コラム
謹弔花輪にあふれる国【朝鮮日報コラム】
死んでもないのに弔花を送る。流行といえば流行だ。
ソウル市城東区聖水洞のSMエンターテインメントの前に、謹弔花輪1000個が設置された。韓国の人気ボーイズグループ「RIIZE(ライズ)」のメンバー、ホン・スンハン氏(21)の脱退を要求し、10月11日にファンが送り付けたものだ。プライバシーにかかわる問題でしばらく活動を中断していたホン・スンハン氏が1年ぶりに芸能活動への復帰を発表したところ、これに反対するために取られた集団行動だった。花輪1個につき、およそ菊100本が使われている。近くの花屋で菊の品切れ現象が生じるほどだった。真夜中のオフィス街が一瞬にして葬儀場へと変貌する最も韓国的な光景だ。ある英国人ファンは「謹弔花輪は本来、死を敬虔(けいけん)に哀悼するためのものではないか」とし「尊重の文化が誰かを苦しめる戦術として使われているのが恐ろしい」と、米国NBCニュースのインタービューに答えた。
故人にささげる花が、実力行使の手段として使用されている。11月4日には京畿道城南市盆唐区のネイバー本社前に謹弔花輪10個が送られた。連載中のネイバー・ウェブトゥーン「異世界ポンポン男」には、女性嫌悪的な表現が多数使用されている、と主張する一部のネチズン(インターネットユーザー)によって行われたものだ。歩道に弔花と黒いリボンがはためく殺風景を醸し出した。ネイバーの向かい側には住宅街が広がっており、すぐ横には小学校と中学校が位置している。昨春には保健福祉部(日本の省庁に相当、医大増員反対)、夏には大韓サッカー協会(洪明甫〈ホン・ミョンボ〉監督選任反対)にそれぞれ大量の謹弔花輪が配達された。裁判所、テレビ局、市役所など、ほとんど全てのホットプレース(注目の場所)に謹弔花輪が設置される。誰も死んでいないのに「死んだ」という宣言だけが独り歩きしている。
謹弔花輪はコストパフォーマンスに優れた小道具だ。ある価値の喪失を強調し、視線も確実に引き寄せることができる。1個当たり約5万ウォン(約5500円)で、当日無料で配送され、設置まで受け持っている。法的にもやましい部分は一切ない。昨年の地方選挙当時、道知事候補らを誹謗(ひぼう)する内容の謹弔花輪を約50個設置した市民団体の代表が無罪を言い渡された。選挙期間中、花輪設置を禁止する選挙法条項も「表現の自由を過度に制限する」との理由から、憲法裁判所で違憲判決を受けた。今では腹立たしいことさえあれば、即座に謹弔花輪を送り付ける。物量攻勢を通じた勢力対決の様相まで呈している。警察側。謹弔花輪を集会用品と見なすほどだ。
デモの道具になってしまった「死」のメタファー。暗い闇夜にまるで白装束を身にまとった幽霊のように立っている一連の謹弔花輪を見ていると、わざわざ夜中に菊を鑑賞したという茶山・丁若鏞(チョン・ヤクヨン)のエピソードが思い出される。「ろうそくをともすと、奇妙な模様と形が瞬く間に壁面いっぱいに現れた。ユン・イソ(親戚)が驚いて大声を上げながら足を踏み鳴らし、膝を打って感嘆した。何とも言えない奇妙な光景だ。天下にまたとない光景だ」(与猶堂全書)。菊ではなく、菊の影を観察することが重要な理由だ。奇妙な風景をじっと見つめていると、そこで意外な瞬間が明らかになったりするものだ。
先月、京畿道城南市の書峴小学校の前に100個以上の謹弔花輪が並んだ。保護者や近隣の住民らが発注したものだった。深刻な校内暴力が発生したのだ。6年生の女子生徒1人を同級生5人がいじめた事件だ。砂が混じったお菓子を食べるよう強要したという。50メートルほどの通学路が白菊で覆われた。処罰と対策づくりを促す教育当局に向けたショック療法だった。ただし、保護者たちは次のような注意事項を互いに共有したという。「謹弔リボンに悪口や過度な誹謗を書くことは絶対禁止。小学生が見ているので応援の言葉、立場をわきまえた表現を使用する」。謹厳であればあるほど、重く長くのしかかるのであった。
チョン・サンヒョク記者