▲2021年5月14日、慶尚北道星州郡草田面韶成里のTHAAD基地の様子。/写真=ニュース1

 文在寅(ムン・ジェイン)政権時代に韓国大統領府が、THAAD(高高度防衛ミサイル)の韓国正式配備を遅らせるため、THAADミサイルの交換に関する韓米の軍事作戦の日程などをTHAAD配備反対派の市民団体に漏らしていたという。そうした状況が監査院の監査で捕捉されたことが18日までに分かった。また監査院は、文在寅政権が中国との外交関係を理由に、事前説明という形で駐韓中国大使館所属の武官にTHAADミサイル交換の作戦名や作戦日時、作戦内容などを事前に知らせた疑いがあることもつかんだと伝えられている。韓国政府が中国に事前説明したことに関連して、米国が、当該軍事作戦の終了後に韓国政府に強く抗議したことも分かった。

 監査院は、これらの疑惑について捜査を通して究明する必要があるとみて、今月初めに鄭義溶(チョン・ウィヨン)元国家安保室長、徐柱錫(ソ・ジュソク)元国家安保室第1次長、鄭景斗(チョン・ギョンドゥ)元国防相、李奇憲(イ・ギホン)元大統領秘書室市民参与秘書官(現・共に民主党議員)の4人について軍事機密保護法違反、職権乱用、業務妨害などの容疑で大検察庁(最高検に相当)に捜査要請した。監査院は、2級秘密に該当するTHAADミサイル交換関連の軍事作戦の内容を市民団体の関係者や外国軍(中国軍)将校に知らせたことは軍事機密保護法違反に当たると判断した、といわれている。大検察庁は18日、「監査院が送ってきた資料についての検討が終わり次第、事件を一線の検察庁に割り当てる予定」と発表した。

 先に昨年7月、韓国軍の元将官の集まりである大韓民国守護予備役将星団は「文在寅政権が2019年12月の大統領訪中に先立ち、THAAD正式配備のための環境影響評価を意図的に遅延させた疑いがある」として監査院に公益監査を請求した。監査院は、将星団の請求のうち一部は事実である可能性があるとみて、昨年10月から特別調査局を投入して国防部(省に相当。以下同じ)・外交部など11の機関を対象に監査を進め、軍事機密流出の疑いがあることをつかんだという。

 THAADは米ロッキード・マーチン社が開発した弾道ミサイル迎撃システムで、北朝鮮の核・弾道ミサイルの脅威に対応する在韓米軍の中心的な武器システムだ。レーダーとランチャー(発射装置)、地対空ミサイルなどで構成されている。中国は、THAADのレーダーが自国の弾道ミサイル発射を早期に探知することに使われかねないとしてTHAADの韓国配備に強く反発してきた。有事の際に中国が発射する大陸間弾道ミサイル(ICBM)をTHAADが早期に探知する場合、米中間の核のバランスが崩れかねないのだ。

 韓米両国は朴槿恵(パク・クンヘ)政権時代の16年にTHAADを韓国に配備することとし、翌年4月に慶尚北道星州郡韶成里のゴルフ場にTHAADを臨時配備した。その後、THAAD反対派の市民団体が「THAADのレーダーから出る電波が人体に害を及ぼしかねない」と主張すると、韓米両国政府は小規模な環境影響評価を行って反対派の主張が事実であるかどうかを検証することとした。しかし17年5月に就任した文大統領は、環境影響評価の実施計画を再検討せよと指示し、17年7月に文在寅政権は、6カ月以内に終わる小規模評価ではなく1年以上かかる「一般環境影響評価」を行った後に、その結果に基づいてTHAADの正式配備を決定したい-と発表した。

 ところが文在寅政権は、任期が終わるまでの5年間、一般環境影響評価のための評価協議会を立ち上げなかった。19年2月に米国が環境影響評価を受けるため事業計画書を韓国政府に提出し、韓国政府は環境影響評価法に基づいて政府と住民代表、民間専門家などが参加する協議会を立ち上げなければならなくなったが、関連の手続きを進めなかった。これに関連して昨年、「文在寅政権の関係者が19年12月の文大統領訪中を前に評価協議会の立ち上げを引き延ばした」という事実が国防部の文書公開に伴って発覚した。監査院では、文在寅政権の大統領府関係者が、THAADの正式配備を遅らせるためこうしたことを意図的に行ったのではないかと疑っているという。

 監査院は、20年5月29日のTHAADミサイル交換のための韓国軍と在韓米軍の共同作戦を、文在寅政権の大統領府・国防部関係者が事前に外部に漏らしていた状況も把握したという。韓米は同日の夜、奇襲的に輸送作戦を開始してTHAAD基地にある古いミサイルなどの装備を交換しようとした。THAAD関連の装備搬入を妨害する住民や市民団体関係者との衝突を避けるためだった。しかし実際には、作戦の過程で住民と警察の間でもみ合いが起きた。監査院では、大統領府関係者がTHAAD反対派の市民団体側に作戦日時をあらかじめ知らせ、これによって反対派が搬入阻止に乗り出すことができたと疑っていることが分かった。

 文在寅政権は、中国の反発を抑えるとして中国政府に何度も「事前説明」を行った。19年2月に在韓米軍が事業計画書を提出した翌日も、文在寅政権は外交チャンネルを通して中国政府に関連事項を説明した。THAADミサイル交換作戦の当時も、文在寅政権は「さまざまな外交ルートを通して中国側に事前説明を行い、理解を求めた」という。

 しかし監査院では、こうした「事前説明」に2級秘密に該当する軍事作戦の内容が含まれているなど、通常の外交的説明の水準を超えるものと判断していることが分かった。これに関連して、当時の大統領府関係者らは、監査院の調べに対し「外交的な理由でそうした」と主張したと伝えられている。だが中国政府は、THAADミサイルの交換作戦の直後、「米国は中国の利益を害してはならず、中韓関係も妨害してはならない」と反発した。米国も、韓国が中国に「事前説明」をしたことについて、軍事作戦後に強く抗議したという。

 文在寅政権時代の大統領府に勤務していた人物は、監査院が検察に捜査を依頼したことと関連して「常識的に話にならない」とし「対応する価値はない」とコメントした。

キム・ギョンピル記者、イ・スルビ記者

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