尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は2月25日、憲法裁判所で行われた弾劾審判に出廷し、68分間にわたって最終陳述を行った。以下は尹大統領が最終陳述で読み上げた77ページ分の原稿の全文(上中下全3回)。

■尹大統領の弾劾審判最終陳述全文(2025年2月25日)

 尊敬する憲法裁判官の皆さま、そしてこの裁判に関心を持って見守ってくださった、愛する国民の皆さま。昨年12月3日に非常戒厳(以下12・3非常戒厳)を宣布してから、84日がたちました。

 私の人生で一番大変な日々でしたが、感謝と省察の時間でもありました。私自身を再び振り返りながら、これまで私たちの国民に本当に過分な愛情をいただいてきたという気がしました。感謝の気持ちを抱く一方で、国民が仕事をしろと任せてくださった時間に自分の仕事ができずにいる現実が申し訳なく、胸が痛みました。一方で、多くの国民が依然として私を信じてくれている姿に、重い責任感も感じました。国民の皆さまに、申し訳ございません、そしてありがとうございましたという言葉を先に申し上げたいと思います。

 私が非常戒厳を宣布して数時間後に解除した際、多くの方々は理解できませんでした。今も戸惑っている方々がいると思います。戒厳という言葉から連想される過去の否定的な記憶もあるでしょう。巨大野党と内乱工作勢力は、これらのトラウマを悪用して国民を扇動しています。

 しかし、12・3非常戒厳は過去の戒厳とは全く違うものです。武力で国民を抑圧する戒厳ではなく、戒厳の形式を借りた国民への訴えです。12・3非常戒厳宣言は、この国が今、亡国的な危機状況下に置かれていることを宣言することであり、主権者である国民が状況を直視し、これを克服するのに共に乗り出してほしいという切迫した訴えです。

 何より、私自身、尹錫悦個人のための選択では決してなかったという事実をはっきりと申し上げることができます。私はすでに権力の頂点である大統領の座にいました。大統領にとって最も気楽で容易な道は、困難で危険なことを無理して行わず、社会のさまざまな勢力と適当に妥協して、全ての人に対して聞こえの良い言葉を言いながら任期5年を安穏に過ごすことです。働きたいという意欲を捨てれば、激しく戦うこともなく、難しい選択をすることもなくなります。そのように適当に働きながら5年過ごせば、退任大統領として礼遇を享受しながら安らかな老後を送ることもできます。私個人の人生だけを考えるなら、政治的反対勢力から激しい攻撃を受け得る非常戒厳を選択する理由は全くないのです。

 私は非常戒厳を決心した時、私に途方もない困難が訪れることを当然予感しました。

 巨大野党は、私が独裁をし、政権延長のために非常戒厳令を行ったと主張しています。内乱罪をかぶせようとする工作フレームです。

 本当にそんなつもりだったら、たった280人の実武装もしていない兵力だけを投入するようにしたでしょうか? 週末ではなく平日に戒厳令を宣布し、戒厳令を宣布した後に兵力を移動させるようにしたでしょうか?

 審判法廷の証拠調査によると、戒厳解除要求決議が行われる前に国会に入った兵力でさえも106人に過ぎず、本館まで入った兵力はわずか15人です。15人が窓ガラスを割って(国会に)入った理由も、自分たちの担当位置が(国会)本館であるのに入り口は市民にふさがれており、衝突を避けるために明かりの消えた窓を探して入ったのです。

 また、解除要求決議がなされた後、直ちに全ての兵力を撤収させました。

 投入された軍兵力があまりにも少数なので、国会周辺の警備と秩序維持は警察に要請しました。負傷した軍人はいましたが、一般市民には一人の被害も発生しませんでした。

 初めから私は(金竜顕)国防部(省に相当)長官に今回の非常戒厳の目的が「対国民アピール用」であることを明確に伝えました。また、国会の戒厳解除要求が迅速に続くことになるので、戒厳状態が長続きしないだろうと話しました。

 しかし、そのような内容を事前に軍指揮官にそのまま知らせることはできませんでした。そのため、最小限の兵力を実武装しない状態で投入することで、軍の任務を警備と秩序維持に確実に制限したのです。多くの兵力が武装状態で投入されると、いくら気を付けて自制しろと命じても群衆と衝突しやすいものです。そのようなことが発生しないように元から遮断したのであり、実際の結果も予想を外れていません。私が少数兵力、非武装、経験ある将兵、この三つを国防部長官に明確に指示した理由です。

 にもかかわらず、巨大野党はこれを内乱だと主張しています。兵力投入時間がわずか2時間にも満たないのに、2時間の内乱というものはありますか? 放送を通じて全世界、全国民に始めると告げて、国会にやめろと言われてすぐに兵力を撤収してやめる内乱をご覧になったことはありますか? 大統領が国会を掌握し、内乱を起こそうとしたという巨大野党の主張は、なんとか大統領を引き下ろすための政略的な扇動工作に過ぎません。

 大統領の法的権限である戒厳宣言に従って戒厳事務を行い、秩序維持業務を担当した公職者たちが、このような内乱フレーム工作によって今辛酸をなめているのを見て、胸が張り裂けそうです。この方々が大統領の長期独裁のために仕事をしたでしょうか。大韓民国の現実で長期独裁を想像もできないという事実をよく知っている方々で、すでに自分の分野で最高の位置に上がり、これ以上望むこともない方々です。この方々は大統領の法的権限行使によって任された職務を遂行しただけです。

 憲法裁判官の皆さま、そして国民の皆さま。大統領という立場で多くの情報を持って国政を眺めると、他人には見えないもの、表にはよく現れない問題点が多く目にとまります。当面は大丈夫そうに見えても、しばらくすれば大きな危機に直面することが大統領の視野には入ってきます。ゆっくりと加熱される釜の中のカエルのように、目の前の現実に気付かないまま、断崖へと向かっているこの国の現実が見えました。

 いつ危機ではない時があったのかと考える方もいるでしょう。しかし、これまでの危機が突発的な懸案の危機レベルだったとすれば、今は国家存立の危機、総体的システムの危機という点でその次元が全く違います。

 米国のトランプ大統領は就任初日に国家非常事態を宣言し、軍を投入しました。米国が国家非常事態なのかについての判断は異なる可能性があります。しかし、不法滞在者や麻薬カルテル、そしてエネルギー不足など、米国が直面している危機に立ち向かい、米国国民を守るための大統領の決断であることは明らかです。

 それでは、わが国の現実はどうですか? 国家非常事態ではないと、断言できますか?

 北朝鮮をはじめとする外部の主権侵奪勢力と韓国社会内部の反国家勢力が連携し、国家の安保と継続性を深刻に脅かしています。彼らはフェイクニュース、世論操作、宣伝扇動で私たちの社会を葛藤と混乱に追い込んでいます。

 差し当たって2023年に摘発された民主労総スパイ団事件だけを見ても、反国家勢力の実体を簡単に確認できます。彼らは北朝鮮の工作員と接触して直接指令を受け、軍事施設の情報などを北朝鮮に渡しました。北朝鮮の指令に従ってゼネストを行い、バイデン米大統領の訪韓反対、韓米連合訓練反対、梨泰院惨事反政府デモなどの活動を繰り広げました。さらに、北朝鮮の指示に従って選挙に介入した状況も明らかになりました。先の大統領選挙の直後には「大統領弾劾の火種を燃やせ」と具体的な行動指令まで出されていました。実際に22年3月26日、「尹錫悦(ユン・ソンニョル)先制弾劾」集会が開かれ、24年12月初めまでになんと178回もの大統領退陣、弾劾集会が開かれました。この集会には民主労総傘下の建設労組、言論労組などが参加し、巨大野党議員たちも登壇しました。北朝鮮の指令通りになったのではないですか? 

 「今の世の中にスパイがどこにいるのか」と言う人もいます。しかし、スパイはいなくなったのではなく、大韓民国の自由民主主義を倒す体制転覆活動へとさらに進化したのです。

 ところが、このようなスパイ活動を防ぐ韓国社会の防御膜はむしろ弱くなり、あちこちに穴が開いた状態です。

 共に民主党政権の立法強行で、2024年1月から国家情報院(韓国の情報機関)の対共捜査権が剥奪されてしまいました。スパイ団事件はノウハウを持つ機関で長期間緻密に内査、捜査をしなければなりません。ところが、まともに準備する時間もなく、専門性と経験が足りない警察に対共捜査権が渡ってしまいました。スパイが横行する環境をつくったのです。

 それに、せっかく捕まえても裁判が長期間放置される状況まで発生しています。現在裁判が進行中のスパイ事件が民主労総スパイ団、昌原スパイ団、清州スパイ団、済州スパイ団の4件にもなります。ところが、清州スパイ団事件は一審判決まで29カ月以上かかり、民主労総スパイ団事件も一審判決に1年6カ月がかかりました。彼らは拘束期間満了後に釈放され、一審判決で法廷拘束されるまで堂々と街を闊歩(かっぽ)していました。現在、昌原スパイ団事件は2年近く裁判が中断されており、済州スパイ団事件も1年10カ月間裁判が空転中です。彼らも全員釈放された状態です。スパイを捕まえることもできず、捕まえてもまともに処罰もできないのに、このような状況が果たして正常ですか?

 それでも巨大野党は民主労総を擁護するのに忙しく、国家情報院から対共捜査権を剥奪したのに続き、国家保安法廃止まで主張しています。警察の対共捜査に使われる特殊活動費まで全額削減して0ウォンにしました。一言で言うと、スパイを捕まえるなということです。

 昨年は中国人がドローンを飛ばして韓国の軍事基地、国家情報院、国際空港と国内の米軍軍事施設を撮影して、相次いで摘発されました。彼らをスパイ罪で処罰するためには法律を改正しなければなりませんが、巨大野党はかたくなに拒否しています。

 国の核心的な技術を流出させる産業スパイも最近急増しています。半導体、ディスプレーなど、技術流出による被害額は数十兆ウォン(数兆円)に達していますが、3分の2が中国に流出します。中国は写真1枚だけ間違って撮影しても韓国国民を思い通りに拘禁する強力な「反スパイ法」を施行していますが、巨大野党は産業スパイを防ぐためのスパイ罪の法律改正さえ妨害しています。

 また、巨大野党は防衛産業物資を輸出する際に国会の同意を得るようにする防衛事業法改正案を党方針として推進しています。防衛産業の秘密資料を国会に提出しなければならず、巨大野党が反対すれば、防衛産業物資の輸出もできなくなります。国会に提出された防衛産業秘密資料がきちんと保安維持され、敵対勢力に渡らないと誰が保障できますか? 防衛産業機密資料がこのように流出したら、相手国はわれわれの防衛産業物資を輸入しますか? 北朝鮮・中国・ロシアの望まない、自由世界への防衛産業の輸出をやめろ、と言っているのと同じです。

 防衛産業の輸出は、単にお金を稼ぐだけではありません。輸出相手国と戦略的連帯を強化し、さらに自由世界の多くの国家と国防協力を成し遂げ、韓国の安保を堅固にすることです。これらの防衛産業の輸出を奨励するどころか、妨害することが、誰の役に立つのでしょうか?

 巨大野党は韓国の国防力を弱め、軍を無力化することにも先頭に立っています。

 北朝鮮はウクライナに兵力を派兵し、ロシアと軍事密着を図っています。私たちにとって非常に深刻な安全保障上の脅威です。にもかかわらず、これを探るために参観団を送ろうとすると、巨大野党は当時、申源湜(シン・ウォンシク)国防長官の弾劾まで使って脅迫し、これを決死的に阻止しました。

 さらに巨大野党は、ウクライナ参観団の派遣、北朝鮮への拡声器や汚物風船への対応の検討など、韓国軍の正当な安保活動まで外患罪だと主張しています。国家と国民の安全を守ろうとする大統領を「戦争狂」と非難し、北朝鮮の核の脅威に対応する韓米日合同演習を「極端な親日行為」と罵倒しました。

 1回目の大統領弾劾訴追案には、「北朝鮮・中国・ロシアを敵視したこと」が弾劾事由だと明記もしました。190議席に達し、議会で圧倒的な力を持つ巨大野党が、韓国と韓国国民の味方ではなく、北朝鮮・中国・ロシアの味方になっているのです。こうした状況が国の危機的状況でなければ何だというのですか?

 これだけではありません。巨大野党は、中核となる国防予算を削減することでわが軍を無力化しようとしています。巨大野党は、全体の予算のうちわずか0.65%を削減しただけだと主張しています。しかし、その0.65%がどこであるかが重要なのです。まるで人の両目を取り除いて、体全体からわずかに目玉二つ抜いたと言うような話です。

 巨大野党が削減した国防予算はわが軍の目玉と同じ予算です。北朝鮮の核やミサイル基地を先制打撃する「キルチェーン」の中核となる偵察資産の予算を大幅に削減しました。核心戦力である位置偵察事業の予算を2024年比で4852億ウォン(約490億円)減額し、戦術データ・リンク・システムの性能改良事業はなんと78%削減しました。韓国国民に向けて飛んでくるミサイルを迎撃するKAMD、つまり韓国型ミサイル防衛システムの構築も予算削減で開発が中断される危機です。長距離艦対空誘導弾事業のために予算119億5900万ウォン(約12億円)を策定しましたが、96%削減し、4億ウォン(約4000万円)だけ残しました。精密誘導砲弾の研究・開発事業は84%削減しました。どんなに拳が強くても前が見えなければ戦えないように、監視偵察資産がなければどんなに良い武器でも無用の長物です。

 その上、最近北朝鮮のドローン攻撃が最も大きな脅威として台頭していますが、ドローン防御予算100億ウォン(約10億1100万円)のうち、何と99億5400万ウォン(約10億700万円)を削減して、事業を完全に中断させました。

 一体誰の指示を受けて、こんなに核心予算だけを選んで削減したのか気になるほどです。

(中)に続く。

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