▲スーツケースいっぱいに貼られた偽物の手荷物ステッカー。/ネイバーストア

 「百パーセント本物と同じ、絶対にバレません」

 コピー商品を紹介する際にはこんなフレーズが常習的に使われるが、この製品はちょっと不思議だ。「スーツケースを新調したけど、なんだか物足りないですか? 物足りなくて、旅行初心者のように見えますか? あなたのスーツケースをもっと価値のある、豪華なものにしましょう」。そうなのだ。空港で荷物を預けるときに航空会社のスタッフがスーツケースに貼ってくれる「手荷物ステッカー」を販売するオンラインショップが登場したのだ。ステッカーはもちろん偽物だ。人々の自己顕示欲に付け込んだニッチな商品らしく、ほとんどが「仁川-パリ」といった長距離路線が印刷されている。「アシアナ航空など韓国国籍航空会社のさまざまなデザイン、ニューヨーク・ロサンゼルス・ドバイなど有名都市の表記、航空会社コードまでこだわりました」

 海外旅行は大金と時間がかかる行為だ。長さ5センチほどのちっぽけなステッカーがスーツケースに何十枚も貼ってあるというのは「私はちょっとばかりお金があるのよ」と声を出さずに主張しているようなものだ。偽物の手荷物ステッカーには、座席のクラス(ビジネス)や特別会員(ゴールド)の証なども表記されており、虚栄心を満たしてくれる。「スーツケース所有者の品格まで考えた」という悲しくなるようなアピールポイントまである。価格はステッカー約30枚で1万ウォン(約1090円)程度だ。たった1万ウォンで、飛行機代に1億ウォン使った金持ちのように振る舞えるわけだ。ステッカー購入者の一人は「ステッカーを貼ったら何度も旅行に行ったような感じに見えるし、よりファッショナブルな気分」と話した。

 偽物を買う理由は一つだけ。本物を買うことができないからだ。できる限り本物そっくりに見せたいからだ。最近ではポルシェやフェラーリなど「偽の輸入車キー」(中国製)を売るオンラインショップもできた。「車を買う金はないけれど、スーパーカーのオーナーだと思われたい」という虚栄心に付け込んだ商品だ。ソウル大心理学科の郭錦珠(クァク・クムジュ)名誉教授は「本当のお金持ちは見栄を張ったりしないし、決して他人の目を引くような振る舞いはしない」として「精神的な貧しさと未熟さを丸出しにする行為に他ならない」と指摘した。

 偽物の手荷物ステッカーは全く意味のない代物だが、「本物」のスーツケースを危険に陥れる可能性もある。特に、小さな空港では荷物が誤った目的地に運ばれる確率が高くなるという。仁川国際空港公社の関係者は「手荷物を分類する際、一般的には『クレームタグ(スーツケースの持ち手に巻く長いタグ)』のバーコードを主に使うため、ステッカーは補助用ではあるが、一部の空港では二つを見比べるダブルチェックが行われている」「ステッカーが何枚も貼ってあるとシステムエラーを起こす可能性があるため、使用済みのステッカーはスーツケースから必ず剥がしておかなければならない」と話した。

 空港は不特定多数の旅行者が行き交う空間であり、所持品で自分の水準を自慢したいという欲望を刺激する。最近、Z世代(1990年代半ばから2000年代前半生まれ)の間で「空港の保安検査台での携行品撮影」が流行しているのも、こうしたことが背景にある。保安検査の際、X線検査台に灰色のプラスチックトレーを置いてブランドバッグなどの高級アイテムをきれいに並べ、「認証ショット(証拠写真)」を撮ってSNS(主にTikTok)に投稿するのだ。小さなファッションショーのようなものだ。一部では「人生をキュレーション(情報やコンテンツを収集し、新たな価値を与えて共有すること)しようという欲求」であり「日常の芸術」と主張する声もある。この遊びが「空港トレーの美学」と呼ばれる理由だ。

 混雑する場所で撮影に熱中する集団が増えていることから、不満の声も高まっている。「こうした行為によって飛行機に乗り遅れる人が出てくるかもしれない」(米ニューヨーク・ポスト)、「空港で最も恨まれる人になりかねない不安なトレンド」(英メトロ)などの指摘もでている。ネットでは「あまりにも物質主義的な光景だ」「早朝5時に財布やリップグロスなどを丁寧に並べるために保安検査台の前をふさいでいる人がいたら、こちらは気が狂いそうだ」「ジョン・F・ケネディ空港でこんなことをしていたらテーザー銃で撃たれるかも」などの意見が見られた。

チョン・サンヒョク記者

ホーム TOP