▲アチソン・ラインとトランプ・ライン

 2017年11月に韓国を訪れた米国トランプ大統領(当時)の最初の行事は、平沢米軍基地「キャンプ・ハンフリーズ」訪問だった。ここは、海外の米軍基地の中では最も規模が大きい。在韓米軍司令部と陸軍第2歩兵師団をはじめ、在韓米軍の家族など4万人が居住する超大型複合基地だ。中国・山東省威海市から400キロしか離れていない。誰であろうと、ここを見れば、北朝鮮はもちろん中国のけん制にも有利な要地だと分かる。当時、米国政府の関係者らは、在韓米軍について否定的な考えを持つトランプ大統領がハンフリーズを視察したら考えを変えるだろう―と期待した。

 結果的に、その判断は間違っていた。在韓米軍を軽視する彼の考えは少しも変わらなかった。トランプ政権最後の国防長官を務めたマーク・エスパーは、回顧録『A Sacred Oath(聖なる誓い)』で、在韓米軍関連のエピソードを詳細に書き残した。トランプが在韓米軍撤収をしつこく主張すると、ポンペオ国務長官が「(1期目はほかの仕事で忙しいので)在韓米軍の撤収は2期目の優先事項にしましょう」と言い、トランプは「そうだな、2期目」と答えた-というエピソードも記録されている。

 そのため最近、トランプ再選を準備している米国ファースト政策研究所(AFPI)関係者らが来韓した際には、関連の質問が集中した。ホワイトハウスの国家安全保障担当大統領補佐官への起用の可能性がささやかれているフレッド・フライツ(Fred Fleitz)AFPI副所長は「トランプが当選した場合、在韓米軍撤収や削減はないだろう」と安心させた。中国の習近平主席の3連任独裁、ロシアのウクライナ侵攻、北朝鮮の継続的な挑発で状況は変わった、というのだ。韓国政府の張虎鎮(チャン・ホジン)国家安保室長も「懸念する必要はない」と語った。

 果たしてそうだろうか。トランプの自由主義国際秩序無視、在韓米軍に対する否定的な考えには一貫性があり、彼のブレーンの発言は信じ難いという評価が多い。トランプが在韓米軍に対する立場を表明したのは1990年にまでさかのぼる。34年前の「プレイボーイ」誌のインタビューで、在韓米軍は「不当な待遇を受けている」とし、なぜ韓国にいるのかと発言した。最近では、5月に時事週刊誌「タイム」のインタビューで「危険な場所に(在韓)米軍がいる。話にならない。韓国は金持ち国だ。なぜわれわれが誰かを守らなければならないのか」と語った。こうしたトランプの長年の考えが、防衛費をいくらか引き上げるからといって変わるかどうか疑問だ。

 在韓米軍の存在意義を一貫しておとしめるトランプの発言を聞いていると、1950年に韓国を米国の防衛線から排除した「アチソン・ライン」を想起させる。韓半島を金日成(キム・イルソン)の同族殺害南侵へと導いたアチソン・ラインの含意は簡単だ。米国の立場からは、韓半島を捨てても、日本が太平洋の防波堤のように踏ん張っているから大して心配ではなかったのだ。

 トランプは、在日米軍の防衛費分担金が少ないと不平を言いつつも、在韓米軍に対してのようにはっきりと撤収に言及したことはない。彼は2019年5月、現在の天皇が即位してから1カ月もたたないころに国賓として招待され、日本の懇切な「おもてなし」を満喫した。「宝物のような米日同盟」と語るほどに日本を信頼している。トランプは、再選時に北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長と再会することを既定事実化している。この過程で、彼が在韓米軍の撤収または削減を交渉テーブルに載せ、アチソン・ラインに似た「トランプ・ライン」を推進する可能性がないと言えるだろうか。

 7月13日、銃弾が右耳を貫通する状況においても、右手を振り上げて「戦おう」とパフォーマンスをするトランプを見てぞっとした。「ストロングマン」が事実上再選される可能性が急上昇した瞬間、この先誰も彼を止めることはできないだろう、という考えが頭をよぎった。ヘンリー・キッシンジャーは「トランプは歴史上、一つの時代が終焉(しゅうえん)を告げるときに登場し、その時代の虚飾を剥いでいく人物と言える」と語った。トランプ第2期の韓国の活路についての大戦略(Grand Strategy)を真剣に考えねばならないときがいよいよ迫ってきた。

李河遠(イ・ハウォン)外交担当エディター

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