▲イラスト=UTOIMAGE

 広東省深センで9月18日、現地の日本人学校に通う小学5年生の男子児童(10)が40代の中国人の男に凶器で刺されて死亡するという事件が起き、中日関係が急流にのまれています。ちょうどこの日は、日中戦争の始まりとなった満州事変の93周年に当たる日でした。

 3カ月前の今年6月にも、江蘇省蘇州で幼稚園に通う日本人男子児童と母親が50代の男に凶器で襲われ、けがをする事件がありました。6月上旬には吉林市で米国人の大学講師4人が不審者に襲われ、けがをする事件も起きています。

 中国内外では、習近平主席の政権獲得後に噴出した過度の民族主義と無分別な対日報復扇動が呼んだ悲劇、という分析が出ています。幼稚園児や小学生を狙って残酷に凶器を振り回し、「義和団運動が復活した」という声まで出ています。

 今回の事件は、ただでさえ海外投資の減少で困難に直面している中国経済にとって少なからぬ負担になるものとみられます。既に始まった日本企業の中国撤退が加速し、外国人の中国観光も大幅に減るとみられるのです。

■中国でも「残酷な殺りく」という批判が集中

 事件は9月18日午前7時55分ごろ、深セン市南山区の深セン日本人学校付近で起きました。登校中だった5年生児童に近づいてきた鍾という名の44歳の中国人の男が、凶器を振り回したのです。犯人は現場で逮捕されました。児童はすぐに病院へ搬送されて治療を受けましたが、翌日の早朝に亡くなりました。児童の父親は日本人、母親は中国人と伝えられています。

 蘇州の事件も、降園途中の幼稚園児がターゲットでした。6月24日午後4時ごろ、園児の乗るスクールバスが停留所に止まって児童の降りる機に乗じて、周という名の52歳の男が児童の母親と児童に向けて凶器を振り回しました。バスの案内員をしていた中国人女性の胡友平さん(54)が児童と母親をかばって刺され、命を落としました。胡さんの犠牲によって児童と母親は助かりました。

 罪もない子どもたちをターゲットにした犯罪に、中国国内でも怒りの声が上がっています。深セン日本人学校の正門にも、亡くなった児童を哀悼する中国人の足は絶えませんでした。

 政法大学の陳碧教授と北京大学の趙宏教授は9月21日、ソーシャルメディア「微信(WeChat)」内の法律フォーラムにアップしたコメントで「狂ったようなポピュリズムと理性を喪失した反日復讐(ふくしゅう)教育がこの事件の根本原因だと思うが、だからといってこんな殺りくと残虐行為は文明社会において容認し得ないこと」だとし「愛国を旗印にした暴力扇動をこれ以上放任してはならない」と訴えました。

■党幹部「日本人を殺すのが中国人の規律」

 中国政府はこの事件を、単純な刑事事件であるとして縮小に懸命な様子です。外交部(省に相当)の林剣報道官は「いたましい事件だが、こうした事件はどの国でも起こり得る」と述べました。王毅外相も9月23日、米国ニューヨークで開かれた中日外相会談で「日本はこの事件を政治化したり拡大したりすべきでない」と主張しました。

 しかし、こんな発言を吹き飛ばすように、二つの事件を巡って中国のソーシャルメディアには依然として反日復讐をあおるコメントがあふれています。犯人らを「抗日英雄」と持ち上げるコメントもあるのです。

 四川省農村エネルギー開発センターの副主任で甘孜州新竜県の副県長を兼ねる黄如一氏(41)は、微信のコメントで「幼い子どもを一人殺すことのどこが大事件か。数百人殺してもいい」「罪もない子どもを殺りくしたのではなく日本人を殺したのだ」「中国人の規律は日本人を殺すこと」と書き込みました。彼は四川大学で工学博士号を取った共産党のエリート中間幹部だといいます。

 中国当局は、遅まきながら反日コメントの検閲に乗り出しました。ポータルサイトの騰訊、百度や動画プラットフォームのティックトック、快手などは「中日対立を扇動した」という理由でそれぞれ数百件のコメントを消し、アカウントを削除する措置を取ったと発表しました。

■海自の護衛艦、初めて台湾海峡を航行

 日本は外交的対応に乗り出しました。 柘植芳文外務副大臣は9月23日に北京で中国外交部の孫衛東副部長と会談し、中国国内の日本人の安全と、ソーシャルメディア内の根拠なき反日扇動の取り締まりを要請しました。国連総会に出席するためニューヨークに向かった上川陽子外相も、王毅外相に事件の原因についての究明や安全措置などを要求しました。

 9月25日には、海上自衛隊の護衛艦「さざなみ」がオーストラリア、ニュージーランドの艦と共に台湾海峡を航行しました。自衛隊の艦艇が台湾海峡を航行するのは初めてです。

 中国政府が守勢に立たされている様子は明らかです。蘇州の事件は発生から既に3カ月が経過し、日本政府が繰り返し公表を要請しているにもかかわらず、中国側は犯行の動機を隠し続けています。日本産の水産物輸入を再開すると決めるなど、対日融和策を打ち出していますが、局面の転換は容易ではない見込みです。

■日本企業の中国撤退、加速する見込み

 日本企業は、現地駐在員や家族の帰国の支援に乗り出しました。パナソニックは一時帰国しようとする駐在員と家族の帰国費用を提供しており、東芝とトヨタは現地駐在員に対して安全に留意することを求める通知を送ったといいます。

 一時は15万人に達していた中国居住日本人は、現在は10万人程度まで減りました。過去3年間で日本に戻ったり米国・インドなどに生産基地を移したりした日本企業も2000社近いといいます。三菱、ホンダ、ブリヂストンなどが続々と中国国内の工場を減らしたり、閉鎖したりしました。

 今回の事件で日本企業の中国撤退は加速するものとみられます。金杉憲治・駐中日本大使は9月24日、大連市を訪問した際「深セン事件は両国関係に暗い影を落とした」とし「日本企業の対中ビジネスが重大な分岐点を迎えた」と語りました。

崔有植(チェ・ユシク)記者

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