裁判
「大統領尹錫悦の違憲・違法行為は国民の信任を裏切り、容認できない重大な違反」【4月4日判決要旨全文】 弾劾審判
今から2024憲ナ8、大統領・尹錫悦(ユン・ソンニョル)弾劾事件に対する宣告を始めます。
まず、適法要件について見ていきます。
【表】適法性巡る憲法裁の判断
(1)この事件の戒厳宣布が司法審査の対象になるかについて見ていきます。
高位公職者の憲法および法律違反から憲法秩序を守護しようとする弾劾審判の趣旨などを考慮すると、この事件の戒厳宣布が高度な政治的決断を要する行為だとしても、その憲法および法律違反の有無を審査することができます。
(2)国会法制司法委員会の調査なしにこの事件の弾劾訴追案を議決した点について見てみます。
憲法は国会の訴追手続きを立法に任せており、国会法は国会法制司法委員会で調査するかどうかを国会の裁量と規定しています。そのため、国会法制司法委員会の調査がなかったからといって、弾劾訴追の議決が不適当だと見ることはできません。
(3)この事件の弾劾訴追案の議決が一事不再理の原則に違反するかどうかについて見てみます。
国会法は否決された案件を同じ会期中に再発議できないよう規定しています。被請求人(尹錫悦)に対する第1次弾劾訴追案が第418回定期会期に投票不成立となりましたが、この事件の弾劾訴追案は第419回臨時会会期中に発議されたので、一事不再理の原則に違反していません。
一方、これについては、他の会期にも弾劾訴追案の発議回数を制限する立法が必要だとする裁判官の鄭亨植(チョン・ヒョンシク)の補足意見があります。
(4)この事件の戒厳が短時間で解除され、これによる被害が発生しなかったため、保護利益が損なわれたかどうかについて見てみます。
この事件の戒厳が解除されたとしても、この事件の戒厳によってこの事件の弾劾事由はすでに発生しているので、審判の利益が否定されるとは言えません。
(5)訴追議決書において内乱罪など刑法違反行為で構成していた事案を、弾劾審判請求後に憲法違反行為に含めて主張している点について見ていきます。
基本的事実関係を同一に維持しつつ適用法条文を撤回・変更することは、訴追事由の撤回・変更に該当しないので、特別な手続きを経なくても認められます。
被請求人は、訴追事由に内乱罪関連部分がなかったら議決定足数を充足できなかっただろうとも主張していますが、これは仮定的主張に過ぎず客観的に裏付ける根拠もありません。
(6)大統領の地位を奪取するために弾劾訴追権を乱用したという主張について見てみます。
この事件の弾劾訴追案の議決過程が適法で、被訴追者の憲法または法律違反が一定水準以上疎明されたため、弾劾訴追権が乱用されたとは言えません。
ということは、この事件の弾劾審判請求は適法です。
一方、証拠法則に関連して、弾劾審判の手続きで刑事訴訟法上の専門法則を緩和して適用できるとする李美善(イ・ミソン)・金炯斗(キム・ヒョンドゥ)裁判官の補充意見と、弾劾審判の手続きで今後は専門法則をより厳格に適用する必要があるとする金福馨(キム・ボクヒョン)・趙漢暢(チョ・ハンチャン)裁判官の補充意見があります。
次に、被請求人が職務執行において憲法や法律に違反したのか、被請求人の法違反行為が被請求人を罷免するほど重大なものなのかについて見ていきます。まず、訴追事由別に見ていきます。
① この事件の戒厳宣布について見ていきます。
憲法および戒厳法によると、非常戒厳宣布の実体的要件の一つは「戦時・事変またはこれに準ずる国家非常事態で敵と交戦状態にあること、社会秩序が極度にかく乱され行政および司法機能の遂行が顕著に困難な状況が現実的に発生しなければならない」ということです。
被請求人は、野党が多数の議席を占める国会の異例の弾劾訴追推進、一方的な立法権行使および予算削減の試みなどの専横により、上記のような重大な危機状況が発生したと主張しています。
被請求人の就任後、この事件の戒厳宣布前まで、国会は行政安全部(省に相当、以下同じ)長官、検事、放送通信委員会委員長、監査院長などに対して計22件の弾劾訴追案を発議しました。これは国会が弾劾訴追事由の違憲・違法性について熟考しないまま法違反の疑惑だけに基づいて弾劾審判制度を政府に対する政治的圧迫手段として利用したという憂慮を生みました。
しかし、この事件の戒厳宣布当時は検事1人および放送通信委員会の委員長に対する弾劾審判の手続きのみ進行中でした。
被請求人が、野党が一方的に通過させて問題があると主張する法律案は、被請求人が再議を要求したり公布を保留したりして、その効力が発生していない状態でした。
2025年度予算案は、24年予算を執行していたこの事件戒厳宣布当時の状況にいかなる影響を及ぼすことはできず、上記予算案に対して国会予算決算特別委員会の議決があっただけで、本会議の議決があったわけでもありません。
従って、国会の弾劾訴追、立法、予算案審議などの権限行使が、この事件の戒厳宣布当時に重大な危機状況を現実的に発生させたと見ることはできません。
国会の権限行使が違法・不当であっても憲法裁判所の弾劾審判、被請求人の法律案再議要求など、平常時の権力行使方法で対処できるので、国家緊急権の行使を正当化することはできません。
被請求人は、不正選挙疑惑を解消するためにこの事件戒厳を宣言したとも主張しています。しかし、何らかの疑惑があるというだけで、重大な危機的状況が現実的に発生したと見ることはできません。
また、中央選挙管理委員会は第22代国会議員選挙前に保安上ぜい弱な部分について大部分措置したと発表し、事前・郵便投票箱保管場所の監視カメラを24時間公開し、開票過程に手作業開票を導入するなどの対策を用意したという点においても、被請求人の主張が妥当とは見なせません。
結局、被請求人が主張する事情を全て考慮しても、被請求人の判断を客観的に正当化できるほどの危機的状況がこの事件戒厳宣布当時に存在したと見ることはできません。
憲法と戒厳法は非常戒厳宣布の実体的要件として「兵力で軍事上の必要に応じたり、公共の安寧秩序を維持したりする必要と目的があること」を求めています。
ところが被請求人が主張する国会の権限行使による国政まひ状態や不正選挙疑惑は、政治的・制度的・司法的手段を通じて解決しなければならない問題であり、兵力を動員して解決できるものではありません。
被請求人はこの事件の戒厳が野党の専横と国政の危機的状況を国民に知らせるための「警告性戒厳」または「アピール用戒厳」だと主張していますが、これは戒厳法が定めた戒厳宣布の目的ではありません。
また、被請求人は戒厳宣布にとどまらず、軍と警察を動員して国会の権限行使を妨害するなどの憲法および法律違反行為に及んだため、警告性またアピール用の戒厳という被請求人の主張を受け入れることはできません。
ということで、この事件の戒厳宣布は非常戒厳宣布の実体的要件に反するものとなります。
次に、この事件の戒厳宣布が手続き的要件を順守したかについて見てみましょう。
戒厳令の宣布および戒厳司令官の任命は閣議で審議を経なければなりません。被請求人がこの事件の戒厳を宣布する直前に、首相ならびに9人の閣僚に戒厳宣布の趣旨を簡略に説明した事実は認められます。
しかし、被請求人は戒厳司令官などこの事件の戒厳の具体的な内容を説明せず、他の構成員に意見を述べる機会を与えなかった点などを考慮すれば、この事件の戒厳宣布に関する審議が行われたと見なし難いです。
その他にも、被請求人は首相と関係閣僚が非常戒厳宣布文に副署しなかったにもかかわらず、この事件戒厳を宣布し、その施行日時、施行地域および戒厳司令官を公告せず、遅滞なく国会に通告することもなかったため、憲法および戒厳法が定めた非常戒厳宣布の手続き的要件に違反しています。
②国会への軍と警察の投入について見ていきます。
被請求人は、国防長官に国会に軍隊を投入するよう指示しました。これに兵士たちはヘリなどを利用して国会敷地内に進入し、一部は窓ガラスを割って本館の内部に入ったりもしました。被請求人は、(編注:郭種根〈クァク・チョングン〉)陸軍特殊戦司令官などに「議決定足数が満たされていないようなので、ドアを壊して入って中にいる人員を引っ張り出せ」などと指示しました。
また、被請求人は、警察庁長に戒厳司令官を通じてこの事件の布告令の内容を知らせ、直接6回電話したりもしました。これに対し警察庁長は、国会の出入りを全面遮断させました。このため、国会に集まっていた国会議員の一部は塀を越えなければならなかったり、立ち入ることができなかったりしました。
一方、国防部長官は、必要に応じて逮捕する目的で国軍防諜(ぼうちょう)司令官に国会議長、各政党の代表など14人の位置を確認するよう指示しました。被請求人は(編注:洪壮源〈ホン・ジャンウォン〉)国家情報院第1次長に電話して国軍防諜司令部を支援するように命じ、国軍防諜司令官は国家情報院第1次長に上記の人々に対する位置確認を要請しました。
このように被請求人は軍と警察を投入して国会議員の国会への出入りを統制する一方、彼らを引っ張り出せと指示することで国会の権限行使を妨害したため、国会に戒厳解除要求権を付与した憲法条項に違反し、国会議員の審議・票決権・不逮捕特権を侵害しました。
また、各政党の代表などに対する位置確認の試みに関与することで、政党活動の自由を侵害しました。
被請求人は、国会の権限行使を防ぐなど政治的目的で兵力を投入することで、国家安全保障と国土防衛を使命とし、国のために奉仕してきた軍人たちを一般市民と対峙(たいじ)させました。この点において、被請求人は国軍の政治的中立性を侵害し、憲法による国軍統帥義務に違反しました。
③この事件の布告令発令について見ていきます。
被請求人は、この事件の布告令を通じて国会・地方議会・政党の活動を禁止することで、国会に戒厳解除要求権を付与した憲法条項、政党制度を定めた憲法の条項と代議民主主義、権力分立の原則などに違反しました。
非常戒厳下で基本権を制限するための要件を定めた憲法および戒厳法の条項、令状主義に反して国民の政治的基本権・団体行動権・職業の自由などを侵害しました。
④中央選挙管理委員会に対する押収捜索について見てみます。
被請求人は、国防部長官に兵力を動員して選管の電算システムを点検するよう指示しました。これに伴い、中央選管の庁舎に投入された兵力は(庁舎への)出入り統制をしながら当直者たちの携帯電話を押収し、電算システムを撮影しました。選管に対して令状なしに押収捜索を行ったことは令状主義に反すると同時に、選管の独立性を侵害しています。
⑤法曹関係者に対する位置確認の試みについて見てみます。
先に申し上げたように、被請求人は必要時に逮捕する目的で行われた位置確認の試みに関与しましたが、その対象には退任したばかりの元最高裁長官および元最高裁判事も含まれていました。これは現職裁判官たちにとって、いつでも行政府によって逮捕対象になり得るという圧力を受けさせるもので、司法権の独立を侵害しています。
これまで見てきた被請求人の法違反行為が被請求人を罷免するほど重大なものなのかについて見ていきます。
被請求人は、国会との対立状況を打開する目的で、この事件の戒厳宣布した後、軍や警察を投入して国会の憲法上の権限行使を妨害することで、国民主権主義や民主主義を否定し、兵力を投入して中央選管を捜索するなど、憲法が定めた統治構造を無視し、この事件の布告令を発令することで国民の基本権は広範囲に侵害されました。
このような行為は、法治国家の原理と民主国家の原理の基本原則に反するもので、それ自体が憲法秩序を侵害し、民主共和政の安定性に深刻な危害を及ぼしました。
一方、国会が迅速に非常戒厳解除要求決議をすることができたのは、市民の抵抗と軍と警察の消極的な任務遂行のおかげであり、これは被請求人の法違反に対する重大性の判断に影響を及ぼしません。
大統領の権限はあくまでも憲法によって与えられたものです。被請求人は最も慎重に行使されるべき権限である国家緊急権を憲法で定めた限界を超えて行使し、大統領としての権限行使に対する不信を招きました。
被請求人が就任して以来、野党主導の、異例の多さの弾劾訴追によって、複数の高位公職者の権限行使が弾劾審判中に停止されました。2025年度予算案に関して、憲政史上初めて、国会予算決算特別委員会で増額なしの減額についてのみ野党単独で議決されました。
被請求人が樹立した主要政策は野党の反対で施行できず、野党は政府が反対する法律案を一方的に通過させ、被請求人の再議要求と国会の法律案議決が繰り返されたりもしました。
その過程で、被請求人は野党の専横で国政がまひし、国益が著しく阻害されていると認識し、これを何とか打開しなければならないという重大な責任感を感じるようになったものとみられます。
被請求人が国会の権限行使は権力乱用だとか、国政まひを招く行為だと判断したことは、政治的に尊重されなければなりません。しかし、被請求人と国会との間で発生した対立は、一方の責任に属するとは考えにくく、これは民主主義の原理によって解消されるべき政治上の問題です。これに関する政治的見解の表明や公的な意思決定は、憲法上保障される民主主義と調和する範囲で行われなければなりません。
国会は少数意見を尊重し、政府との関係で寛容と自制を前提に対話と妥協を通じて結論を導き出すよう努力すべきでした。被請求人も国民の代表である国会を協治の対象として尊重すべきでした。にもかかわらず、被請求人は国会を排除の対象にしました。これは民主政治の前提を壊すことであって、民主主義と調和するとは見なしがたいです。
被請求人は、国会の権限行使が多数の横暴だと判断したとしても、憲法が見込んだ自力救済策を通じて、けん制と均衡が実現できるようにすべきでした。被請求人は就任から約2年後に行われた国会議員選挙で被請求人が国政を主導するよう国民を説得する機会がありました。その結果が被請求人の意図に符合しなくても、野党を支持した国民の意思を排除しようとする試みをしてはなりませんでした。
それにもかかわらず、被請求人は憲法と法律に違反してこの事件の戒厳宣布することにより、国家緊急権乱用の歴史を再現し、国民を衝撃に陥れ、社会・経済・政治・外交の全分野で混乱を引き起こしました。
国民全員の大統領として、自分を支持する国民を超えて、社会共同体を統合させるべき責務に反しました。
軍と警察を動員して国会など憲法機関の権限を傷つけ、国民の基本的人権を侵害することで、憲法守護の責務を放棄し、民主共和国の主権者である韓国国民の信任を重大に裏切りました。
要するに、被請求人の違憲・違法行為は国民の信任を裏切ったもので、憲法守護の観点から容認できない重大な法違反行為に該当します。
被請求人の法違反行為が憲法秩序に及ぼした否定的影響と波及効果が重大なため、被請求人を罷免することによって得る憲法守護の利益が大統領罷免に伴う国家的な損失を圧倒するほど大きいと認められます。
これに対し、裁判官全員の一致した意見で主文を宣告します。弾劾事件ですので、宣告時刻を確認します。今の時刻は午前11時22分です。
主文、被請求人・大統領尹錫悦を罷免する。
これで判決を終えます。