▲朝鮮デザインラボ=チョン・ダウン

 米国が今年4月にフィリピン北部のルソン島に配備した中距離ミサイルが、中国の頭痛の種になっています。米国は、フィリピン軍と合同軍事演習を行うという名目で持ち込んだミサイルランチャーを引き揚げず、これまで6カ月にわたり駐屯させ続けているからです。永久駐屯に入るのではないかという話まで出ています。

 タイフォン(Typhon)という名前のこのシステムは、車両を用いた移動式のミサイルランチャーで、最大射程2500キロのトマホーク巡航ミサイルなどを発射できます。有事の際、台湾海峡を渡る中国海軍の艦艇はもちろん、東部戦区司令部をはじめ中国南東部沿岸の主な空軍飛行場・海軍基地・ミサイル基地などが射程内にあります。

 中国は、韓国のTHAAD(高高度防衛ミサイル)配備のときと同じように、フィリピン政府をいじめています。しかしフィリピンはこうした圧迫に屈さず、自国の防衛のために米国からタイフォンのシステムを買いたい、と言い出しました。さらに米国は、タイフォンのランチャーを沖縄などに配備する案を日本政府と協議しているという事実を公表しました。

■冷戦後、初の海外配備

 米陸軍は今年4月7日、C17「グローブマスター3」輸送機を利用して、ワシントン州のルイス・マッコード統合基地(JBLM)にいたタイフォン中隊をルソン島に移しました。4月中旬にフィリピン軍と合同で行う「サラクニブ(Salaknib、盾)」演習に参加する、という名目でした。

 タイフォンはトマホーク、SM6ミサイルなどを陸上から発射する移動式ランチャーで、米国の防衛関連企業ロッキード・マーチンが開発しました。トマホークは中距離巡航ミサイルで、防空網を回避しつつ目標を精密攻撃することで有名です。湾岸戦争で大活躍しました。韓国海軍も迎撃用として使っているSM6は、最大射程が460キロの対空・対艦ミサイルです。これらのミサイルは、今まで米海軍が主に運用してきましたが、陸軍も使用できるように陸上発射用へと改造したといいます。

 タイフォン中隊のフィリピン展開は、米軍が冷戦後初めて海外に中距離ミサイルを配備した、という意味を持っています。米国は1987年、当時のソ連との間に結んだ中距離核戦力全廃条約(INF条約)に基づき、射程500キロから5500キロまでの地上発射型の中距離・短距離弾道ミサイルおよび巡航ミサイルを全て廃棄しました。しかしロシアが短距離地対地弾道ミサイル「イスカンデル」を開発し、中国がグアム島や日本などを狙う中距離地対地ミサイルを大量に開発しておよそ2000基を配備したことから、2019年に米国のドナルド・トランプ大統領(当時)がこの条約の破棄を宣言しました。その後、タイフォン・システムを開発し、初めて実戦配備したのです。

■フィリピン、中国からの撤収圧力に対し「直接購入する」と反発

 中国は強く反発しました。中国国防部(省に相当)の呉謙報道官は「中距離ミサイルは冷戦の色彩が濃厚な戦略的かつ攻撃的な武器」だとし「地域の戦略的均衡を揺るがす措置で、断固として反対する」と表明しました。

 王毅外相は7月末、ラオスでフィリピンのエンリケ・マナロ外相と会談し「米軍の中距離ミサイル配備は地域内の緊張と衝突を呼び、軍備競争を触発する」として「これはフィリピン国民の利益と希望に背くこと」と主張しました。強烈な反発にもかかわらず、米軍がぴくりとも動かないことから、中国はフィリピン側を圧迫し始めたのです。

 フィリピンは一時、萎縮した雰囲気でした。フィリピン陸軍は7月初め、「予定されていた訓練が全て終われば、9月ごろタイフォン中隊は撤収するだろう」と言いました。しかしこの発言以降、タイフォン撤収の話は一切出てきません。

 フィリピン軍のロメオ・ブラウナー・ジュニア参謀総長は8月29日の記者会見で「われわれは安全保障上の状況に効果的に対応するため、より多くの先端兵器が必要だ」とし、タイフォン・システムを購入する意向を明らかにしました。中国としては「やぶへび」な格好です。米国は今年7月末、フィリピンに5億ドル(現在のレートで約720億円)の軍事援助を提供すると発表しましたが、この資金でタイフォン・システムを買うという意味だとみられます。

■中国軍の主な拠点に対する精密打撃が可能

 中国がタイフォン中隊のフィリピン配備を懸念するのには訳があります。ルソン島は台湾海峡から600キロしか離れていません。ここに配備された米軍の中距離ミサイルは、台湾海峡侵攻を指揮する中国軍の東部戦区司令部や傘下の空軍基地・海軍基地・ロケット軍基地など戦略拠点を全て攻撃できます。

 中国のある軍事ブロガーは、ポータルサイト「捜狐ドットコム」に寄稿した記事で「中国海軍の艦艇の70%、空軍基地の50%がタイフォン・システムの射程に入っている」と言いました。

 米国は、射程2775キロに達する「ダーク・イーグル」長距離極超音速兵器(Long-Range Hypersonic Weapon/LRHW)も、実戦配備に入ったといいます。この部隊がルソン島に入ったら、北京も安心できなくなります。

■米陸軍長官「日本への配備も協議中」

 米陸軍は2017年、インド・太平洋地域で中国やロシアをけん制するため、多領域機動部隊(Multi-Domain Task Force/MDTF)を創設しました。従来の地上作戦部隊よりも中長距離打撃能力を備えたミサイル部隊、電子戦部隊、無人機部隊などを組み合わせた総合戦力概念の陸軍部隊です。

 タイフォン中隊とLRHW中隊も、このMDTFの傘下にあります。これまでに三つのMDTFが作られましたが、このうち二つが米陸軍太平洋司令部に配備されています。さらに米国は、タイフォン・システムの日本配備も推進しています。クリスティン・ウォーマス陸軍長官は9月4日、ある防衛フォーラムで「今年8月の日本訪問時に木原稔防衛相とMDTFの日本配備について話し合った」と明かしました。中国の反発を気にせず、フィリピンに続いて日本にも中距離ミサイルを配備したい、という意味です。これまで東風17(DF17)、東風26(DF26)のような中距離ミサイルで米国を脅かしてきた中国が、逆に米国から中距離ミサイルを突き付けられる状況になりました。

崔有植(チェ・ユシク)記者

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