記者手帳
「国民視線」のリーダーシップを掲げる国民の力・韓東勲代表の矛盾【記者手帳】
「評価は白書ではなく、国民が下すものだ」
今年4月の韓国総選挙が終わって201日後に発表された与党の「総選挙白書」について、与党国民の力の韓東勲(ハン・ドンフン)代表が示した反応だ。韓代表は白書の公表に不快感を隠さなかった。
韓代表の反応は予想されていた。与党内では総選挙から半年が過ぎても白書の発表が見送られたことについて、韓代表が抵抗を感じているためだという説が公然とささやかれていた。総選挙当時、非常対策委員長として陣頭指揮を取った自身に対する責任論が盛り込まれており、韓代表は快く思っていないのだ。
白書は当初今年6月に公表される予定だったが、韓代表の党代表選出馬で見送られた。当時親韓東勲系は「白書の発表は韓東勲氏の再登板を阻むためではないか。正当性を失った」と述べ、白書に反対した。韓代表は9月、「総選挙白書の発表が遅れている」という指摘に「私は関与していない」と答えた。
白書特別委は国会の秘書陣、国民の力役員、担当記者など544人のアンケート調査を実施した。その結果に基づき、各地域の総選挙出馬者と党内外の青年による懇談会などを開き、総選挙の敗因を深層分析して白書に盛り込んだ。韓代表は就任以降、ずっと「国民視線」を叫んできたが、党内外の数百人による数カ月の議論の末にまとめた白書を無視する態度はそれと矛盾している。
韓国政界では韓代表の「国民視線」というものさしが大統領室に対してのみ当てられているとの指摘が出ている。韓代表は尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領との会合で、金建希(キム・ゴンヒ)夫人を巡る3大要求が受け入れらなれなかったことを受け、「11月15日までに夫人問題を解消しなければならない」と最後通告を行った。11月15日は共に民主党の李在明(イ・ジェミョン)代表に対する一審判決が出る日だ。また、民主党の北朝鮮人権財団理事推薦とは別に、特別監察官の任命推進に着手すると宣言した。いずれも「国民視線」を名分に掲げた。
しかし、党内外でははばかることのない韓代表の行動を懸念する人も少なくない。特に尹大統領との会談翌日、親韓東勲系の約20人を呼び、これ見よがしに晩餐会を開き、与党・政府の対立激化を心配する党員と保守支持層の不安をかき立てた。大統領の親族と側近の不正行為を監察する特別監察官の任命方針もやはり党のツートップである秋慶鎬(チュ・ギョンホ)院内代表との事前協議なしで言いだし、親尹錫悦系と親韓東勲系の内紛だけを際立たせたと批判されている。与党が特別監察官を巡って内部対立を見せると、野党は「金建希特別検事だけが答えだ」として、すきを狙っている。
どんな意図であれ、任期の折り返し点を控えた大統領と全面的な権力闘争に乗り出すような行動は、政権の成功を後押しすべき与党代表として不適切だ。党内事情に詳しい国民の力の院外関係者は「韓代表に支持者が期待したのは、尹大統領と近い立場で民心をきちんと伝え、積極的に意思疎通を図る姿だったが、大統領室と戦ってばかりいてもどかしい」と胸の内を明かした。
国民の視線に合わせ、政府・与党が変わらなければならないという韓代表の状況認識に反対する人はほとんどいないだろう。しかし、大統領室と国民の要求の間に接点を見いだし、与党議員を説得して実質的な成果を出すのが党代表のリーダーシップであることを韓代表は忘れてはならない。政府・与党の対立が長引くほど、国民の疲労感は高まり、国政課題を議論する政府・与党の政策協議も円滑に行われない。政府・与党幹部による協議会は8月25日から2カ月間開かれていない。より洗練された方式で大統領室、党内と柔軟に意思疎通し、政府・与党の対立を解決すべきという国民の声にも韓代表は耳を傾けてほしい。
パク・スクヒョン記者