▲尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領/NEWSIS

 第1次トランプ政権は一方的な米国優先主義政策と突発的な行動による衝撃の連続だった。トランプ氏は第1次政権で中国との貿易戦争を宣言し、周辺国には常に経済的圧力を加え、また同盟国に対しても機会があるたびに安全保障に対する見返りを求めた。近く成立する第2次政権も基本的にはこれと変わらないだろう。米国と経済・安全保障の両面で同盟を結んできた韓国としては再び不確実な状況に直面することになった。

 現在韓国は貿易分野における米中対立と世界的なサプライチェーン再編の影響を受けており、最大の輸出相手国も中国から米国になった。このような状況で第2次トランプ政権が再び保護貿易に乗り出した場合、韓国経済にとって大きな負担になるだろう。昨年韓国の対米貿易黒字は445億ドル(約6兆8000億円)と過去最高を記録した。そのため欧州、日本、ベトナムほどではないだろうが、韓国もトランプ氏の標的になる可能性は十分に考えられる。

 トランプ氏は「全ての輸入品に10-20%の基本関税、また中国製品に対しては最高で60%の関税をかける」と明言している。これにより今後米中の関税戦争が起こった場合、韓国が中国と米国に輸出している中間財の輸出も減少するだろう。対外経済政策研究院(KIEP)によると、米中の関税戦争が起これば韓国の輸出額は最大で448億ドル(約6兆9000億円)の減少が見込まれているが、これは韓国の輸出全体の7%に相当する額だ。輸出がこれほどの打撃を受ければ国内総生産(GDP)は0.4%も減少するという。

 トランプ氏はまた米国国内に半導体、電気自動車(EV)、バッテリーなどの工場を建設する外国企業への補助金をストップするとしている。サムスン電子、SKハイニックス、LGエナジーソルーションなど半導体やバッテリー関連の企業は米国が補助金を約束したため米国に工場を建設したが、トランプ氏が補助金を止めれば詐欺にだまされるようなものだ。韓国企業が受け取る補助金は12兆ウォン(約1兆3000億円)を上回るという。トランプ氏は公約で「米国国外で生産された自動車には100%の関税をかける」と明言したが、これが実行された場合、韓国の自動車業界も大きな打撃を受けるだろう。韓国の自動車輸出で米国向けが占める割合は50%に達している。

 今後はまず対米貿易構造の見直しが必要になるだろう。トランプ氏が石油やガスなどの産業分野を育成する考えを明確にしている以上、米国からの原油や天然ガス輸入を増やす方向で検討する必要が出てくるはずだ。一方でトランプ氏が国家戦略産業の対中輸出全面禁止を明言したことは韓国経済にプラスになるだろう。これにより半導体分野などで中国の追撃をかわす時間を稼ぐことができ、長期的には韓国の産業競争力と輸出を拡大するチャンスにもなるからだ。

 トランプ氏の外交政策は米国による安全保障に対し各国に金を出させることがそのポイントだ。トランプ氏による同盟国評価の基準は価値ではなく金だが、その要求する額はあまりに法外だ。トランプ氏は口癖のように韓国を「マネーマシン」と呼び「100億ドル(約1兆5000億円)は出すべきだ」と要求してきた。防衛費分担金を現在の9倍出せということだ。トランプ氏を除く米国政府関係者はほぼ全員が「韓国が負担している在韓米軍駐留経費の額は合理的」と語るが、トランプ氏にはこれが通用しない。就任すれば直ちにこの問題から持ち出してくるはずだ。

 トランプ氏の満足できる回答を韓国が提示できない場合、トランプ氏は在韓米軍の規模縮小をちらつかせてくる可能性が高い。第1次政権当時も実際にトランプ氏は「在韓米軍撤収」に触れたため、スタッフらが「第2次政権での優先課題」とすることで何とか納得させた。つまり韓国としては在韓米軍撤収要求にどう対応するかが今後の大きな課題として突き付けられた。韓米日による経済・安全保障協力強化を定めたバイデン政権とのキャンプ・デービッド宣言が紙くずとなる恐れもある。

 トランプ氏は北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記との親密な関係を誇示し「核兵器を持つ指導者と良好な関係を築くことは良いことだ」と発言した。そのためトランプ氏が再び大統領に就任した後の近い将来、金正恩総書記との会談が再び実現する可能性も出てくるだろう。金正恩総書記は今ロシアへの北朝鮮軍派兵の見返りに大陸間弾道ミサイル(ICBM)、軍事衛星、原子力潜水艦など先端軍事技術をロシアから受け取ろうとしている。そのためトランプ氏が今後金正恩総書記といかなる妥協点を見いだすかは韓国としても神経質にならざるを得ない。

 トランプ氏は「米中首脳会談ショー」を通じ「米本土を狙う北朝鮮のICBM廃棄と核開発凍結で米国は安全になった」と主張した。つまり韓国国民の安全にはさほど関心はないのだ。金正恩総書記はこの点を突いてトランプ氏とひそかに駆け引きを行うだろう。そうなると韓国は名前だけの米国の核の傘で北朝鮮と対峙(たいじ)しなければならないが、一方でギブ・アンド・テイク方式のこのトランプ外交を逆手に取る発想も必要になってくる。トランプ氏が在韓米軍撤収をちらつかせ非常識な防衛費分担金を要求してくれば、反対に韓国は独自の核武装などを訴えられるはずだ。

 トランプ氏が来年1月にホワイトハウスに入れば、尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権は今後2年以上にわたりトランプ氏と歩調を合わせねばならない。個性が強く称賛されることを好むトランプ氏のような政治家とは個人的な関係が重要になってくる。日本の安倍晋三元首相はトランプ氏が前回大統領に当選した直後から金で装飾されたゴルフセットをプレゼントし、機会があるたびにトランプ氏を大きくもてなした。尹大統領がトランプ氏とそのような関係を築くことができれば、金正恩総書記との危険な取り引きや在韓米軍撤収、韓国に対する貿易制裁や不利益などを阻止できるだろう。今後韓国はトランプ政権の経済・安全保障政策全般をしっかりと把握し、懸案ごとに事前に対策を立てていかねばならない。それができれば第2次トランプ政権発足に伴う危機を大きなチャンスにできるはずだ。

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