▲グラフィック=イ・ジンミョン

 ドナルド・トランプ前大統領の在任中の2017年6月、初の韓米首脳会談のため訪米した韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領=当時=は「(北朝鮮の金正恩〈キム・ジョンウン〉は)防御のために核が必要だと信じているだけ」と語ったという。当時ホワイトハウスで国家安全保障問題を担当していたハーバート・R・マクマスター元大統領補佐官(62)が明かした。当時文大統領は金正恩を、核を放棄した後に追い出されたイラクのサダム・フセイン、リビアのムアマル・カダフィなどの独裁者と比較し、このように語ったが、すぐさま米国側の人物からの反発を呼んだ-とマクマスター元補佐官は伝えた。

 トランプ政権第1期で2人目の国家安全保障問題担当大統領補佐官(2017年2月-18年3月)を務めた三つ星の将官出身のマクマスター氏は、27日に公開した回顧録『At War with Ourselves: My Tour of Duty in the Trump White House(われわれ自身との戦争:トランプのホワイトハウスにおける私の任務遂行)』において、トランプ大統領の任期初期における韓米間の緊張関係を詳細に記述した。358ページの回顧録に、韓国および北朝鮮は221回も登場する。

 回顧録によると、文大統領は17年6月30日、ホワイトハウスのローズガーデンでトランプ大統領と共同記者会見を行った後、マイク・ペンス副大統領に「フセインやカダフィのように金正恩は防御のために核が必要だと信じただけ」と語ったという。これにペンス副大統領は「既に北朝鮮はソウルを狙う通常型の砲を保有しているのに、なぜ(追加で)核が要るのか」と問い返した。さらにペンス副大統領は「われわれは金正恩が『攻撃的な目的』で武器を使用する可能性について考慮しなければならない」と語った。実際、今年初めに金正恩は「有事の際に核武力を動員して南朝鮮の全領土を平定するための大事変の準備に拍車をかけよ」と指示した。文・前大統領の公言とは正反対で、核兵器で戦争を起こして韓半島全域を共産化したい、という胸中を明かしたのだ。

 マクマスター元補佐官は、最初の首脳会談から韓米は対北政策の方向性を巡って意見が衝突した、と伝えた。マクマスター元補佐官は「両国間の共同声明を作る過程で韓国側は、北朝鮮との交渉の展望を強調する表現にこだわり続けた」「逆に(ホワイトハウスの安全保障チームは)非核化が金正恩にとって最善の利益だという点を説得するため、制裁履行を強調する表現を使用すべきだと主張した」と記した。

 マクマスター元補佐官は、文政権が北朝鮮の度重なるミサイル挑発のレベルを縮小視しようときゅうきゅうとしていた、とも明かした。初の韓米首脳会談が終わってからわずか3日後の7月4日、北朝鮮が東海に向けてミサイルを発射すると、マクマスター補佐官は、自分のカウンターパートだった鄭義溶(チョン・ウィヨン)国家安保室長に電話をかけた。ところが鄭室長は「挑発に使用されたミサイルが『弾道ミサイル(ICBM)』だと規定することについて、われわれはまだ準備ができていない」と語ったという。ICBMの発射は国連安保理の北朝鮮制裁決議違反だ。これに対しマクマスター補佐官は「義溶、あなたがそれをICBMと呼べないからそのミサイルはICBMではない、ということにはならないではないか」と問うた-という。北朝鮮が韓国を狙って挑発を敢行した状況においても北朝鮮を刺激しないために戦々恐々としている、韓国政府の態度を批判したのだ。

 マクマスター元補佐官は、文大統領が大統領選候補時代に「在韓米のTHAAD(高高度防衛ミサイル)配備を再検討したい」という公約を掲げたことを巡り、トランプ大統領は激怒した、とも伝えた。マクマスター元補佐官は「当時、10億ドル(現在のレートで約1400億円)に達する迎撃ミサイルシステムの配備を考え直したい、という文候補の発言を聞いたトランプは、私に『(THAAD配備の費用を)韓国が自ら出すようにすべきだ』と言った」「これに対し、THAADは米国軍と韓国に暮らす米国人を保護するためという次元からのものだと言って収拾しようとしたが、駄目だった」とつづった。

 THAAD問題に対するトランプ大統領の「激怒」は、文大統領が就任した後も続いたという。2017年6月の最初の首脳会談当時、文大統領がTHAAD配備に関連して「正式な配備をしようと思ったら、環境影響評価を経なければならない」と言うと、トランプ大統領はせき払いをした後「環境影響評価は時間の無駄」と声を張り上げたという。マクマスター補佐官は夕食会当日の午前、鄭義溶室長に「文大統領に『THAAD配備は環境影響評価の結果に懸かっている』という最近の彼の発言を繰り返さないように言ってほしい」と頼み「不動産業者出身のトランプは環境影響評価を本当に嫌っている」とも警告した。

 一方、マクマスター補佐官は、任命されるとすぐさま自身の外交・安全保障チームとの議論を経て「北朝鮮の政権が抑止力だけのために核兵器を望んでいるという考えは誤っている」との結論を下し、これをトランプ大統領に報告した、と明かした。マクマスター氏は「韓半島を(赤化)統一することが金正恩の(最終)目標だと報告した」「(これを聞いたトランプ大統領は)北朝鮮を徹底して孤立させ、中国の習近平国家主席に北朝鮮を支援する代価を支払わせろ、と指示した」と記した。トランプ政権初期の北朝鮮に対する「最大圧迫戦略(Maximum pressure campaign)」の輪郭はこのようにして出現したという。

 その後も、トランプ大統領は随時、北朝鮮に対する「圧迫」を強調したが、同時に数回にわたって「金正恩と喜んで会うことができる」とも語っていた、とマクマスター元補佐官は伝えた。マクマスター元補佐官によると、トランプ政権の初期に「大統領に『北朝鮮との対話を急いではならず、対北制裁を不用意に解除するのも駄目だ』と報告し、トランプ大統領も同意した」が、その一方で「一貫性は彼(トランプ大統領)の強みではなかった」という。北朝鮮への圧迫を強調していても、金正恩との「トップダウン」式対面会談の必要性を持ち出し、しばしば立場が変わった、という意味だ。実際、トランプ大統領は金正恩国務委員長と3回対面し、最近の大統領選の局面でも金正恩との仲にしばしば言及している。

ワシントン=イ・ミンソク特派員

ホーム TOP