▲今年11月の米大統領選挙でドナルド・トランプ前大統領のランニング・メイト(副大統領候補)として取りざたされているJ・D・バンス上院議員=写真左=。写真は昨年11月、J・D・バンス上院議員がスティーブン・バノン氏のインターネット放送に出演した時のもの。写真=動画共有サイト「ユーチューブ」より

 米大統領選挙で勝利への期待に胸を膨らませている米共和党の関係者らは最近、「選挙後の党の姿を予測しようと思うなら、スティーブン・バノンにあらためて注目せよ」とよく口にしている。かつて「トランプ氏の右腕」「策士」と呼ばれた人物だ。米国の主なメディアはバノン氏のことをトランプ政権以降「居場所がなくなった人物」とみている。しかし、同党支持者の間では「選挙が近づくにつれ、バノン氏の存在感はますます大きくなっている」と言った。それ以降、バノン氏が司会進行を務めるポッドキャスト放送『ウォー・ルーム(war room)』をよく聞いている。

 「本当に情けないです」。バノン氏は先日の放送で、ゲストとして登場した米共和党のある議員をこのようになじった。直ちにバイデン大統領を弾劾し、その息子を刑務所送りにしなければならないのに、なぜ手をこまねいているのか、という説経がしばらく続いた。どちらが議員で、どちらが司会者なのか分からないほどだ。進行が「辛口」であるのにもかかわらず、バノン氏の放送に出演を希望する米共和党の実力者たちは列を成している。バノン氏が率いる熱狂的なファンたちから支持を得ることになるからだ。番組視聴者からの支援金も手に入る。副大統領の有力候補とされるJ・D・バンス上院議員、ジム・ジョーダン下院司法委員長ら数十人の有力政治家がバノン氏から教示をもらって帰っていった。

 放送には「ワクチンが自閉症を誘発し、地下組織が全世界を転覆しようとしている」というデマや陰謀論が随時飛び出す。昨年、米国のシンクタンク「ブルッキングス研究所」が3万を超える政治放送を全数調査したが、その中で「フェイクニュース」を最も多くばらまいたのが『ウォー・ルーム』だった。ところがバノン氏はその調査結果を「名誉な勲章だ」と言った。そもそも事実が重要なのではないからだ。反対陣営がさす後ろ指を「味方」の結集に利用する方法をバノン氏はよく知っていた。

 米合衆国議会議事堂乱入や下院議長追放などのすべてを背後から誘導した人物こそバノン氏だ。攻撃的な支持者たち、強硬派議員たちに「直ちに行動せよ」と催促して彼らを動かした。そのバノン氏が最近はバイデン政権の人々に対する「報復捜査」を最優先課題に掲げている。大統領選挙の結果がどうなっても「混沌(こんとん)」をあおるバノン氏の発言はさらに激しくなるだろう。その結果が何に返ってくるのか、考えるのも恐ろしい。

 バノン氏のことを考えていると、左派系ジャーナリストの金於俊(キム・オジュン)氏の姿が何度も重なって見えた。最近、韓国政界で繰り広げられている最大野党・共に民主党の「弾劾ショー」も金於俊氏の放送で議論され、決定された。「検事弾劾案」発議の数カ月前から金於俊氏は何度も「この人(検事)たちを弾劾しなければならない」と言っていた。尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領弾劾聴聞会の推進計画を共に民主党が公にしたのも、金於俊氏の放送でのことだった。理念的には両方の極にあるが、憎悪と対立を栄養分とする「極端政治」に頼って生き延びているという点で、2人は同じ境遇にある。

 バノン氏は今月初め、米紙ニューヨーク・タイムズとのインタビューで「私は『ジャーナリスト』ではない」と言った。理念を前面に掲げ、熱烈な支持層を動かす「扇動家」であることを隠していないのだ。金於俊氏もやっていることは変わりがない。ところが、金於俊氏は自身を「ジャーナリスト」と名乗っている。事実を追い求め、真実を問いただすジャーナリストを自称し、根拠のないうわさ、巧妙に操作された虚偽事実を垂れ流す。危険なのはどちらなのだろうか。

ワシントン=イ・ミンソク特派員

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