▲金昌均(キム・チャンギュン)論説主幹

 1950年に6・25戦争が起こった時に中学3年生だったパク・ヒョンチェ氏はしばらくするとパルチザンに加わり、それから2年後に下山した。部隊長から「民衆のために学問をせよ」との指示を受けためで、この指示によりパク・ヒョンチ氏は後にソウル大学に進学し経済学を学んだという。パク・ヒョンチェ氏のパルチザンでの体験は中学校の後輩だった小説家の趙廷来(チョ・ジョンレ)氏の小説「太白山脈」で「少年戦士、チョ・ウォンジェ」の活躍を通じて描かれている。

 1980年に「ソウルの春」を迎えた大学のキャンパスではそれまで地下活動をしていたイデオロギー系のサークルが一斉に表に出てきたが、これらのサークルを通じて当時の新入生たちは「意識化の洗礼」を受けた。先輩たちが準備したテーマごとのカリキュラムに従いセミナーが開催された。経済分野であれば教材はパク・ヒョンチェ氏の『民族経済論』だった。「外国資本に依存する外延的(量的)成長から脱皮し、自己完結的な再生産構造を持つべきだ」というのがその核心テーマだった。1980年に大学に入学した筆者も先輩たちから「朴正煕(パク・チョンヒ)式の輸出主導型モデルは外国資本とその外国資本にへつらう財閥買弁資本だけが私腹を肥やし、国の経済を収奪している」「民族の利益を代弁する民族資本中心の経済構造に転換するべきだ」などの主張を一方的に注入され、文字通り洗脳教育を受けた。北朝鮮の金氏王朝が3代かけて実験し、宣伝してきた「主体経済」とこれらの思想はその基本的な考え方では一致している。この理論が正しければ、韓国経済は過去数十年にわたり外国資本と買弁資本だけに良い思いをさせ、最終的に崩壊してしまったはずだ。

 韓国の国内総生産(GDP)は1980年から昨年までに26倍にまで膨れ上がり、その規模は世界10位に近づいている。同じ期間に1人当たり国民所得も64位から33位に跳ね上がった。1980年代の運動圏(左派の市民学生運動勢力)たちが買弁資本などと非難し、嫌悪してきた財閥企業が韓国経済をけん引したからこそ可能だった。李秉喆(イ・ビョンチョル)、鄭周永(チョン・ジュヨン)、具仁会(ク・インフェ)、朴泰俊(パク・テジュン)など産業界の巨人たちのストーリーも今やユーチューブで数十万、数百万のアクセスを記録しているが、それらを視聴しているのは主に20-30代だという。かつてソウル大学の人気講座だった「マルクス経済学」は受講生が少なくなり、もう20年以上も前になくなった。1980年代の運動圏が信奉してきたこの経済理論は大韓民国が成し遂げた奇跡を説明できないのだ。

 李泳禧(リ・ヨンヒ)氏の著書『転換時代の論理』は1980年の大学新入生たちの世の中を見る目をひっくり返した。とりわけ「中共」「アカ」などと学んできた国の「本当?」の姿をこの本を通じて知り、大きな衝撃を受けた。著者は序文から「王様の裸の姿が見られなかった冷戦時代の古い視覚から脱皮せよ」と訴えた。運動圏たちは「現代史と国際政治の現実に対する見方に『コペルニクス的転換』をもたらした力作」と大きく称賛した。李泳禧氏は文化大革命を「人類史上初の人間意識改造革命」とたたえた。ところが後にその残酷な真相が世の中に知られるようになると、この本に対する評価は二分した。李泳禧氏は後にある対談集で「情報に接する環境が劣悪だったので、全体の真実を知ることができなかった」と自己正当化した。

 それでもこの李泳禧氏を最後まで「時代の師匠」とあがめる者たちもいた。文在寅(ムン・ジェイン)前大統領がその代表的な人物であり、文前大統領は大統領選挙に出馬する際、若者に薦めたい本としてこの『転換時代の論理』を挙げたほどだ。文前大統領は北京大学で行った講演で「中国は高い峰、韓国は小さい国」とした上で「中国の夢が人類全体の夢になることを願う」と述べている。

 米国のある外交専門メディアが世界56カ国を対象に調査したところ、中国に対して薦めるマイナスの認識を持つ人の割合が最も高い国は「韓国(81%)」だった。韓国の調査会社が行った調査でも結果は同様で、中国への好感度(23.9%)は日本への好感度(29.0%)よりも低かった。韓国の若い世代は自分勝手な人間から何か迷惑行為を受けると「中国にやられた」という表現を使うという。そんな若い人たちが文前大統領の薦める『転換時代の論理』を読んだらどう感じるか気になるところだ。

 時代錯誤的な意識化論理の寿命が尽き、守りに追い込まれた1980年代の運動圏勢力が最後に叫ぶスローガンが「親日打倒」だ。「李承晩(イ・スンマン)が親日勢力を清算できなかったことが大韓民国の諸悪の根源」と主張する「解放前後史の認識」と呼ばれる考え方を、国会の300議席のうち190議席を持つ野党第1党と第2党が共有している。野党第1党の共に民主党は今の韓国の政権を「光復節を親日復活節とした最悪の売国政権」と評し、第2党の祖国革新党代表は「尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は朝鮮総督府の第10代総督であり密偵の親分」と非難した。このような認識は40年以上前に大学のキャンパスに貼られていたポスターのレベルから一歩も抜け出せていない。全斗煥(チョン・ドゥファン)軍事政権が結党した民主正義党で幹部を務めた第21代光復会長に続き、かつてこの民主正義党の議員だった第23代光復会長も左派運動圏によるこの時代遅れの反日ビジネスと歩調を合わせている。これにはどこか奇妙な不調和を感じざるを得ない。

金昌均(キム・チャンギュン)論説主幹

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