▲平沢-堤川高速道路大所ジャンクションに設置されたピンク色と緑色の「路面色彩誘導線」。車線変更しようともたつく時間が減って渋滞解消に役立ち、交通事故も減らしてくれる。/韓国道路公社

 カーナビは2018年から「ピンク色の車線に沿って走行してください」と教えてくれる。道をよく覚えていないドライバーにとっては福音だ。「路面色彩誘導線」がなかったころは、方向を忘れてとんでもない道に行ってしまい、時間とエネルギーを空費した経験があるはずだ。複雑な高速道路の分岐点で、短い区間で車線を変更して交通事故も起きた。時には命まで失われている。

 2011年3月、安山ジャンクションで車線変更に関連する交通死亡事故が発生した。道路公社のユン・ソクトクさんはその日、「小学生(初心者)でも簡単に道が分かる対策を作れ」という指示を受けた。表示板や点滅等を追加する陳腐なやり方では解決できない問題だった。死亡事故が起きたのだから、自分の道路施設の設置がまずかったからなのだろうか…という憂鬱な気分で帰宅したユンさんは、子どもたちが絵を描いている様子を見て突如、アイデアが思い浮かんだ。道路に色を塗ればいいじゃないか!

 だが当時、道路には白・黄色・青・赤の4色しか塗ることはできなかった。道案内をしたいからと、別の色を使うのは道路交通法違反。ピンク色(右折)と緑色(左折)の誘導線を描こうというユンさんの提案は、同僚や専門家らの反対にぶつかった。「違法で危険な発想だ」「それによる事故や被害はあなたが責任を負うのか?」「あまり先走るな。私ならやらない」

 やけくそになったころ、最後に問い合わせをした警察官が「良いアイデアだ。人を救えるのなら何だってやろう」と言って助力者として乗り出した。警察庁の承認を得て同年5月に、安山ジャンクションに初めて色彩誘導線を描いた。塗色用のローラーを使い、手作業でやったので、かなり時間がかかった。交通渋滞が発生し、抗議の電話が殺到した。本分を尽くしても、悪口を言われた。

 こんな苦労の末に誕生して路面色彩誘導線は、韓国国民をさらに便利かつ安全な世界へと導いた。全国の高速道路のジャンクションやインターチェンジ、都心の交差点にも設置され、事故の危険を大幅に減らした。文字撮り「道路上の革命」。だが、最小の費用で最大の効果を挙げた公企業職員は、色彩誘導線が違法なので長年心配していた。道路交通法は2021年にようやく改正された。この事例は、韓国社会においてイノベーションがどれほど困難であるかを証明している。

 色彩誘導線は「誰が考案したにせよ国会議員100人より優れている」と好評だ。ユンさんをインタビューした記事には1500件のコメントが付いた。不便を解消すべき国会はこれまで何をしていたのかという叱咤と冷笑、不信…政治家が「国民の意向に沿いたい」「国民と共に戦いたい」と叫ぶときの、その「国民」とは一体誰か? その群衆名詞のあいまいさと匿名性を利用して、党派的欲望の素顔を隠す鉄板にしているのか?

 ユン・ソクトクさんは今年5月、国民勲章を授与された。「方向音痴」を救い、交通事故を減らした功績。彼が、現実と適当に妥協しつつ安住する人間であったなら、色彩誘導線の出現はさらに遅れたか、あるいは出現しなかったかもしれない。韓国社会が支払うべき費用を考慮すると、気が遠くなる。ある人は、ユン・ソクトクさんを「小さな英雄」と呼ぶ。遭難した船から船長が最後に離れるといった職業上の基本原則すら守られない様子を、至る所で目撃しているからだ。

 英雄がいない国が不幸なのではない。英雄を必要とする国が不幸なのだ。責任を回避せず、正直に働く人が多ければ、ことさら英雄は必要としない。そんな「普通の人々」がいない国は、必然的に英雄を探すことになる。韓国社会がこうも持ちこたえているのは、分かってくれようとくれまいと、自分の仕事場で奮闘する「ユン・ソクトク」たちが少なくないからだ。「ピンク色の車線に沿って走行してください」という案内は、自分の仕事を黙々とやり遂げる人々に向けた応援歌のように聞こえる。

朴敦圭(パク・トンギュ)記者

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