▲グラフィック=クォン・ヘイン

 10月1日の「国軍の日」に、怪物ミサイルと呼ばれる「玄武5」弾道ミサイルが初公開されたことを受け、中国は緊張している様子です。玄武5は弾頭重量が8トンと、世界で最も弾頭が重いミサイルです。有事の際に、地下100メートルの深さのバンカー(掩蔽壕〈えんぺいごう〉)に隠れる北朝鮮指揮部や核施設をたたくためのミサイルです。

 玄武5は、8トンの弾頭を積んだときは射程が300キロですが、弾頭重量を1-2トンに減らせば射程は中距離弾道ミサイル(IRBM)水準の3000-5500キロに伸びるといいます。中国はこの点を懸念しています。事実上、中国の東風26(DF26)に近いIRBMで、中国の領土の半分以上が玄武5の射程内に入るのです。

 9軸の車両を利用した移動式発射台、高圧ガスでミサイルを押し上げて空中で点火するコールドローンチなどにも不審そうなまなざしを向けています。防空能力が足りない北朝鮮を狙ったミサイルにしてはあまりに高性能で、事実上、中国けん制を念頭に置いて開発したのではないか、というわけです。

■発射重量はDF26の1.6倍

 中国メディアは、このミサイルが事実上のIRBMだという点にフォーカスして報道しました。官営の澎湃新聞は「弾頭重量を1トンに減らせば射程は5000キロに達する」とし「韓半島はもちろん、北東アジアの多くの地域が射程内に入る」と伝えました。新浪ドットコムも「コールドローンチ方式などを含め、中国軍のIRBM『東風21』の初期形態に似ている」「玄武5ミサイルの長距離発射能力を軽く見てはならない」と記しました。

 ある軍事ブロガーは「大陸間弾道ミサイル(ICBM)に迫るミサイル」だと言いました。中国のDF26、ロシアのイスカンデル、インドのアグニ3など、主要国の中距離および短距離弾道ミサイル(SRBM)の弾頭重量は500キロから2トン程度です。

 中国は2015年9月の「世界反ファシズム戦争勝利70周年」軍事パレードで、グアム島攻撃用IRBMのDF26を初公開しましたが、玄武5をこのミサイルと比較する分析はかなりありました。「韓国版DF26」というわけです。DF26は射程が5000キロで長さ15メートル、直径1.7メートル、総発射重量は20トンです。玄武5は長さ16メートル、直径1.6メートルで総発射重量は36トン。玄武5の発射重量はDF26の1.6倍(原文ママ)になるわけです。

■「中国を狙って迎撃回避機能も備える」

 玄武5の性能に対しても神経をとがらせています。玄武5はイスカンデルと同じ形の弾頭を用い、ターミナルフェイズ(最終的な段階)で変則機動が可能だといいます。防空網での迎撃は容易ではないでしょう。

 中国の軍事ブロガーは、韓国軍がいずれ機動再突入体(MARV)、複数個別誘導再突入体(MIRV)なども開発して玄武5に搭載するだろう、との見方を示しました。MARVは、弾道ミサイルが大気圏に再突入する際に機動飛行しつつ、レーダー誘導によって正確に目標をたたく弾頭を指します。MIRVは、このような弾頭が複数入っている再突入飛行体だと言えます。それだけ迎撃は容易ではなくなります。

 中国は、防空網が貧弱な北朝鮮を相手にわざわざこんな技術を開発する必要はないだろう、とみています。射程も900キロくらいあれば北朝鮮をたたくには充分、というのが中国側の見方です。にもかかわらず射程がはるかに長く、迎撃回避機能まで備えた玄武5を開発したのは、事実上、濃密な防空網を備えた中国を狙ったものだ-というのが中国側の分析です。

■「潜水艦用のSLBMを開発するのか」とピリピリ

 9軸の車両に設置した移動式発射台も同様です。移動式発射車両は、戦闘機の空襲などに備えて発射位置を隠すためのものですが、北朝鮮にそれほどの空軍力があるのか、というのです。

 コールドローンチの発射方式にも懸念を見せています。玄武5を潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)として活用することもできるのです。SLBMを積んだ韓国海軍の潜水艦が西海に潜航して玄武5を発射したら中国全域が打撃範囲に入る、というわけです。

 中国は、米軍が今年4月にフィリピン北部のルソン島に配備した中距離ミサイル「タイフォン」の部隊に頭を悩ませています。米国は、台湾侵攻抑止のため沖縄一帯にもタイフォンを配備する案を日本と協議中です。こうした状況で玄武5が大挙実戦配備されたら、米国の同盟諸国の中距離ミサイル包囲網に閉じ込められる、という分析が出ています。ある軍事ブロガーは「玄武5は北京、天津、瀋陽など華北や東北の主要都市はもちろん、青島の北海艦隊基地、寧波の東海艦隊基地なども攻撃できるだろう」と語りました。

■「国力に合った威嚇能力を持とうという狙い」

 中国国内の専門家らは、韓国が単に北朝鮮の核の脅威に対応するにとどまらず、国力に見合った戦略的威嚇能力を構築しようとする狙いがある、とみています。長期的に米国・日本などと共に中国とロシアをけん制するための集団安全保障体制をつくろうとしているのではないか-という分析も行っています。

 人民解放軍の大校(上級大佐)出身で、官営の中国中央テレビで軍事評論家をしている杜文竜は「大型ミサイルを9軸の移動式発射車両に載せて輸送と発射、保管を一体化するのは典型的な長距離ミサイルの輸送・発射方式」だとし「北朝鮮に対する大量報復にとどまらず、中国東部沿岸やロシア極東地域までたたく能力を備えようという意味」だと分析しました。その上で「米国の戦略的枠組みの中で支援を受け、アジア版NATO(北大西洋条約機構)のような体制を構築しようとする目標もあるのだろう」と語りました。

崔有植(チェ・ユシク)記者

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