私がきょう下した決定は、これまで与野党はもちろん法律家、言論人、社会の重鎮など大勢の方の意見を聞いて熟考した結果」「法的検討を経た後、きょう午前に同僚の国務委員(閣僚)の意見を最後にお伺いして決定を実行に移した」と語った。

 大統領権限代行が大統領指名分の憲法裁判官候補者を指名するのは、今回が初めてだ。2017年に、当時の黄教安(ファン・ギョアン)大統領権限代行は、朴槿恵(パク・クンヘ)大統領弾劾が認容された後、李善愛(イ・ソンエ)憲法裁判官を任命した。ただし李裁判官は、大統領ではなく当時の梁承泰(ヤン・スンテ)大法院長(最高裁長官に相当)が指名した候補者だった。韓代行が後任を指名したことに伴って、国会は人事聴聞会法に基づき、20日以内に審査を終えなければならない。国会が拒否したら、大統領(代行)は10日以内に期日を定めて聴聞経過報告書の再送付を要請した後、後任の裁判官を任命できる。

 進歩系最大野党「共に民主党」はこの日、韓代行の裁判官指名を批判したが、保守系与党「国民の力」は歓迎のメッセージを出した。国民の力の権性東(クォン・ソンドン)院内代表は「韓代行が2裁判官を指名したのは勇断」とコメントした。与党側では、韓代行が大統領指名分の裁判官を任命しなかったら、立法・行政はもちろん司法領域まで民主党寄りに傾くだろう-と懸念する雰囲気だった。

 国民の力の一部では、この日、韓代行が民主党の反対の中で憲法裁判官の指名を断行したことを契機として「韓悳洙大統領候補説」が浮上する雰囲気も現れた。尹相炫(ユン・サンヒョン)議員は、政府ソウル庁舎で韓代行と会った後、「韓代行の大統領選出馬を主張する方は多く、私に『尋ねてみてほしい』という人が多いのも事実」だとしつつ「地域的なことや安定感、豊富な国政経験であるとか、さまざまな面で良いカード」と語った。朴洙瑩(パク・スヨン)議員も「今回の選挙で最大の話題は経済」「韓代行は通商交渉本部長や駐米大使などを歴任した専門家」と発言した。ただし韓代行自身は、首相室の幹部に「大統領選挙の『だ』の字も持ち出すな」と述べ、大統領選挙出馬を巡る問題に言及してはならないという趣旨の発言を行ったという。なお、韓国政府内外では、韓代行が平素、国政に対する「責任感」を強調していたことから、米国との通商戦争などに対応するため大統領選挙に出るべき状況が来ることもあり得る、という声が出ている。

梁昇植(ヤン・スンシク)記者、イ・セヨン記者

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