▲兵庫県西宮市の阪神甲子園球場で行われた全国高校野球選手権大会(夏の甲子園)決勝で優勝を決めた直後、マウンドで抱き合う韓国系国際学校・京都国際高校の選手たち/NEWSIS

 京都国際高校が8月の夏の甲子園で優勝し、大韓民国が歓喜に包まれた。わずか数年前まであまり知られていなかった小さな高校の野球部が甲子園で優勝するのはすごいことだ。ただこの優勝について韓国で報じられている内容を見るとあまりに違和感がある。韓国での報道はどれも京都国際高校の優勝を「韓国人の勝利」としており、あるラジオ番組では興奮のあまり司会者が「韓国の魂が勝った」と声を上げていた。

 これに対して日本では京都国際高校の優勝を「韓国人の勝利」などとは誰も考えておらず、「京都の誇り」と考えている。甲子園球場に応援にやって来た2800人の応援団もほとんどが京都府民と京都国際高校や周辺の高校の生徒だった。

 在日韓国人でも京都国際高校を韓国学校と勘違いしている人が多いが、京都国際高校は法的にも実質的にも日本の学校だ。20年前に日本の文部科学省から認可を受け、文部科学省が指定する学習指導要領に沿って教育を行っており、日本政府から援助金も受けている。およそ160人いる生徒もほとんどが日本人で、61人の野球部員もほぼ全員が日本人だ。

 しかも実際のところ韓国では高校野球などほぼ忘れられているのに、日本の高校野球に強い関心を持つのは全くもっておかしい。本当の理由はおそらく韓国語の校歌がテレビで放映され、その歌詞に「東海」という言葉が入っているからだろう。

 ここで「不都合な真実」について言えば、甲子園で「東海」という言葉が響いたとしても、日本人が「日本海」を「東海」に変える確率はゼロだ。日本人の中で「東海表記」を支持する声など聞いたことがないし、何よりも日本の地図にはこれとは別の「東海」がある。愛知県など太平洋に面する四つの県をまとめて「東海」地方と記載し「とうかい」と読む。すでに「東海」が存在するのに、その反対側をまた「東海」と呼ぶなどあり得るだろうか。

 歌詞に「東海」が入った韓国語の校歌に対しては京都国際高校内部からも見直しを求める声が出ている。今回京都国際高校を優勝に導いた小牧憲継監督はテレビ放映されたインタビューで「数年前から校歌の変更を学校に訴えてきたが、学校側はこれを黙殺している」と堂々と批判した。小牧監督は「京都国際高校は日本語、英語、韓国語の教育を強みにしているのだから、校歌も3カ国語を使って新しく作ってくれ」と要求している。京都国際高校でスカウトを担当する岩淵雄太コーチも小牧監督と同じ考えで、時代の変化に合わせてKポップのような校歌を最初から作るよう訴えているという。

 「東海」という言葉が入った韓国語の校歌から民族の誇りを感じた方々には申し訳ないが、「不都合な真実」は実はまだある。京都国際高校野球部員のほとんどが校歌の意味が分からないそうだ。ある生徒は歌詞が分からないので「口パク」をしているという。日本の複数のメディアの報道をまとめると、野球部員のほとんどが野球がやりたくて京都国際高校に来たのであって、韓国に対して特別な関心があるわけではないらしい。例えば61人の野球部員で唯一韓国籍を持つ金本祐伍君も京都国際高校に入学するまで自分が韓国籍という事実さえ知らなかったそうだ。

 「韓国の魂」が京都国際高校優勝の原動力だったらうれしいが、残念ながら事実は正反対だ。京都国際高校の優勝は京都国際高校が「韓国」という狭いフレームから抜け出し、日本社会の中に溶け込んで「競争と集中」というモットーにより徹底して勝利を追求し戦力を高めたからこそ可能になったのだ。

 一例を挙げれば京都国際高校野球部のスカウト戦略は他校とは異なる。京都国際高校と準決勝で対戦した青森山田高校はベンチ入りした20人のうち15人が青森県出身で、決勝で対戦した関東第一高校は18人が首都圏出身だ。これに対して京都国際高校のベンチ入り選手のうち京都出身者はわずか5人で、大阪まで合わせても9人しかいない。しかも北海道出身者が3人もいて、福岡県出身者も1人いる。つまり京都国際高校は地域などにこだわらず全国から選手を集めて競争させているのだ。

 練習方法も京都国際高校は特殊で、グラウンドが狭いため守備に重点を置いている。中でも投手と野手は完全に分業体制とし、それぞれにコーチがいる。各ポジションの選手の個人技を最大限高めることに重点を置き、個人練習の時間は何と夜10時半まで認められている。寄宿舎にも専門のコーチがいて、練習時間以外の生活にも責任を持っている。ただひたすら野球だけに集中できるようにし、個人技を最大に高められる場を提供しているのだ。

 このような「競争と集中」の結果、数年前から京都国際高校出身のプロ野球選手も出始めている。2019年以降で京都国際高校出身のプロ野球選手はすでに8人だ。関東第一高校や青森山田高校はどちらも2人ずつだから、その差はかなり大きい。全国の有望な中学生野球選手にとって京都国際高校はプロを目指す一つのルートと認識されているため、今後もさらに多くの野球選手が集まってくるだろう。

 25年前に野球部ができた直後、京都国際高校は他校との試合で0-34のコールド負けを喫したことがある。当時の選手たちはほとんどが在日韓国人だった。それが地域、血縁、他校との関係などにこだわらず「競争と集中」という考え方の上に日本人選手を数多く集め、甲子園で優勝するほど強くなった。

 京都国際高校の成功から得られる真の教訓は「東海」が入った韓国語の校歌を聞いて涙を流す民族中心主義ではなく、本当に勝つためだけに、むしろ民族の枠を越えて門戸を開き、競争を誘導し選手個人の力を集中して高めていったからだ。むしろこれこそが将来における本当の「韓国の魂」とすべきではないだろうか。

チャン・ブスン関西外国語大学国際関係学教授

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