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メルケルが見た習近平「多国間協力は口だけ」
ドイツのメルケル前首相の回顧録「自由 記憶1954-2021」が昨年11月26日、世界32カ国で同時に出版されました。1954年に西ドイツのハンブルクで生まれ、東ドイツで成長し、2021年に16年間務めた首相職を退任するまでの経験を綴っています。
メルケル前首相は回顧録の中で、在任中に交流した米国のオバマ、トランプ大統領、ロシアのプーチン大統領、中国の習近平国家主席など各国の指導者について冷静かつリアルに評価しました。
プーチン大統領については、2007年にソチで会談した際、会談場に自分が怖がる犬を連れてきたことに触れ、「相手が自分を見下しているかどうかを観察し続け、常に他人を無視する準備ができている人物」と形容しました。トランプ大統領については「ドイツがまるで彼とアメリカから多額の借金だとしたかのように行動した。共通認識を探ったり、解決策を模索したりすることには何の関心もなかった」と指摘しました。
■「集団のために個人の自由制限、価値観違った」
メルケル前首相は欧州では代表的な親中派の人物として挙げられます。しかし、習近平主席と中国に対する評価は冷ややかでした。メルケル前首相は「集団の利益のために個人の自由を制限できると考える点で、習主席と根本的な見方の違いを感じた」と記しました。
初めて会ったのは、習氏が国家副主席兼中国共産党中央党校校長だった2010年のことでした。訪中時に中央党校に立ち寄って習氏と会い、学生らとの質疑応答の時間も持ったそうです。
東ドイツで育ったメルケル前首相は習氏と会談し、中国の政治体制や共産党の役割についてさまざまな質問を投げかけたということです。当時を振り返ったメルケル前首相は「社会のある集団が全ての人のための最適の道を把握して決定することはできず、それは自由の欠乏につながる。その点で習主席と価値観の違いを感じた」と書いています。
反体制派に対する弾圧や人権問題も取り上げました。メルケル前首相は訪中当時、危険を冒してドイツ大使館を訪ねてきた反体制派の人物に会い、個人的に彼らを支援することもあったが、中国の組織的な反体制派弾圧自体を変えることはできなかったと振り返りました。
■気候変化、投資協定では協力
そうした認識の違いにもかかわらず、メルケル前首相は経済や気候変動といった分野を中心に中国と現実主義的な外交を行いました。16年間の在任期間に12回も訪中し、胡錦濤、習近平両主席と会談しました。テレビ会談も10回行いました。訪中の際は北京以外に上海、南京、西安、成都、瀋陽などの地方都市も訪れました。退任を控えた2021年10月13日のテレビ会議で習主席は「メルケル首相は中国国民の長年の友人だ。情と義理を大切にする中国人は長年の友人を絶対に忘れない」と述べました。
メルケル前首相は2020年、欧州連合(EU)と中国による包括的投資協定(CAI)を合意に導きました。ドイツ企業が中国市場で不公平な待遇を受けず、欧州企業が広大な中国市場に容易に進出できるようにする狙いでした。
また、気候変動に対応するため、中国と積極的に協力しました。退任当時、中国は世界の温室効果ガス排出量の31%を占めていました。メルケル前首相は習主席が2020年に国連で「2060年までに炭素ゼロを達成する」と約束した点を挙げ、「ドイツはもちろん全世界にとって良いことだ」と述べました。
■一帯一路は開発途上国の対中依存度だけを高めた
回顧録には習主席が掲げる「中国夢」に関する内容が出てきます。メルケル元首相は2013年の習主席就任以来、あらゆる問題について討論する機会を持ったといいます。当時習主席は2000年間の人類の歴史について語り、「20世紀のうち18世紀は中国が世界経済と文化の中心だった」という点を強調したということです。19世紀の初めから遅れたが、それまでは世界の中心だったというのです。
習主席は「歴史的に正常な状態に中国を戻すべきだ」とし、それを「中国夢」と呼びました。2017年に習主席がトランプ大統領に会った席上、「韓国はかつて中国の一部だった」と発言したことが思い出されます。
中国夢を掲げる中国の攻撃的な動きについては批判的な見方を示しました。習主席は就任初期から東アジアと欧州、アフリカをつなぐ「一帯一路プロジェクト」を推進しました。習主席は多国間主義を実現するためのプロジェクトだと説明しましたが、メルケル前首相の考えは違いました。開発途上国に対する中国の投資が開発途上国の対中依存度だけを高め、開発途上国の主導権を大きく縮小させたからです。
■南シナ海で国際法を無視して勢力拡張
南シナ海全域に領有権を主張する「九段線」を引き、その内側にある島と海はいずれも中国の管轄だと主張したことも批判しました。2016年7月に国際常設仲裁裁判所が「中国の九段線主張は根拠がない」という判決を下したにもかかわらず、国際法を無視して南シナ海で勢力を拡大し続け、ベトナム、フィリピン、マレーシアなど周辺国の反発を招いたとの指摘です。
メルケル前首相はさまざまな事例に言及し、中国の政治家は多国間主義を口にしているが、「口だけだ」と切り捨てました。口では多国間協力と相互利益を掲げるが、実際には力で全ての問題を解決しようとしているというのです。現実主義の政治家らしい冷静な評価でした。
崔有植(チェ・ユシク)記者