▲サウジアラビア・リヤドで行われた未来投資イニシアチブ・フォーラムでムハンマド・ビン・サルマン皇太子兼首相と並んで座る尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領。23年10月24日(現地時間)撮影。/news 1

 サウジアラビアと共に原油埋蔵量1、2位を争うベネズエラが、有力な石油会社を国有化し、その会社が生み出すお金を国民に配ったとき、一部の韓国人は大喜びした。そしてベネズエラ式の現金福祉を「私たちが進むべき未来だ」とも言った。それほどまでに称賛していた人々も、ごみ箱をあさって生き延びる国となった現実の前では沈黙した。ただ、今でも「25万ウォン(約2万7000円)支援法」(韓国野党「共に民主党」が推進する全国民への商品券支給案)のようなものにすがる姿を見ると、現金福祉の亡霊から依然として抜け出せていないようだ。

 ベネズエラのケースを見てもまだ未練があるというのなら、サウジアラビアのケースを見てほしい。サウジは現金ばらまきによる統治が慣行になっている国だ。初代国王アブドゥルアズィーズ・イブン・サウードは生前、外に出掛ける際には現金を詰め込んだ箱を持ち歩いていた。貧しい庶民が現れて頭を下げると、箱に手を入れて無造作にカネをつかみ、そのまま与えていた。現在ではその箱は姿を消したが、その代わりに現金型の福祉が行われている。サウジでは貧困層が国民の40%に達するが、政府の支援金のおかげで暮らしには困らない。教育と医療は質こそ低いが無料で受けられ、ガソリンや電気などのエネルギー価格はほぼ無料に近い。王室が出資した各種の社会保障基金も、極貧層を支えている。

 サウジアラビア人の多くは、汗を流して働こうとはしない。そんなことをしなくてもお金が手に入るからだ。この国に進出した外国企業は、義務雇用制度に従って、法で決められた割合でサウジアラビア人を雇用しなければならない。1カ月間全く出勤しなくてもクビにすることはできず、それでいて月給はしっかり払わなければならない。サウジを訪れる外国人は特異な体験をする。空港を出てタクシーに乗ると、運転手はパキスタン人で、ホテルのレセプションで客を迎えるのはレバノン人、部屋の清掃担当はフィリピン出身だ。こうした人たちが働く間、大勢のサウジアラビア人が家でごろごろしている。サウジの人々が一生懸命になることがないわけではない。サウジの人々はサッカーに熱狂する。勧善懲悪省傘下の宗教警察は、熱心に社会の風紀を取り締まる。しかし、どれも生産的な活動には程遠い。

 国から与えられる現金に慣れた国民が、自分の人生を自ら切り開くことはできないだろう。サウジアラビアの未来を懸念する知識人たちは「国が国民を物乞いにしている」と嘆いている。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルの編集長を務めたカレン・ハウス氏の著書『サウジアラビア』には、現金性の福祉に慣れたサウジアラビアの人々がいかに受け身であるかを示す笑い話が載っている。ある日、国王が交通量の多い道路に検問所を設置し、自国の民がどれだけ従順かを試した。検問所が突然設置されたため渋滞が起きたが、誰一人として文句を言う者はいなかった。警察官を派遣して身分確認の作業をさせると、列はさらに長くなったが、それでも皆素直に従った。最後には極端な方法を試みた。通行人を並ばせ、理由もなくたたいた上で、たたかれた者だけが身分確認を受けて通過できるようにした。すると列はさらに長くなり、ついにある市民が抗議した。「もう1時間も待ち続けている。こういう時は、2人でたたいた方が列が短くなるのではないか?」

 原油埋蔵量1位と2位の国がどちらもこの有様だということを見過ごすことはできない。ただし、ベネズエラはチャベス氏に続き、彼の路線を踏襲するマドゥロ氏が政権を握ったことでひどく破綻したが、サウジは次期国王のムハンマド・ビン・サルマン皇太子が「石油以降のサウジ」を模索しているという点が異なる。ムハンマド皇太子は、現金型福祉に依存する「サウジ病」を治療したいと考えている。また、かつてのサッチャー英首相が過剰な福祉と産業の非効率性に象徴される「英国病」をどのように克服したのかにも関心が高い。国家指導者が国民に金を与えるだけでは未来がないという事実を理解していることは重要だ。しかし、韓国の一部の政治家は、その道を進むのが良いと言っている。このような政治家たちが歩みを止めないのなら、国民が行く手を阻まなければならない。

金泰勲(キム・テフン)論説委員

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