コラム
社会主義国家の天才活用法【朝鮮日報コラム】 中国AIディープシークの謎
中国のスタートアップ企業「ディープシーク(Deepseek)」が発表し、世界を驚かせた高性能生成AIモデルは、「ミステリー」と考えられている。中国に対する米国の技術封鎖を乗り越え、革新を阻害するとされる中国の厳しい国家統制の中で誕生したからだ。自由主義陣営は不安を抱いている。「まさか、中国の社会主義式の挙国総動員体制(産・学・研および国民総動員)は、先端技術分野にも通用するということなのか?」
【写真】「AI女神」羅福莉さん
中国が技術分野で成果を上げる秘訣(ひけつ)として、政府の補助金、国家主導の産・学・研の協力、組織的な技術窃取などが挙げられる。しかし「創造力」を強調してきた中国の「若き天才の活用法」は見過ごされがちだ。ディープシークの成功は、政府が産・学・研を指揮して強固な先端技術の基盤を築いた後、その上に若くて身軽な「天才スタートアップ」を解き放つという道筋をたどったことで成し遂げられた。
ディープシークの創業者、梁文鋒氏は17歳で中国の名門大に入学して学んだ「純中国産」の人材で、30代前半の時に中国でAIベースの投資会社を設立した。先端産業の最前線に若き天才を指揮官として投入し、支援する中国の「少年兵戦略」は、過去にも例が少なくない。世界1位にのし上がったドローン企業DJI(2006年創業)や、短編動画共有SNS(交流サイト)のTikTok(2012年創業)はそれぞれ、大学の投資を受けた26歳の汪滔(フランク・ワン)氏と、「大衆創業(中国政府による起業支援)」政策の恩恵を受けた29歳の張一鳴氏によって設立された。昨年12月に中国証券市場で優良株として編入された半導体設計企業「中科寒武紀科技(カンブリコン)」、先月に中国中央テレビ(CCTV)の春節特別番組で紹介されたヒューマノイド企業「ユニトリー」も、30代の天才たちが設立したスタートアップだ。彼らは、第一世代の企業と政府が築いた「土台」を足がかりに、わずか1-2年で世界的な企業の仲間入りを果たした。中国のあるテクノロジー業界関係者は「『技術突破』という国家的課題を前にした中国は、国家主導経済の硬直性を補うために、新産業の最前線では若き天才が率いるスタートアップを前面に押し出している」と語った。
中国はなぜ、天才の登用に執着するのか。旧ソ連の前轍を踏まぬよう中国なりにもがいているのだろう。旧ソ連は1957年、人類初の人工衛星「スプートニク」を打ち上げ、技術力で米国の先を行ったかに見えた。ところが、次世代の先端技術である半導体やコンピューターなどの分野で米国に完全に圧倒されて独自開発に失敗し、最終的に冷戦の敗者となった。『半導体戦争 世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防 (原題:CHIP WAR)』の著者、クリス・ミラー氏(米タフツ大教授)は、旧ソ連の敗因が「模倣戦略」にあったとした上で、急速に発展する技術は単なる模倣では格差を縮めることができないと指摘した。
中国は、時に「変わり者」とも呼ばれる「若き天才」を投入し、支援することで、追随するだけでは勝てないといわれる先端技術の「戦場」で勝機をつかもうとしている。梁文鋒氏はディープシーク設立初期のインタビューで「米国と中国の格差は、独創性(米国)と模倣(中国)から生じる」と語った。つまり、今の中国の目標は米国の後追いではなく、独自の技術力の確保でなければならないということだ。自ら創造しなければ国は滅びるということを、社会主義国家も理解している。
北京=李伐飡(イ・ボルチャン)特派員