▲グラフィック=ヤン・インソン、キム・ヒョングク

 中国政府が10月29日、反スパイ法違反の疑いで韓国人が逮捕していたことが分かった。中国外務省の林剣報道官は同日の記者会見で、「韓国公民がスパイ罪の疑いで中国の関係当局に逮捕された。中国は法治国家であり、法に従って犯罪活動に対処する」と述べた。外交筋によると、2014年に中国が反スパイ法が制定して以降、韓国人が同法に基づいて拘束されたのは初めてだという。逮捕されたのは、元サムスン電子社員で安徽省合肥市に住み、中国の半導体企業に勤務していた50代の韓国人A氏で、昨年12月に自宅から連行された後、今年5月に正式に拘束され、合肥の拘置所に収監された。

 中国が自国内に住む韓国人にスパイ容疑を適用すると、中国で活動する技術産業従事者の活動が大幅に萎縮しかねないという懸念が示されている。昨年9年ぶりに改正された反スパイ法は適用範囲が曖昧で広範囲だと指摘されてきたが、実際に韓国人が拘束されたことで、中国にいる韓国の技術産業従事者による活動は制約を受けることが避けられなくなった。韓米日の密着を警戒してきた中国が韓国を対象に「スパイ追及」という新たな交渉カードを悪用する可能性も指摘されている。

 中国はこれまで主に日本人に反スパイ法を積極的に適用し、外交カードとして活用してきた。中国で2014年に反スパイ法が施行されて以来、少なくとも17人の日本人が中国側の法律で処罰された。大半は学者と企業関係者だった。日本人に対するスパイ罪の適用は東シナ海問題、台湾問題で両国関係が悪化した時期に集中した。

 中国で反スパイ法によって拘束された外国人が無罪判決を受け釈放されるケースはほとんどない。日本経済新聞によると、反スパイ法の適用を受けた日本人は起訴後、例外なく有罪判決を受け、外交交渉を通じてのみ釈放された。最近記者と会った北京の日本外交筋は「日本の駐中大使の主な業務の一つは、スパイ罪で服役中の日本人と定期的に接見することだ」と話した。

 昨年3月に北京で逮捕され、同年9月に刑事拘留された製薬会社アステラス中国法人の日本人幹部の事件は、中国が反スパイ法を外交の交渉カードとして活用した事例として挙げられる。逮捕された男性は中国で20年以上駐在員として勤務し、進出企業の商工会議所組織である中国日本商会の副会長を務めたこともある「中国通」として知られる。男性が逮捕された翌月、日本の林芳正外相が北京を訪れ、中国の秦剛外相(当時)と会い、男性の釈放を要求したが、中国当局からは「法律に従って処理する」という原則論的な回答があっただけだった。林外相と会った中国の高官は「新しい時代にふさわしい中日関係を構築することを望む」と圧力をかけてきたほどだ。東シナ海で尖閣諸島(中国名・釣魚島)を巡る紛争がエスカレートしていた時期だった。外交特権を持つ外交官も反スパイ法を回避できない。昨年2月、北京では日本の外交官がスパイ容疑が持たれていた中国人ジャーナリストと食事していたところ、ホテルの部屋に連行され、取り調べを受けた。

 公式統計はないが、中国が西側諸国の国民に反スパイ法を適用した事例も、少なからず明らかになった。今年初め、中国の情報当局である国家安全部は、中国で45年間勤務していた英国人男性が、海外に違法に情報を提供したとして、スパイ罪で懲役5年の刑を受けたことを明らかにした。裁判終了から数カ月後に突然公開された事実だ。中国は英国で起きた「中国人スパイ事件」の余波を和らげようとしたのではないかとの分析が聞かれる。当時英国警察が議会の研究員をスパイ容疑で取り調べるなど、英国内で中国人スパイ論争に火がついていた。スパイ罪で3年間拘束されていた中国系オーストラリア人ジャーナリストのチェン・レイ氏は昨年10月に釈放されたが、これは中国とオーストラリアの関係が回復した時期とかみ合う。 

 中国が韓米日の密着と韓半島問題などで韓中関係が複雑化する中、自国内の韓国人を「外交上の人質」として利用し、対中政策の変化を促したり、交渉を有利に運ぼうとしたりする可能性も指摘されている。韓中は半導体、製薬など先端技術分野での交流が盛んだが、それに関与する韓国人技術従事者の安全が危うくなったとの懸念もある。中国はこれまで韓国の技術者やハイレベル人材を誘致するために「スパイ活動」を自粛していたが、今回の事件でそうした慣習は事実上破られた。改正反スパイ法施行初期には、海外の学識者やメディアは同法が中国と関係がぎくしゃくしている日本、英国、カナダなど西側の大国を標的にすると推測したが、予想が外れた格好だ。中国が「技術上の突破」を達成し、先端技術分野における韓国への依存度が低下したことも関係しているとみられる。北京駐在の企業関係者は「中国に対するボイコット運動が起きるリスクがあるにもかかわらず、中国当局が韓国の技術者に対する反スパイ法の適用を強行したことに注目すべきだ」と話した。

 外国企業に協力する中国人に対する監視や締めつけは、中国が反スパイ法で狙っている副次的効果だ。米国企業に勤めた経歴がある中国籍女性が昨年12月、スパイ容疑で拘束された事件が代表的だ。女性は居住地のカタール・ドーハを発ち、昨年12月、中国南京の禄口空港で入国する際、突然姿を消した。米国籍の夫によると、チャンさんは家族に「着陸したが、空港から出られなかった」というメッセージを送ってきたという。

 中国で愛国主義が広がり、外国人に対する視線がますます険悪になっているということも、中国で活動する韓国人には懸念材料だ。外国記者は中国のことを歪曲(わいきょく)する扇動家で、外国企業関係者は中国の膏血(こうけつ)を絞る資本家や先端技術を狙うスパイだとの見方が蔓延している。長い付き合いがある中国人の事業パートナーや学者から突然会えないと言われた人も少なくない。一部の中国人の間では「外国人すなわちスパイ」という認識も生まれている。国家安全部は最近、大学生にスパイ識別法を教育している。

北京=李伐飡(イ・ボルチャン)特派員

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