▲グラフィック=ペク・ヒョンソン

 「アメリカファースト」を掲げたトランプ元大統領が返り咲く可能性、北朝鮮軍の派兵でウクライナ戦争を新冷戦に導くロシア、尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権と友好的関係が予想されていた日本の石破首相率いる与党の衆院選過半数割れなど、韓国を取り巻く外交・安全保障環境が急変している。米国が最も警戒していた欧州・中東の「二つの戦争」が同時に長期化局面に入り、米国の対外政策で韓半島はさらに後退している。かつてないほどさまざまな要素が複雑に影響しているのだ。韓国の外相経験者は28日、本紙の電話取材に対し、「現在韓半島周辺は複合的で非常な状況であるので、それに見合う非常の対応が必要だ。昔のレインコートを着て、傘を差せばよい状況ではない」と話した。

 国際政治専門家の多くは最近、韓半島の安保情勢が前例のないほど混乱しているとの見方に同意している。梨花女子大北朝鮮学科の朴元坤(パク・ウォンゴン)教授は「逆説的に韓国を巡る外交・安保情勢が長期間不透明になるという点だけは確実だ。その方向が否定的だという点も間違いない」と述べた。峨山政策研究院のチャ・ドゥヒョン首席研究委員は「体制危機を突破するために核開発に乗り出した北朝鮮、改革開放で国内問題への対応に追われたロシア、韓国の役割拡大論が浮上していた米国など、現在の状況は1980年代後半と非常に似ている」としながらも「当時は冷戦体制が解体されるという安定的な方向に振れていたが、今は逆方向に向かっていることが問題だ」と指摘した。

 1週間後に迫った米大統領選では、韓国と在韓米軍に対して否定的な認識を持つトランプ元大統領が勢いを増している。トランプ氏が当選した場合、尹錫悦・バイデン・岸田体制で急速な進展を遂げた韓米日3カ国の協力体制が再び後退するか、バイデン政権が約束した拡張抑止(核の傘)も安心できない状態になると懸念されている。

 ただ、これまでの国際秩序で中心的な役割を果たしてきた米国の自国優先主義、保護貿易主義などは今に始まったものではない。慶熙大政治外交学科の徐正健(ソ・ジョンゴン)教授は「米国は元々非介入主義、米国優先主義の国であり、ソ連と理念戦争を戦い、国際主義を取った期間はむしろ米国の歴史全体から見れば極めて例外的だ」と述べた。韓国の国力が過去よりも高まっただけに、能動的で実用的なアプローチを通じ、危機を機会とすべきだ。

 専門家はトランプの不確実性がむしろ機会になることもあり得ると指摘した。千英宇(チョン・ヨンウ)元外交安保首席秘書官は「対米関係においては、しっかりしたシステムが作動する民主党よりも個人的な趣向が意思決定により重要な役割を果たすトランプ氏の方が韓国には容易な面があるだろう」と話した。トランプ氏とは「取引」を通じ、韓国が望む核燃料再処理、ウラン濃縮の権利などを確保する可能性もあるからだ。朴仁国(パク・イングク)元駐国連大使は「韓米共同コンソーシアムを組み、ロシアが支配している濃縮ウラン供給網を再編することや、英国・ドイツが独寡占する潜水艦市場で技術同盟を結びたいというビジネス的な取引提案は、ハリス氏よりトランプ氏の方がむしろ受け入れる確率が高い」と話した。

 ロシアに派兵された北朝鮮軍は、早ければ今週からウクライナ戦線に投入されるという観測も出ている。一部には韓国政府の関心がウクライナに向いている間に北朝鮮が証拠が残りにくい2010年の天安爆沈のような挑発行為に及ぶ可能性も議論されている。 

 ただ、戦争の長期化でロシアの国力が消耗している点、北朝鮮軍の韓国に対する軍事的対応が一時的ではあるが思うようにいかない点などは、韓国にとって悪いことではないという分析されている。千元首席秘書官は「これを機にウクライナと防衛産業協力を本格化し、北朝鮮軍が投入されたロシア領土に韓国の武器を提供するのではなく、北朝鮮軍が配置されていない地域に提供するなど、知恵を発揮すべき要素は多い」と話した。

 尹錫悦政権は昨年3月、強制徴用関連の第三者弁済案で韓日関係を正常化した後、主に自民党の知韓派との間で来年の韓日国交樹立60周年に備えてきた。しかし、27日の衆院選で自公連立与党が惨敗し、仮に政界再編となれば、すべての議論がやり直しになる状況だ。中国が混乱に乗じて台湾海峡で軍事行動に踏み切る可能性も指摘されている。中国政府は習近平主席3期目を機に、自国領と見なす台湾を統一する意欲を強調している。

 朴元大使は「日本は沖縄南西の与那国島が台湾から116キロしか離れておらず、中台戦争が起きれば自動的に介入するほかないと考えるため、韓国がこの問題に対し何をできるのか戦略を研究すべきだ。トランプ政権になっても韓日が単独で話すより『ワンボイス』を出せば(影響力が)強まるので、韓日が連携した活動戦略が重要な時期だ」と述べた。

 専門家は韓国が対外的に「経済は中国、安全保障は米国」といった戦略的あいまい性を掲げる時期は過ぎたと見る。また、今のような非常期には大統領室と外交部が危機意識を持ち、対外戦略を全面的に見直す必要があるとの指摘も出ている。ある元外交官は「現在の危機状況を乗り越えるには、大統領室がもっと戦略的でなければならない。竜山(大統領室)内部の少数の頭脳から出てくる考えだけでは、この波を乗り越えることは難しい。 安保危機を克服する特別組織が必要かもしれない」との認識を示した。

李河遠(イ・ハウォン)記者、朴国熙(パク・ククヒ)記者

ホーム TOP