▲グラフィック=朴祥勛(パク・サンフン)

 文在寅(ムン・ジェイン)前大統領の元娘婿の「タイ・イースタージェット特別採用疑惑」を捜査している韓国検察が、文・前大統領の娘ダヘ氏の自宅やオフィス、別荘を家宅捜索し、全方位捜査に入った。

 1日の本紙の取材を総合すると、全州地検刑事3部(韓演奎〈ハン・ヨンギュ〉部長検事)は先月30日、ソウル市鍾路区付岩洞のダヘ氏の自宅と、ダヘ氏が経営しているソウル市西大門区の展示企画会社、済州島の別荘の計3カ所を家宅捜索した。済州・翰林邑にある別荘は、2022年7月にダヘ氏が、文・前大統領の「メンター」である宋基寅(ソン・ギイン)神父から3億8000万ウォン(現在のレートで約4150万円。以下同じ)で購入したものだ。

 この日の家宅捜索の令状には、文・前大統領が「賄賂収受(収賄)等の被疑者」として記載されていたと伝えられている。また賄賂の金額として、李相稷(イ・サンジク)元民主党議員が実質的オーナーだったタイの航空会社「タイ・イースタージェット」に、娘婿が2018年7月から20年4月まで役員として在籍していた間に受け取った給与と滞在費など、およそ2億2300万ウォン(約2440万円)が特定されたという。法曹界からは「文・前大統領の出頭・事情聴取は避けられないとみられる」という反応が出た。

 韓国検察は、李・元議員が18年3月に中小ベンチャー企業振興公団(中振公)理事長に任命された見返りに文・前大統領の娘婿を特別採用し、一家のタイ移住を支援したとみている。検察は、李・元議員が中振公理事長に内定した当時の大統領府民情首席を務めていた曺国(チョ・グク)祖国革新党代表を先月31日に出頭させ、事情聴取を行った。

 韓国検察は、文・前大統領夫妻がダヘ氏一家の生活費を出していたが、娘婿が就職した後は生活費を出さなくなったことを把握している。このため、李・元議員が出した娘婿の給与などを「賄賂」とみているのだ。検察のある関係者は「直接の賄賂の容疑または不正を仕向けた後の収賄(事後収賄)の容疑の適用が可能とみられる」と語った。

 一方、韓国検察は、ダヘ氏の口座追跡の過程で出所が明らかでない「まとまった額のカネ」を幾つか発見したと伝えられている。

 韓国検察は今年初め、文・前大統領の金正淑(キム・ジョンスク)夫人に代わってダヘ氏に5000万ウォン(約550万円)を送金した金夫人の友人A氏の自宅を家宅捜索した。検察は、金夫人に「娘にお金をちょっと届けてほしい」と頼まれたA氏がダヘ氏宛てに5000万ウォンを無通帳入金し、送金者の名義として「〇〇〇(A氏の名前) 金正淑」と書き残していた事実を把握。これを根拠に裁判所から捜索令状の発布を受けたという。この5000万ウォンは、包みに入った状態で大統領府の職員B氏を通してA氏に届けられたという。

 検事長出身のある弁護士は「中間に人を挟んで金銭のやりとりをするのは、通常、金銭の出所を隠そうと『資金洗浄』するときに使う方法」だとし「現金を用意し、他人を何回か経由して娘に届けるというのは、資金の出所や性格を疑うに十分とみられる」と語った。

 ダヘ氏に渡った釈然としない「まとまった額のカネ」はほかにもある。韓国検察は、文・前大統領の著書『文在寅の運命』を出した出版社の一つがダヘ氏に2億5000万ウォン(約2730万円)送金した端緒をつかみ、出版社の関係者を調べているという。この出版社の関係者は、検察に「(ダヘ氏が)デザイン編集などに参加したので2億ウォン(約2190万円)を支払い、残り5000万ウォンは貸してやった」という趣旨の供述を行ったと伝えられている。この出版社が、文・前大統領に支払うべきカネを代わりに娘に渡したのではないか、という疑惑もある。同書を出した出版社の関係者は、本紙の取材に対し「印税などは全て文・前大統領に入金し、ダヘ氏にお金を送ったことはない」と語った。

 これらの資金の存在は、ダヘ氏一家が両親の支援なく独立生計を維持しているかどうかを検察が確認する過程で発覚したという。法曹界からは「ダヘ氏の口座から『まとまった額のカネ』が見つかっただけに、資金の出所はもちろん、贈与税などについての脱税疑惑なども究明されねばならないだろう」という話が出ている。ある法曹関係者は「両親が透明でない形で子どもにカネを渡すのは、大部分、正当なカネでないか、もしくは贈与税を免れるなどの目的でやること」と語った。

 文・前大統領に近い尹建永(ユン・ゴンヨン)民主党議員は、ソーシャルメディアに「検察が別件捜査はもちろん、(成果を挙げるためにささいなことまで細かく探して回る)“はたき”式捜査をやっている」と批判した。

 これに対し、全州地検の関係者は「文・前大統領はもちろん、ダヘ氏関連の捜査は告発された犯罪容疑(収賄等)についてのみ捜査中」だとし、さらに「ダヘ氏の住居地などに対する家宅捜索は政治的状況とは関係なく、裁判所から発布を受けた令状によって行った適法な捜査」と述べた。

イ・スルビ記者、パン・グクリョル記者

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