▲ベトナムの大型スーパーマーケットにある韓国商品コーナー。バナーに韓国の国旗も印刷されている/ホーチミン=李美智記者

 6年前、初めてベトナムに足を踏み入れてからというもの、ベトナムの隅々まで闊歩することが私の趣味です。我々に「サイゴン」の名で親しまれているホーチミンでバイクの騒音を聞きながら迎える朝が好きでした。このコラムを通じ、私が好きだったベトナムのあれこれを紹介しようと思います。

 数日前、ベトナムでテレビチャンネルを回していて、最終的にニュースチャンネルに固定しました。ベトナム語力が足りず、内容をすべて把握することはできませんが、ニュースを流していればこの国が直面する課題が何なのか大体把握できます。私の職業病かもしれませんが。

 共産党関連のニュースに続き、経済ニュースが始まりましたが、サッカーの朴恒緒(パク・ハンソ)元ベトナム代表監督や在ベトナム韓国商工会議所のホン・ソン会頭ら見慣れた顔が映し出されました。ベトナムのファム・ミン・チン首相の韓国訪問に関するニュースでした。チン首相の訪韓に随行し、ハノイから飛んできた方々でした。

 チン首相は韓悳洙(ハン・ドクス)首相の招きで先月30日から今月3日まで韓国を公式訪問しました。チン首相は共産党書記長、国家主席に次ぐベトナム権力序列3位です。2022年12月、韓国とベトナムが両国関係を包括的戦略的パートナーシップ関係に格上げした後、最も高いランクの要人による訪問でもあります。

 チン首相の訪問に国内企業のトップも集結しました。サムスン電子の李在鎔(イ・ジェヨン)会長と現代自動車グループの鄭義宣(チョン・ウィソン)会長、ロッテグループの辛東彬(シン・ドンビン)=日本名・重光昭夫=会長、CJグループの孫京植(ソン・ギョンシク)会長、暁星の趙顕俊(チョ・ヒョンジュン)会長、GS建設の許允烘(ホ・ユンホン)社長らがチン首相と会談し、協力案を議論しました。韓国企業は相次いでベトナムへの投資拡大計画を発表しました。

 では、韓国はポストチャイナとして成長するベトナムで利益を上げさえすればよいのだろうか。その点はもう少し話を深める必要がありそうです。

■徹底して実用主義の「竹外交」

 ベトナムは東南アジア唯一のいわゆる「親韓派」国家です。フィリピン、タイなど日本企業が市場を掌握した他の東南アジア各国とは異なり、韓国の企業とブランドにより親しみを示す国とされています。

 代表例として自動車市場を見てみましょう。「日本車の庭」と呼ばれるインドネシアでは現代自動車のシェアは6位にすぎません。フィリピンでもトヨタ、三菱自動車、フォードなどに押され、現代自動車は8位にとどまっており、タイでは10位圏内にすら入ることもできない状況です。ところが、ベトナムでは現代自動車がトヨタを抜いてシェア1位の座を占めました。3位の起亜のシェア(11%)も合わせると、ベトナム自動車市場の30%を現代・起亜が占めています。配車サービスのグラブを呼べば、現代自が海外戦略モデルとして発売した小型車「i10」がやってきます。韓国国内で言えば、「モーニング」のような外観ですが、バイクが道路を占領するベトナムでは入り組んだ道を抜けるのに最適なサイズです。

 では何が問題なのでしょう。それはベトナムにラブコールを送っているのは韓国だけではないということです。昨年9月、アメリカとベトナムが過去10年間維持してきた「包括的パートナーシップ関係」を2段階高め、「包括的戦略的パートナーシップ関係」に格上げしました。中間段階の戦略的パートナーシップ関係を完全に飛び越えたのです。

 アメリカとベトナムの関係が電撃的に格上げされると、中国がベトナムに駆けつけました。3カ月後の12月、中国の習近平国家主席がベトナムを訪問し、両国関係を「未来を共有する共同体」に発展させ、経済、安全保障、社会、文化などの分野で36件の合意に至りました。

 相次ぐラブコールに2023年はベトナムの外交原則である「竹外交」がいつにも増して輝いた一年と評されます。長く困難なベトナム戦争を経験したアメリカとも、韓国や日本のように東海(ベトナムにおける南シナ海の呼称)問題に直面する中国とも「実利的」な協力は構築していく姿勢を見せたのです。

 なぜ急にベトナムは各国の「お近づきになりたい友」になったのでしょうか。ベトナムを安い人件費とそれに基づく生産拠点がある「ポストチャイナ」ぐらいに認識しただけでは、そんなラブコールを理解するのは困難です。

 ベトナムは中国をけん制できる地政学的な安全保障上の要衝であるだけでなく、国際サプライチェーンでも戦略的な位置を占めます。このため、5月にフランスの国防相もベトナムを訪れ、両国間の国防協力強化に向けた意向書に署名し、オランダも昨年、ベトナムと国防・安全保障協力を拡大することを決めました。 

 韓国企業がベトナムのチン首相を歓迎した理由は、ベトナムが国際サプライチェーンでも中心的な国に浮上したからです。中国が原因のヨウ素水騒動を経験した韓国は、ベトナムからヨウ素水を輸入し、急場をしのぎました。最近ベトナムが「21世紀の石油」と呼ばれるレアアース埋蔵量で世界第2位だということが知られるようになり、中国に代わるレアアースのサプライチェーンとして注目されています。電気自動車のバッテリーなどに必要となる重要な鉱物です。

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