コラム
韓国TBSの没落とユーチューバー金於俊【コラム】
4394億ウォン(現在のレートで約470億円)。『金於俊(キム・オジュン)のニュース工場』が放送されていた2016年から22年までの間に、ソウル市がソウル交通放送(TBS)に投じた税金の額だ。
9分。ソウル市監査委員会によると、『ニュース工場』の人気が頂点に達していた2019年、TBSが通勤・退勤ルートの交通情報を提供した時間はこれだけだった。
税金は左派・右派を問わず取り立てるが、放送は一方に偏っていった。夕方の江辺北路がどれくらい混雑しているかを聞く機会は減った。韓国TBSは、二つの数字のギャップと同じくらいに、市民に対する大きな負債を抱えたのかもしれない。
TBSは1990年、ソウル市交通放送として開局した。バス・タクシー運転手の「道案内」役を果たしてきた。朴元淳(パク・ウォンスン)市長が就任してから、放送は変質した。「政治放送」「偏向放送」論争が絶えなかった。『ニュース工場』のパーソナリティー、金於俊は、2022年の大統領選挙を前に、ユーチューブに開設しているチャンネルを通して「李在明(イ・ジェミョン)は一人でここまで来た人間だ。今こそあなたがたがちょっと助けてやるべき」と言い、李在明候補を公に支持した。放送通信審議委員会(放審委)は、こんな偏向発言を行ったパーソナリティーを出演させ続けたTBSに「警告」制裁を下した。『申荘植(シン・ジャンシク)の新装開業』のパーソナリティー、申荘植弁護士は22年の大統領選挙前日、「尹錫悦(ユン・ソンニョル)のコーヒー」フェイクニュースを擁護する発言を何度も行った。尹候補が11年に釜山貯蓄銀行事件を捜査していた際、大庄洞融資ブローカーにコーヒーを出してやって捜査にふたをした、というものだった。このニュースは後にフェイクと判明した。放審委から『ニュース工場』は21件、『新装開業』は3件の法定制裁を受けた。
ソウル市議会は22年11月、TBSに対するソウル市の予算支援を中止する内容の条例案を通過させた。ソウル市は今年6月、行政安全部(省に相当)に出資機関指定の解除を申請した。9月11日、TBSはソウル市の出資機関である地位を解除された。もはやソウル市傘下機関ではなく、民間法人になったのだ。税金を使う根拠が消えた。年間予算400億ウォン(約42億円)の70%ほどをソウル市に依存してきたTBSは、廃業手続きを取る可能性が高くなった。TBSは「日本語放送をしてみたい」「零細商工業者に情報を提供する番組をやってみたい」ともがいているが、時既に遅し。社員に今月の給与を支払う資金も底を突いたという。
金於俊と申荘植は22年末にTBSを離れたが、その後も勢いに乗って躍進している。金於俊は「ニュース工場」の商標をユーチューブの個人チャンネル名に持って行き、フォロワーを引きつけている。総選挙だけでも4回挑戦していずれも失敗していた申荘植は「新装開業」後、祖国革新党に迎え入れられた「人材第1号」として国会入りを果たした。ソウル市民の税金で退職祝いまでもらった格好だ。だが、責任を問うすべはない。李星求(イ・ソング)TBS代表代行は今年8月に記者会見で、金於俊と申荘植を念頭に置きつつ「私財をはたいてでもわれわれを支援すべき」と語ったという。もちろん、ユーチューバーの金於俊は何も反応していない。
パク・チンソン記者