▲イラスト=UTOIMAGE

 高病原性鳥インフルエンザA(H5N1)・ウイルスが人間に大流行した場合、通常の考え方とは違い高齢者の方が若い世代よりも抵抗力が強い可能性があるとの研究結果が公表された。年齢が高いほど過去に同じようなウイルスに感染した経験のある人が多く、免疫力がついているためとみられる。

 米ペンシルベニア大学の研究チームが1927年から98年の間に生まれた19-90歳のフィラデルフィア市民121人の血液サンプルから抗体を分析した。その結果は11月2日に未発表論文公開サイト「メドアーカイブ(medRxiv)」で公表された。

 H5N1ウイルスは主に鳥類に感染するが、表面のヘマグルチニン(HA)は5型、ニューラミニダーゼ(NA)は1型だ。HAはウイルスが人間の呼吸器細胞に付着する際の鍵の役割を果たし、NAは増殖後に細胞を突き破らせる。ウイルスは宿主を何度も感染させ、この二つのタンパク質の形態を変える方向に進化していく。

 過去のH5N1感染事例では高齢者は若い世代に比べて感染する確率が低かった。専門家は「高齢者はH5N1に近いH1N1、H2N2にすでに感染した経験があるためでは」と推測している。H1N1は1918年に豚から人間に感染して世界中に広がり、H2N2は57年から68年まで大流行した。

 研究チームはH1N1あるいはH2N2への感染経験がある人はそうでない人と比べて免疫力に違いあるか調べるため、121人の血液サンプルから抗体を調べた。その結果、1968年以前に生まれH1N1またはH2N2に感染した人は、68年以降に生まれた人に比べてH1N1、H2N2、H5N1の共通部分に結合する抗体が約3倍多かった。

 この抗体とH5N1ウイルスを人体の細胞で結合させたところ、抗体はウイルス感染を防ぐことはできなかったが、免疫細胞がウイルスを破壊するシグナルを送ることを確認した。ポルトガル・リスボン大学のマルク・ベルトフェン教授は「この種の抗体はH5N1感染による重症化や死亡のリスクを下げることができるだろう」と説明した。

 ただしベルトフェン教授は「抗体が多い場合でも、高齢者は免疫システムが加齢により弱くなるので、重症化するリスクが高い可能性はある」と警告した。免疫力が高くても安心せず、ウイルスが広がった場合はすぐにワクチンを接種すべきだという。抗体が少ない若い世代にワクチン接種が求められるのと同様だ。

 研究チームは2005年にH5N1ワクチンテストに参加した100人の血液サンプルも分析した。ワクチン接種前の10歳未満の子供の抗体は成人に比べて低かったが、ワクチン接種後は抗体の数値が成人に比べて8倍高くなることが分かった。つまり若い世代はワクチンにより高齢者よりもさらに免疫力がつく可能性があることを意味する。

 オランダ・フローニンゲン大学のアンケ・フークリエデ教授は「H5N1が人間に感染した場合、今回の研究結果はワクチンによる感染対策に大きく役立つだろう」「ただしそんなことは絶対に起こってほしくない」とコメントした。

■参考資料

medRxiv(2024), DOI: https://doi.org/10.1101/2024.10.31.24316514

ホン・アルム記者

ホーム TOP