▲グラフィック=金炫国 (キム・ヒョングク)

 文在寅(ムン・ジェイン)前大統領の元娘婿の「タイ・イースター・ジェット特別採用」疑惑を捜査している韓国検察は8月30日、文・前大統領の娘ムン・ダヘ氏の自宅とオフィス、別荘などを家宅捜索し、確保した資料の分析を進めている。韓国検察は、秋夕(中秋節。今年は9月17日)の連休後にダヘ氏を出頭させて事情聴取を行う計画だ。法曹界からは、検察の捜索令状には文・前大統領を賄物授受容疑の被疑者として適示してあることから、文・前大統領夫妻に対する事情聴取も行われるだろうとの見方が出ている。

 進歩(革新)系最大野党「共に民主党」は2日、「稚拙な政治報復」だとして、対策機構をつくって党レベルで話し合うこととした。これは、民主党の李在明(イ・ジェミョン)代表の指示によるものと伝えられている。李代表と民主党関係者は、今月8日には盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領の墓参りをして梁山を訪れ、文・前大統領と対面する予定だ。しかし韓国政界の内外からは「文・前大統領の“痛い指(大切な人)”であるダヘ氏が水面に浮上してきた」「捜査が深く行われれば、波紋がどこまで広がるか分からない」という声が上がった。

 ダヘ氏は文・前大統領の在任期間中、公の活動を控えてきた。ダヘ氏が大衆の前に姿を現したのは、第19代韓国大統領選挙の終盤、自分の息子と共に文・前大統領の遊説現場に行って一緒に写真を撮ったくらいだ。兄のムン・ジュンヨン氏が文・前大統領の在任期間中も公に活動していたのとは対照的だ。だが水面下では、ダヘ氏の家庭事情や非公式の活動を巡ってさまざまな話が出ており、時折メディアに「疑惑」という形で露出してもいた。

 ダヘ氏は、兄と違って学歴が公開されていなかった。産経新聞は2019年に「ムン・ダヘ氏は国士舘大学に留学した」と報じ、ダヘ氏が釜山外国語高校日本語学科に入ったが中退したといううわさも出回った。当時、韓国大統領府は肯定も否定もしなかったが、この対応を巡っては当時の文在寅政権の「反日」の気流と関連がある、という解釈が出ていた。

 ダヘ氏は2000年代中盤に旅行会社のロッテJTBに入社して勤務し、10年に元夫と出会って結婚したという。元夫は16年2月から18年3月まで、ゲーム会社「トリ・ゲームズ」に勤めた。そして18年7月から20年初めまで、現在問題になっている「タイ・イースター・ジェット」の幹部を務めていた。

 ダヘ氏は、元夫がタイ・イースター・ジェットに入ったころ、一緒にタイへ移住したと伝えられている。ところが元夫のタイ・イースター・ジェット採用の経緯やダヘ氏のタイ移住の理由を巡って、後からさまざまなうわさ話も出てきた。ある政界関係者は「文・前大統領夫妻が娘婿(当時)にロースクール進学を勧めたが失敗し、タイ・イースター・ジェットに入社したという話が出回った」とし「大統領の娘が任期中に外国へ移住すること自体おかしい、という内部の懸念は多かった」と話した。別の野党関係者は「ダヘ氏の元夫は、親文系のある中心的人物と親しくしつつ全北地方で活動し、それで李相稷(イ・サンジク)元議員との縁ができたらしい」と語った。

 ダヘ氏はタイから戻ってきた後、2020年末から青瓦台(当時の韓国大統領府)の官邸に子どもと一緒に住んだことが分かり、物議を醸した。独立生計の大統領子女が青瓦台の官邸で過ごすのは異例だ。野党関係者は「つまらない論争になりかねないという懸念がかなりあったが、離婚など個人的事情があるので人間的に目をつぶってやろう、という雰囲気だった」と語った。

 ダヘ氏はこのころから、ネットのショッピングモールを運営したりヨガ関連の仕事をしたりしていたと伝えられている。先に文・前大統領は、在任中の2018年、インドを訪問して「私の娘も(今)韓国でヨガ講師をしている」と明かしたこともあった。

 文大統領の退任に際して周辺で繰り広げられた主な事業は大抵、ダヘ氏が企画したものだと伝えられている。ダヘ氏は、退任した父親の写真を自分のソーシャルメディアにしばしば載せ、今年5月には文・前大統領退任2周年記念展示も企画した。平山村の書店も、ダヘ氏が主導したものだと伝えられている。野党関係者は「文・前大統領のブレーン陣のほとんどは、書店を開くことに強く反対したらしい」とし「文・前大統領の『愛犬カレンダー』など一種の『グッズ』事業も、大部分がダヘ氏の手を経たもの」と語った。

 一方、ソウル南部地検は今月9日、元大統領府民情秘書官室行政官に対する「公判前証人尋問」手続きを行う。韓国検察は、この元行政官がムン・ダヘ氏一家のタイ移住を助けた中心人物だとみている。

キム・ジョンハン記者、イ・スルビ記者

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