▲グラフィック=朝鮮デザインラボ チョン・ダウン

 韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は、来年度予算案を決定する国務会議で「前政権が5年間で400兆ウォン(約43兆円)以上国家債務を増やし、現政権の仕事をやりにくくした」と指摘した。尹大統領はその2日後の国政ブリーフィングでは「健全な財政基調を固く守った結果、国家財政がより強固になった」と述べた。果たしてそうだろうか。

 文在寅(ムン・ジェイン)政権が5年間、政府債務を400兆ウォン以上増やしたことは事実だ。正確な数値は409兆ウォンだ。ところが、健全な財政を主な国政課題に掲げた尹政権も2年間で政府債務を128兆ウォン増やした。3回目の予算編成となる2025年まで含めれば、尹政権が3年間で増やす政府債務は209兆ウォンに達する。年平均では文政権が80兆ウォン、尹政権が70兆ウォンでさほど変わらない。

 比較の公正性を保つために考慮すべき要素が二つある。文在寅政権当時は未曾有のコロナ事態があったが、尹政権にはそれほど特大の突発的な悪材料はなかった。さらに、尹政権の政府債務には「財政上の小細工」による変化要因が隠れている。尹政権は昨年、為替管理資金を積み立ててある外国為替平衡基金から20兆ウォンを引き出し、税収不足を埋めるために使った。この資金は政府が為替防衛のために外貨準備の売却で得られた資金がウォン建てで積み立てられたものだ。政府が管理する基金なので、政府債務には計上されなかった。一部には赤字国債を発行せずに税収不足を埋める「妙手」との主張もあるが、前例のない姑息な手段だった。

 国会予算政策処は「2023会計年度決算分析」で「ドル対応資産がある『金融性債務』を今後税金で返済しなければならない『赤字性債務』に転換し、政府債務の質が悪化した」とあいまいに指摘した。簡単に解釈すれば、政府が新たに借金をする代わりに保有資産を売ったという意味だ。将来の世代が使える「兵糧」を先に食べてしまったという意味では借金と五十歩百歩だ。国会予算政策処は「2024年予算案を見ると、政府は今年も外平基金を43兆ウォンを引き出すとみられる」と予想したが、その通りになっている。企画財政部は今年、30兆ウォン以上の税収不足を埋めるため、昨年のように外平基金を使うとみられる。

 ところが、政府の小細工ももはや限界を露呈している。韓国政府は21年ぶりにウォン建ての外国為替平衡基金債権(外平債)を8兆ウォン以上発行する予定だという。同基金まで底を突きつつあるというシグナルかもしれない。韓国政府は来年、過去最大となる201兆ウォン規模の国債も発行すると予告している。税収不足をこれ以上埋めることが難しくなり、国債発行で財政赤字を埋める狙いと解釈される。

 放漫な財政運用のせいで、尹政権が財政政策で身動きを取れる幅が狭くなったことは事実だ。前政権から始まった過度な家計負債のため、内需回復が難しいことも事実だ。目玉政策として掲げた減税が半導体景気低迷サイクルと重なり、税収のパンクを触発した点は、尹政権の不運、あるいは失策と見ることができる。

 尹政権の厳しい政策環境は国民も知るところだ。大統領が国政ブリーフィングで「全てうまくいっている」と述べるのは、国民の体感とはあまりにもかけ離れている。一つ明らかになったことは、基礎年金・兵士(兵長)の賃金月200万ウォン、大学生の75%への国家奨学金支給などのポピュリズム政策によって、保守政権であれ革新政権であれ、政府債務の増加傾向を防ぐことはますます難しくなっているという点だ。政界と政府が自らブレーキをかけることはできないため、サンドバッグを足で引きずるような強制的な措置が必要となる。欧州のように財政赤字が対GDP比の一定水準以下に抑えることを義務づける「財政準則」の法制化を急がなければならないのはそのためだ。

金洪秀(キム・ホンス)論説委員

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