▲グラフィック=梁仁星(ヤン・インソン)

 米外交協会(CFR)のスミ・テリー研究員が米検察当局に起訴されたことを受け、韓国大統領室は18日「文在寅(ムン・ジェイン)前政権に対する監察が必要となる事案」とコメントした。スミ・テリー氏は米連邦政府に報告しない状態で韓国政府のために活動したとして米検察当局に起訴された。韓国大統領室のある幹部は同日「(国家情報院の担当者が)カメラで撮影された失態など、全てが文在寅前政権で起こったことだ」「専門的な知識やノウハウを持つ担当者を全て排除し、アマチュアばかり使うからこんな問題が表面化した」とコメントした。

 文在寅政権は2019-21年、6・25戦争の「終戦宣言」を実現させるため無理な対米外交を展開したが、今回の起訴や当時の状況に詳しい複数の人物の話を総合すると、この文在寅政権の動きが今の問題につながったと考えられる。19年1月に徐薫(ソ・フン)国家情報院長(当時)がワシントンを訪問した際、テリー氏は韓国の国家情報院の要請を受け米国防総省幹部らと接触し、徐薫院長と非公開の話し合いの場を設けたが、この事実を米検察当局は問題視した。ベトナムのハノイで開催された2回目の米朝首脳会談を1カ月後に控えた当時、文在寅政権は終戦宣言の実現に向け総力を傾けていた。この場に出席した米情報当局の元幹部は米連邦捜査局(FBI)に対し「この話し合いの場はあまりに非常識だった。シンクタンクの関係者から招待され、外国の情報機関トップ(徐薫院長)に会うなど前例が思い付かない」と供述したという。

 テリー氏は文在寅政権の政策に決して賛同はしていなかった。2019年2月にテリー氏は新聞のコラムで「終戦宣言が実現すれば、平壌と北京が国連軍司令部の解体、そして最終的に在韓米軍撤収を要求する口実になりかねない」と警告していた。それでもテリー氏と国家情報院とのやりとりは続いた。国家情報院の当時の担当者は19年11月、テリー氏にブランド品のコートとハンドバッグを買い与え、さらにこの担当者の後任も21年4月にテリー氏にブランドバッグを提供した。

 当時は文前大統領と大学後輩の米国在住韓国人を中心に、米国議会に対して終戦宣言ロビー活動も行われていた。韓国の共に民主党議員らと米国議会の議員らを顔合わせさせたこの在米韓国人は、2021年に民主平和統一諮問会議の米州副議長に就任した。この頃からすでに韓人社会では「米国籍者が韓国政府機関所属の立場で韓米政界の橋渡しをすれば、『外国代理人登録法(FARA)』に抵触する恐れがある」などの懸念が浮上していた。トランプ政権陣営の「ロシア・スキャンダル」を巡る特別検事の事案後、米法務省はFARA関連の捜査に力を入れていた。

 米法務省は当時からすでに韓国政府に対して警告を行っていた。ある外交筋が18日に明かした内容によると、米法務省は2021年に韓国政府、そしてシンクタンクなどへの支援を行う韓国外交部(省に相当)国際交流財団(KF)に書簡を送り「韓国政府のために活動するには、外国代理人として登録する必要がある」と警告したという。テリー氏がワシントンのあるシンクタンクでKFから資金援助を受けながら「KF韓国局長」を務めていた時点でのことだ。

 KFは当時「KFは独立した機関であり、FARAが適用されない文化、学術交流を行っている」として異議を提起した。しかし米法務省は「KF理事長が『公共外交』や『地域の平和増進』などについて語ったことを把握している」としてFARAの適用対象であると反論した。文在寅政権はKFを外国の代理人として登録していなかった。

 KFが警告を受けていた事実は2022年5月の尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権発足後も明確には伝えられなかったようだ。国家情報院で「徐薫ライン」とされる担当者も交代しなかった。この担当者は22年6月、米国務長官主催の非公開会議が終了すると同時に、出席者の一人だったテリー氏を外交官の公用車に乗せメモを撮影した。テリー氏が所属していたシンクタンクには22年5月と23年4月の2回、駐米韓国大使館名義で資金援助も行われていた。外国政府がシンクタンクに資金援助を行い、イベントへの協力を要請することはワシントンでよく行われる「外交活動」だ。

 2023年3月にテリー氏は尹錫悦政権の外交部から連絡と資料を受け取り、ワシントン・ポストに「韓国は日本との和解に向け勇敢な行動を取った」という趣旨のコラムを執筆した。テリー氏が外交部担当者に「コラムが気に入ってくれたらうれしい」とメールを送ると、この担当者は「(駐米)大使や(韓国大統領室)国家安保室長は非常に喜んでいる」と返信した。23年4月にテリー氏は韓国外交部から依頼を受け、韓米同盟関連のイベントも開催した。韓国外交部の担当者は「当時のテリー氏をはじめとするワシントンの識者の主流派は以前から韓日関係改善には前向きで、専門家への寄稿依頼もよくあること」と説明した。

 一方米国務省で韓半島政策担当のトップを務めていたチョン・パク副次官補が今月5日に突然辞任したが、これについても今回の捜査との関係性を指摘する見方が浮上している。米検察当局の起訴状にはテリー氏について「韓国関連の業務を担当する国務省幹部と親密な関係を維持していると語った」との記載があるが、この点はチョン・パク元副次官補を巡る動向とも一致する。

金真明(キム・ジンミョン)記者

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