国際総合
パナマ運河でトランプに虚を突かれた習近平、李嘉誠に当たり散らす
香港のCKハチソンホールディングス(長江和記実業)は、同社が運営してきたパナマ運河の出入り口のバルボア港とクリストバル港の運営権を米資産運用会社ブラックロック率いるコンソーシアムに売却することを決めました。ハチソンは3月4日、二つの港を含め、世界23カ国で運営してきた港湾43カ所を228億ドル(約3兆4000億円)でブラックロックコンソーシアムに売却することで合意したと発表した。 ハチソンは香港の富豪、李嘉誠が率いる長江グループの持ち株会社で、港湾、通信、インフラ、流通など4分野でグローバル事業を展開しています。
パナマ運河の両側にある二つの港はトランプ米大統領の就任前から議論になっていました。トランプ大統領は「中国が運河を運営している」とし、「武力を動員してでも運河を取り戻す」と公言しました。今年1月に就任するや否やパナマ政府を外交的に圧迫し、中国と結んだ一帯一路協定から脱退させ、さらには両港の運営権を譲り受ける契約まで結びました。就任して2ヵ月もたたないうちに、速戦即決でこの問題を整理したのです。
2017年の国交正常化以来、8年間パナマとの関係を強化してきた中国は、虚を突かれたように当惑しているようです。だからといって米国を直接攻撃することはできないため、港の運営権を売却した実業家の李嘉誠氏を「祖国と民族を見捨てた売国奴」として激しく攻撃しました。共産党と国務院(中央政府)香港マカオ弁公室、香港の親中メディア大公報などが売却契約の取り消しを迫りました。しかし、グループの売上の88%を欧米で上げる長江グループを圧迫する実質的な手段はないのが現状です。
■李嘉誠氏、港湾部門を丸ごと売却
ハチソンは中国を含む世界 24か国で 53の港湾を運営しています。このうち中国と香港にある10カ所を除く23カ国の43カ所を今回売却します。パナマ運河の二つの港を運営する「パナマポートカンパニー」の株式90%も含まれます。
ブラックロックのコンソーシアムには、米インフラ投資ファンド「グローバルインフラパートナーズ(GIP)」、世界最大手のコンテナ船会社であるスイスMSCの港湾運営子会社ターミナル・インベストメント)(TIL)などが参加しました。売却金額228億ドルのうち、負債を除く190億ドルを現金で支払われるということです。
ハチソンのフランク・シクスト氏財務担当取締役は「今回の取引は純粋に商業的なもので、最近のパナマ運河を巡る政治ニュースとは全く無関係だ」と述べました。迅速かつ冷静に競争入札が行われ、最適な条件を提示したブラックロックのコンソーシアムが選ばれたとの説明でした。
■トランプ氏の側近が交渉主導
しかし、ブルームバーグ通信は「トランプ政権の全面的な支持の下、今回の交渉が進められた」と報じました。ブラックロックのラリー・フィンク会長は一時、財務長官候補として取り沙汰されたこともあるなどトランプ大統領の側近です。フィンク氏はトランプ大統領はもちろん、ベッセント財務長官やルビオ国務長官に随時状況を報告し、取引を進めたということです。
李嘉誠氏は今回の取引でかなりの実益を得ました。ハチソンの港湾事業部門は、グループ内の売上寄与度が低下し、収益率も低く、頭が痛い事業部門の一つでした。今回の取引前の港湾部門の評価金額は約105億ドルだったそうです。米中の間に挟まれて悩ましかったパナマ運河の二つの港を少なからぬ利益を得て、処分できたのです。
発表後、香港は蜂の巣をつついたような大騒ぎになりました。親中メディアの香港大公報は3月13日、15日、17日に相次いで社説や評論を掲載し、李嘉誠氏を攻撃しました。同紙は「パナマ運河は全世界の海運物流量の6%、中国の貨物運送量の21%が通過する場所であり、米国の手に渡れば中国企業とサプライチェーンが大きな危険に直面するだろう」とし、「他人の意見になびいて米国にひざまずき、カネの前で大義を失った行為で祖国と民族、中国人全体を裏切った」と指摘しました。中国共産党と国務院(政府)香港マカオ弁公室もウェブサイトに大公報の評論を転載しました。
■「報告なしで売却…習主席激憤」
香港の李家超(ジョン・リー)行政長官も「この問題をめぐる社会的な懸念を重視すべきだ」と同調しました。ブルームバーグ通信によると、国家市場監督管理総局など中国の政府機関も今回の取引が安全保障に問題にならないか精査しているといいます。
中国の政府・党機関まで出てきたことは、最高指導部のムードが尋常でないことを意味します。ウォールストリートジャーナルは3月19日、消息筋の話として、「長江グループが中国当局に事前にこの取引を通知していなかった点などについて習近平主席が怒っている」と伝えました。同紙は「習主席ら最高指導部はパナマ港をトランプ政権と交渉する際に使う交渉カードと考えていたが、手を打つ暇もなくやられてしまった」とし、「党・政府機構まで乗り出したのは、米中の影響力争いの象徴とも言えるパナマ運河問題で米国に敗北したと映ることに対する習主席の不快感を反映している」と指摘しました。
騒々しい世論戦が展開されていますが、中国がこの取引を覆すカードはありそうにないのが現状です。ハチソンは香港に本社を置いているが、ケイマン諸島に登記する多国籍企業で、中国本土・香港地域の売上比率が全体の約12%にすぎません。強圧的な手段を使えば、トランプ政権も黙ってはいないでしょう。
崔有植(チェ・ユシク)記者