裁判
韓国軍秘密エージェントの個人情報を中国軍に1億ウォンで提供した軍務員に懲役20年・罰金12億ウォン
中国政府に包摂され韓国軍のブラック要員(情報機関とは関係ない身分に偽装して活動する秘密エージェント)の個人情報など機密を流出してきた韓国軍情報司令部所属の軍務員A(50)に対し、懲役20年が宣告された。Aは中国軍に7年にわたり情報を提供してきたという。
中央地域軍事裁判所は21日、ソウル市竜山区の裁判所で開かれた公判でAに懲役20年、罰金12億ウォン(約1億3000万円)、追徴金1億6205万ウォン(約1750万円)を宣告した。韓国国防部(省に相当)間諜(かんちょう)団は昨年8月にAを軍刑法上の一般利敵、収賄、軍事機密保護法違反などの容疑で身柄を拘束し起訴した。先月の最終公判では無期懲役に加え罰金8億ウォン(約8700万円)、追徴金1億6205万ウォンが求刑された。
裁判長はAの起訴事実を全て有罪と認めた。裁判長は「被告は情報司令部工作チームのリーダーでありながら、国の安全保障に深刻な脅威を与えかねない2級軍事機密などを流出させ、清廉の義務があるにもかかわらず金銭を要求した」と指摘した。その上で裁判長は「流出した軍事機密には派遣された情報官らの個人情報などが含まれており、これらの機密が流出することで情報官らの生命や身体の自由にも明らかな危険が発生しただけでなく、情報官らが情報収集のために投じた時間や労力が全く活用できなくなる損失が発生した」とも批判した。
Aは「家族が脅迫されたので機密を流出した」と主張したが、裁判長はこれを受け入れなかった。裁判長は「被告の主張を裏付ける証拠はない」として「逆に被告が積極的に(脅迫犯に)金銭を要求する態度を示したため主張は信じがたい」と反論した。捜査当局によると、Aは機密流出の見返りに約4億ウォン(約4300万円)を要求し、他人名義の口座を通じて1億6205万ウォン(約1750万円)を受け取ったという。
法廷でAは短い髪型に黒い帽子とマスク、ダウンジャケットを着用していた。頭を深く下げ、判決を聞いてから法廷を出た。Aの裁判は軍事機密流出への懸念から非公開で行われていたが、一審宣告は公開された。
Aは1990年代から副士官として情報司令部に勤務し、退役後も2000年代中ごろに軍務員として情報司令部に再就職した。軍検察によると、Aは自らが構築した工作網に接触するため2017年に中国に渡ったが、その際に中国同胞(朝鮮族)の中国情報機関要員Bに抑留・包摂され、その後はBの指示で軍事機密を提供していた。Aは文書を領外に持ち出したり、また無音カメラアプリで撮影するなどしてこれらの機密ファイルを中国のクラウドサービスにアップロードする手口で情報を提供していたという。
軍検察はAが2022年6月から24年までファイル形式の文書12件、口頭での伝達18件の合計30件の情報を流出させた事実を確認している。Aが持ち出したファイルには中国やロシアなどで北朝鮮関連の情報を収集してきたブラック要員リストの一部、情報司令部の全般的な任務や組織編成、情報部隊の作戦方法と計画、特定地域の情勢判断などが含まれていた。これにより韓国軍要員らは一時帰国を強いられるなど、軍の情報網も大きな打撃を受けた。軍検察は17年から22年初めまでに流出した機密の内容、また17年から19年までに受け取った現金の額までは把握できなかったため、これらは起訴状に含めなかった。
Aに対する初動捜査を担当した国軍防諜司令部はスパイ罪を適用して軍検察に送検したが、軍検察はスパイ罪は除外した。現行の間諜法は「敵国(北朝鮮)を利するスパイ行為」のみを処罰の対象と定めているが、今回は北朝鮮の直接の関与を立証できなかったためだ。Aによる今回の事件でスパイ罪の対象を敵国から外国に拡大する改正案が国会法制司法委員会の小委員会で与野党合意で議決されたが、野党・共に民主党が「悪用の可能性がある」と主張し今も審議はストップしている。
ある韓国軍筋は「一般利敵罪で懲役20年が宣告されるケースは珍しい」とした上で「裁判長は厳罰が必要と判断したのだろう」と説明した。2018年に中国や日本に情報司令部要員の個人情報など100件の機密を提供した情報司令部の元工作チームリーダーは一般利敵罪で懲役4年が宣告された。
ヤン・ジホ記者