▲イラスト=朝鮮デザインラボ ハン・ユジン

 北朝鮮が韓国を相手に戦争を起こした場合、開戦当初からサイバー戦力とハッキンググループ、韓国国内に浸透した固定スパイ、反国家勢力を総動員し、インターネットでフェイクニュースを広めると専門家は指摘する。具体的な戦況から一般人の生活に影響を及ぼしかねないデマまでさまざまな虚偽情報戦を繰り広げるとの見方だ。北朝鮮は世界3位の7000人のハッキング戦力があり、これまで数回にわたり韓国の官・民・軍の情報通信網をかく乱し、その能力を立証してきた。

 戦時中に北朝鮮が広めると予想される最も重大なフェイクニュースは韓国の軍最高首脳部に関する内容だ。「大統領と軍指揮部が後方に逃走した」「大統領が敵の攻撃で重傷を負った」などの内容だ。韓国政府高官は「軍最高統帥権者である大統領が後方、さらには外国に逃走したといううわさを広めることが考えられる。戦時によく見られるフェイクニュースだが、事実かのように信じられれば、戦況を揺るがすことになるだろう」と指摘した。

 全玉鉉(チョン・オクヒョン)元国家情報院第1️次長(海外担当)は「今もインターネットは大統領の弾劾二平気で言及するなど準戦時状況だ。本当に戦争が起きればフェイクニュースが非常に危険になるだろう」と話した。人工知能(AI)を使った画像合成技術であるディープフェイクを活用すれば、混乱はさらに高まる。大統領の降伏・逃走宣言といった虚偽映像を作成して流布できるからだ。同時に「前方地域で韓国軍が全滅した」「米軍が韓国から撤収する」などのフェイクニュースが軍の士気に影響を及ぼし、全体的な戦況を揺るがしかねない。

 北朝鮮はそうしたフェイクニュースで一般市民の恐怖と不安を助長し、後方地域で騒乱を引き起こす戦略だ。韓国軍関係者は「後方地域で騒乱が起きなければ、後方を狙って不安感をかき立てるフェイクニュースを量産することがあり得る」と分析した。「原子力発電所がある後方地域が北朝鮮軍に占領された」「後方で北朝鮮に同調する反乱が起きた」などといったうわさを広める可能性がある。

 さらに大きな問題は、事実の究明が難しいあいまいなフェイクニュースだ。韓国政府関係者は「北朝鮮と戦争が起きれば、日本にある国連軍司令部後方基地の役割が重要だが、『日本政府が韓国を助けるのに非協力的』というような虚偽情報が出てくる可能性がある」とした上で、「そうしたニュースははっきりと事実究明が難しく、事実ではないと表明しても韓国国内にはそれを信じる同調勢力が発生するだろう」と懸念した。逆に中国やロシアが北朝鮮に軍師を送るというフェイクニュースを広めることも考えられるが、それも事実究明が困難だ。

 専門家はさまざまな北朝鮮発のフェイクニュースに対応するため、韓国政府だけでなく、地方自治体の有機的な体系構築が必要だと呼びかけた。梨花女子大のパク・ウォンゴン教授は「フェイクニュースが横行すれば、政府が『災害メール』などを通じ、直ちに人々にそれを訂正して周知するシステムをつくることも可能だ。そのためには地方自治体との有機的協力も非常に重要だ」と話した。

 韓国の歴史で戦時中にフェイクニュースが事実のように受け入れられたことはしばしばあった。李承晩(イ・スンマン)元大統領が6·25戦争(朝鮮戦争)当時、ラジオ放送で「ソウルは安全だから仕事に従事してほしい」と促し、一人でソウルを脱出した後、漢江橋を爆破したという話が代表的だ。だが、その真相を調査した研究者は「根拠がない」と指摘する。李元大統領がそんな放送をしたこともなく、漢江橋爆破も全面的に軍事的判断によって軍指揮部が行った決定とされるが、70年が過ぎた今でもデマを事実として受け入れる人が多い。戦時のフェイクニュースの威力がどれほどかを示す例だ。

梁昇植(ヤン・スンシク)記者

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