社説
中国・改正反スパイ法施行後初の韓国人逮捕者、韓国はやられてばかりでいいのか【10月30日付社説】
中国で半導体関連の仕事をしていた韓国人が昨年12月に反スパイ法違反の容疑で逮捕され、拘禁中であることが28日に報じられた。中国が昨年7月にスパイ容疑の適用範囲を拡大した「改正反スパイ法」を施行した時から懸念されていたことだが、初めての韓国人に適用されたものだ。サムスン電子半導体部門に勤務していたことがあるこの中国在住韓国人は、一時所属していた中国の半導体会社の情報を韓国に流出させた容疑が持たれているという。米中の半導体戦争のはざまにある韓国の半導体関連人材の中から、同様のケースが今後も発生する可能性が取り沙汰されている。
今年1月、ロシアでは北朝鮮の伐採作業員や脱北者らを助けた韓国人宣教師がスパイ罪で現地当局に拘束されるということもあった。事案の性格はやや違うが、今年7月に同盟国である米国でも、韓国国家情報院職員と親しくしていた米国人の韓半島(朝鮮半島)専門家が米国政府に申告せずに韓国政府のために働いたという「外国代理人登録法(FARA)」違反で起訴された。
数カ月の間にこのようなことが相次いで起こっているのは偶然ではない。米国と中露の対立、それに伴う新冷戦の様相、技術競争激化、ウクライナ侵攻やイスラエルとハマスの戦闘などにより、世界は今、情報戦争の真っ最中だ。それだけ他国の情報活動に各国が敏感になっている。一部の全体主義国家では、外国人をスパイ容疑で逮捕した後、相手国との交渉に利用している。外国に住む韓国人においては格別の注意が必要だ。
だが我々韓国人は、外国が韓国国内で行っている反国家情報活動を処罰する法的根拠さえ整えられずにいる。これは深刻な問題だ。韓国の刑法と韓国軍の刑法はいまだに「敵国(北朝鮮)」のための行為のみをスパイ罪により処罰している。韓国軍情報司令部の軍務員が中国朝鮮族に韓国のスパイ要員の身元を流出させた事件をきっかけに、スパイ罪の適用対象を「敵国」ではなく「外国」に変えようという議論が政界でわき起こった。ところが、法改正されたという話はない。外国の代理となって韓国国内で活動する人々を「外国代理人」として登録させ、誰がどの国のために働いているのか明確に分かるようにしようという「外国代理人登録法制定案」も発議されたが、これも国会で止まっている。
米国の同盟国でありながら、北朝鮮・中国・ロシアに囲まれている韓国は、激しい情報戦の対象だ。対共捜査権(スパイや左翼犯罪者などを捜し出し、国家保安法違反の疑いを適用・捜査する権限)を剥奪され、外国のスパイも起訴できない韓国国家情報院は手足を縛られているも同然だ。韓国国民は外国でスパイ容疑をかけられているのに、韓国では本物の外国人スパイを処罰できない。韓国国会の法改正が急がれる。