▲イラスト=イ・チョルウォン

 「火病」とは、怒り(火)をうまく解消できず我慢しているうちに発症する韓国固有の病気の名称だ。我慢して耐え忍ぶことを美徳としていた文化的背景に関連している。米国精神医学会が作成する精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM)には一時期、火病が「Hwa-Byung」という英語表記で掲載されていた。かつては中年女性によく見られる症状だったが、ストレスを感じることが増えた現在では、発症する年齢も低下し、男性でも火病の症状を訴えるケースが少なくないという。

 東西ドイツの統一後、旧東ドイツでは環境の変化によって多くの住民が混乱した。職を失った人や、故郷を離れて移住しなければならない人も多かった。社会的な差別まで受ける羽目になり、精神的苦痛を訴える住民も少なくなかった。中には症状が体に現れる人もいた。シャリテー・ベルリン医科大学のミヒャエル・リンデン教授はこの症状の研究を続け、「鬱憤(embitterment)」という名前を付けた。リンデン教授はこの症状が大きな政治的・社会的急変のときに限らず、職場でのいざこざ、離婚、解雇、知人の死など日常生活でのネガティブな経験によっても引き起こされると指摘した。「ドイツ版火病」と言えるだろう。

 「鬱憤」に関する記事を検索すると共通点が見えてくる。「自分の努力と貢献が無視された」ということだ。これは「公正」の問題にも関係してくる。2020年に仁川国際空港が非正規職を正規職(正社員)に転換した際、正規職での就職を目指して猛勉強していた人たちが「鬱憤」を感じたのもこうした理由からだった。2018年の平昌冬季五輪で女子アイスホッケーの南北合同チームが結成された時、(北朝鮮の選手を入れるために)一部の韓国選手が代表から外されたため、韓国の20-30代は「不公正だ」と鬱憤をぶちまけた。ドイツ統一の際も、変化した社会が公正ではないと考える人々が主に鬱憤を感じていた。

 韓国国民の半数(49.2%)は、長期的に鬱憤を抱えた状態にあるという。これはソウル大保健大学院の調査結果で明らかになった。若者層の割合が特に高かった。驚いたことに、この割合はドイツ人を対象に実施した類似の調査の結果(15.5%)の3倍に達した。ただし、今回は4回目の調査だったが過去3回の調査(2018年、54.6%など)よりはやや割合が低くなった。研究陣は「韓国社会を構成する人々の鬱憤感情は看過できない水準」と指摘した。

 これほど鬱憤を感じている人が多いのだから、韓国は「鬱憤社会」と言っても誤りではないだろう。韓国は明らかに成功した先進国なのに、なぜそうなのだろうか。それは、韓国では他人と比較することが日常化し、競争の激しい社会になっているからではないか。韓国が経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で自殺率1位、一日の自殺死亡者数が平均37.7人に達しているのもこれと関係があるだろう。競争が避けられないのなら、公正な競争に社会がもっと関心を注ぐべきではないだろうか。

キム・ミンチョル記者

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