寄稿
再び「親中反米」と「親米反中」の岐路に立つ韓国【寄稿】
4年前、ある有名映画のせりふのように「戻ってくるぞ(We will be back)」という最後の言葉と共にホワイトハウスを去ったトランプ大統領が、予告通り帰還した。米国の国益に役立たない対外安全保障支援を縮小し、徹底した米国優先主義政策で力強い米国を再建する-という彼の執念の前に、米国の友邦国も敵国も非常に緊張した状態だ。トランプ大統領が公言してきた安全保障・通商秩序の大変革がどれほど実行に移されるのかについて、各国の関心が先鋭になる中、ホワイトハウスが就任初日からぶちまけている破格の行政命令は、変革に向けたトランプ大統領の意志がどれほど強いかを物語っている。
変革の核心目標は二つ。第一は、関税障壁・金融政策・技術統制など用い得るあらゆる手段を動員して、米国の圧倒的経済力を再建したいというものだ。第二は、軍事力・外交力・経済力を総動員して中国の覇権挑戦を壊滅させたいというものだ。第一の目標である経済力再建も、究極的には中国の経済的追撃を撃退するためのものであることを考慮すると、トランプ政権の最優先政策目標は事実上、一に中国、二に中国だ。トランプ政権1期目のころから本格化した米中覇権競争において決定的勝利を挙げ、中国が二度と覇権挑戦を夢見ないように没落させたい、というわけだ。そしてこれに必要な財源と軍事力を確保するため、同盟国に対する支援も協力も惜しみ、削減するというのだ。
こうしたトランプ政権を迎える韓国の立場は両面的だ。韓国は、中国をけん制する韓米日安全保障協力体の一員で、日本・台湾と共に中国に最も近接した軍事的要衝地、そして米国の重要な安全保障パートナーだ。主な対米投資国の一つであり、対中サプライ・チェーン・コントロール協力国でもある。反面、韓国はトランプ政権が手を打たねばならない主な対象国でもある。昨年の対米貿易黒字は557億ドル(約8兆6600億円)に達し、米国の貿易赤字の大部分を占めている。75年にわたる米国の安全保障支援と経済成長にもかかわらず、相互主義的安全保障支援と在韓米軍防衛費分担を非常に渋る。対中政策があいまいかつ二重的で、国内に強力な親中反米勢力が存在している。米国の東アジア最大の関心事である台湾問題と南シナ海問題にも極めて無関心だ。
こうした二重的な状況故に、韓国はトランプ政権の発足に備えて、他のどの国よりも早くから対策を立てておかねばならなかったのだが、混乱した国内政治により打つ手が中断され、放置された状態になっている。米国は1970年代以来、民主主義と人権の問題を除き、友邦国の国内政治に介入しないのが鉄則なので、韓国の国内政治的混乱も単に懸念の目で眺めるだけという様子だ。ただし最近の弾劾事態によって、韓国にかつてのような親中反米政権が樹立される可能性が小さくないという状況が次第に明らかになるに伴い、米国政府・議会・メディアからこれに対する深刻な懸念の声が上がっている。
特に米国の朝野は、韓国野党が米国の敵である朝・中・ロに対する「敵対視政策」を大統領弾劾事由として明記していた事実に驚愕(きょうがく)し、弾劾主導政治勢力のアイデンティティーに対してにわかに目を向けるようになった。トランプ政権が総力を傾けて対中出征の砲門を開いている時期に、最前方の同盟国に親中反米政権が樹立されて共同戦線から離脱したら、トランプ政権の対中戦略に大きな打撃となるからだ。かつての盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権と文在寅(ムン・ジェイン)政権当時の破局的韓米関係を記憶している与党共和党保守陣営の懸念は、一段と深刻だ。韓国政界と社会の底辺に対する中国共産党の膨大な抱き込み工作と国内政治介入疑惑も、懸念の対象だ。
米連邦議会下院アジア太平洋小委のヨン・キム委員長は最近、「韓国の弾劾主導勢力を含む複数の勢力が、韓米同盟と韓米日3カ国協力を毀損(きそん)しようと務めている」と警告した。もし大統領弾劾が現実になり、大統領選挙が行われるとなれば、韓国国民は米中対決の最前線において親中反米と親米反中の選択をしなければならないアイデンティティーの岐路に再び立つことになる。米中が死活を懸けた対決を繰り広げる新冷戦の世界で、「バランス外交」や経済的利益を名分とした二重的な対中政策は、もはや正当化も容認もされ得ない。韓国が望むと望むまいと、選択は避けられない。トランプ政権は、そのときまで韓国に対する圧迫と要求を一時保留する可能性があるが、もし韓国に親中反米政権ができたら、トランプ氏が公言してきた対韓不利益措置が一挙に現実になることもあり得る。
李容濬(イ・ヨンジュン)世宗研究所理事長・元外交部北核大使