検察や警察などの非常戒厳捜査が加速する中、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が被疑者として逮捕・拘束された場合に韓国の国政運営はどうなるのかを巡って幾つかの解釈が出ている。韓国憲法によると、現職大統領は内乱と外患の罪で刑事訴追を受けることがあり得るが、実際に捜査および起訴が行われたことはなく、参考にできる前例もない状況だ。

■「大統領の身柄拘束、『欠位』とは見なし難い」

 韓国憲法は「大統領が欠位となったとき、60日以内に後任者を選挙する」と定めている。欠位は大統領の罷免や死亡、辞任などのケースに限定される、と法曹界では解釈している。身柄を拘束されたことだけをもって「欠位」とみることはできないのだ。従って、ひとまずは「尹大統領が逮捕・拘束されても60日以内にすぐに大統領選挙をしなければならないわけではない」という見方が多い。

 車珍児(チャ・ジンア)高麗大学法学専門大学院教授は「韓国憲法上、欠位とは大統領のポストが空席になったり職務復帰の可能性がなかったりする場合を意味する」とし「逮捕・身柄拘束のように一時的な状況は、これに該当しない」と語った。同大学の金善択(キム・ソンテク)教授は「欠位とは大統領が死亡するなど、ポストの空席を意味するので、逮捕・身柄拘束の状況とはそもそも違う」とし「有罪が確定して大統領の地位や公務員の資格が消えて初めて、欠位と見なし得る」と語った。

■「大統領の身柄拘束は事故、職務停止されるべき」

 大統領が逮捕・身柄拘束状態にある場合、「大統領が職務を遂行できない『事故』状態に該当し、職務が停止されて首相など権限代行者が代わりを務めるべき」とみている憲法学者は多い。韓国憲法は「大統領が事故によって職務を遂行できないとき、総理などが権限を代行する」と定めている。この「事故」には疾病、療養、海外旅行、弾劾訴追による権限停止などが含まれる。

 憲法研究官出身の盧熙範(ノ・ヒボム)弁護士は「現職大統領は国家の重大事に関するさまざまな憲法上の権限を行使しなければならない。拘置所など拘禁施設で職務を遂行するのは当然不可能だ」とし「逮捕・拘束された場合は大統領の事故状態と見なして、権限代行者が業務を代わりに担当すべき」と語った。ある元職の憲法裁判官は「内乱など国家的犯罪の容疑をかけられて拘束された大統領が拘置所・刑務所で行政業務を遂行できるだろうか」と疑問を投げかけ「職務を遂行できないと解釈するのが妥当」と語った。憲法裁判所は2011年、「地方自治団体の長が拘束起訴された場合は副団体長が権限を代行する」と定める地方自治法に合憲の決定を下した。

 一方、尹大統領が身柄を拘束されたとしても保釈などで身柄の拘束が解かれた場合は職務停止が保留される、という解釈がある。高麗大学の車教授は「尹大統領が逮捕・拘束されたら権限代行者が国政を代わりに運営しなければならない」としつつ「もし拘束後に保釈を受けたら、事故状態は終了し、大統領が職務に復帰することになるだろう」と説明した。

 一部には、大統領の逮捕および身柄拘束は事故に該当せず、引き続き職務遂行が可能だ、という意見もある。韓国憲法学会副会長を務めた李鎬善(イ・ホソン)国民大学法学部長は「単に身柄が拘束されたということでもって職務を停止するのは、無罪推定の原則に反する」とし「最終確定判決で有罪・無罪が決定されるまでは、逮捕・拘束だけで大統領の職務を停止して権限代行を置くのは無理」と語った。

■権限代行者は現状維持の権限のみを行使すべき

 もし大統領の事故で首相など権限代行が国政を運営するとしても、行使できるのは政府を管理する程度の限定的な権限だけ、という解釈が支配的だ。韓国憲法上、大統領が持っている法案拒否権、条約締結および批准、外国首脳との会談、緊急措置の発令などの固有権限を代行者が用いるのは不適切、というわけだ。盧熙範弁護士は「選出されていない権限代行が大統領の職務をそのまま遂行するのは正しくない。現状維持的な権限のみを行使すべき」と語った。

 ただし、各部処(省庁に相当)の長や憲法裁判官など高位公職者が空席の状況で後任を任命するのは可能、という意見が多い。元職のある憲法裁判官は「特に、国会が推薦した裁判官や大法院長(最高裁長官に相当)の求めによる大法官(最高裁判事に相当)の任命などは形式的な手続きであって、権限代行者が代わりに行うことができる」と語った。

パン・グクリョル記者、パク・ヘヨン記者

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