▲イラスト=朴祥勛(パク・サンフン)

 韓国軍情報司令部の「ブラック要員」(情報機関とは関係ない身分に偽装して活動する秘密エージェント)の情報を中国同胞(朝鮮族)に渡した疑いで身柄を拘束された情報司令部の軍務員(軍属)A容疑者の事件を契機として、「スパイ罪」改正の要求が強まっている。軍務員として軍刑法の適用を受けるA容疑者の罪名は、法定刑が重い「間諜(かんちょう、スパイ)」ではなく「軍事機密漏えい」だ。軍刑法上、間諜罪は「敵(北朝鮮)」との関連があることを要するが、その部分がまだ明らかでないからだ。友邦に国家機密を漏らしても間諜罪で処罰する他の国々とは大きな違いがある。

 韓国の間諜罪条項は軍刑法と刑法、国家保安法にそれぞれ定められている。三つとも全て北朝鮮または敵国に国家機密を漏えいする場合に間諜罪を適用することになっている。どれも6・25戦争後、冷戦期の1950-60年代に作られ、ほとんど変わっていない。韓国政界や法曹界からは「冷戦は終わり、友邦にも国家機密・軍事機密が流出する時代」だとし「間諜罪の範囲を『敵国』または『反国家団体』から『外国』に拡大するのが現実的」という指摘が出ている。

 1962年に制定された軍刑法は「敵」のために間諜を務めた者、敵の間諜をほう助した者、軍事機密を敵に漏えいした者を間諜罪で処罰する。ここで「敵」とは、北朝鮮と解釈されている。こういうことなので、漏えいの相手が北朝鮮でさえなければ間諜罪では処罰されない、というケースが生じた。

 2018年にソウル中央地検は、中国・日本に2級・3級軍事機密、ホワイト要員(外交官など合法的な身分を帯び、比較的公な情報の収集を行うエージェント)の情報などを渡した情報司工作班長などを起訴した。当時、工作班長に対して軍刑法上の「間諜罪」を適用できず、韓国の軍事上の利益を害する「一般利敵罪」を適用せねばならなかった。当時、捜査チームの関係者は「軍刑法上の間諜罪は『北朝鮮との関連』に限定されるという限界があるから」だと語った。工作班長は懲役4年を言い渡され、後に出所した。

 間諜罪の条項は刑法と国家保安法にもある。韓国の現行刑法は6・25戦争が終わった年である1953年に作られた。「敵国」のために間諜行為を働いたり、敵国の間諜をほう助したりした者、軍事上の機密を敵国に漏えいした者を「間諜」と見なす条項が、このとき生まれ、現在もそのままになっている。公安検事出身のヤン・ジュンジン弁護士は「韓国の司法システムは北朝鮮を国家として認めていない」とし「刑法において『敵国』は北朝鮮ではなく、大韓民国と戦争をしている外国または外国の団体」と指摘した上で「そうすると『敵国』は冷戦の終息後、現実から消えた概念となる」と語った。

 このため1960年に国家保安法を整備したという。反国家団体(北朝鮮)についての定義、反国家団体に国家機密・軍事機密などを漏らす場合に処罰する「目的遂行」条項などが作られた。この「目的遂行」条項は、刑法上の間諜罪とほぼ同じ内容だ。代表的な間諜事件である2006年の一心会、2011年の旺載山事件などの被告人らは、国家保安法上の目的遂行罪で有罪を言い渡された。

 こうした間諜罪の処罰システムについて、ある法曹関係者は「間諜罪の立証は極めて難しい」とし、その理由を「現実に存在しない『敵国』や『北朝鮮』との関連があった場合にのみ処罰が可能というシステムだから」と語った。与野党もこうした問題を認識し、2004年から刑法上の間諜条項の「敵国」を「外国」に拡大する内容の改正案を発議したが、国会では毎度通過できずにいる。

 先の第21代国会で、法制司法委員会の検討報告書は「友邦間でも熾烈(しれつ)な情報収集を行っているだけに、多元化された現代の国際環境において国家の外的安全は、必ずしも敵国によってのみ侵害されるわけではない」とし、法改正が必要だとした。だが「間諜行為の範囲や国家機密流出行為をどこまでと見るかなどを明確にする必要がある」という意見が提示され、法務部(省に相当)と法院行政処の間にも意見の食い違いがあり、法改正に至らなかった。

 このところ韓国の与野党は、第21代国会で間諜関連の法改正案を処理できなかったことを巡って、互いに相手のせいにしている。それでも「現行の間諜条項には問題がある」という認識は共有している。今の第22代国会でも、与野党議員が関連法案を発議している。中央大学法学専門大学院の金聖天(キム・ソンチョン)教授は「与野党が国益を考えるのであれば、深みある議論を行って国家機密の範囲を定め、『敵国』を『外国』に変えなければならない」と語った。

キム・ジョンファン記者、キム・サンユン記者

ホーム TOP