ソウル市がいわゆる「脱施設」政策として障害者居住施設を退所した重度の障害を持つ55人を調査した結果、6人(10.9%)が退所後3年以内に死亡していたことが分かった。脱施設とは、障害者居住施設にいる障害者たちを退所させ、地域社会で暮らせるようにするものだ。脱施設政策は、一部の障害者居住施設で障害者への虐待が発生したことにより、施設収容が障害者の尊厳を侵害するという批判が起き、本格的に進められるようになった。韓国国内では出勤途中の地下鉄搭乗デモを行った全国障害者差別撤廃連帯(全障連)などが脱施設政策を要求している。一方、一部の障害者家族による団体は、脱施設が「24時間ケア」の負担を障害者の家族に負わせる政策だと反発している。ソウル市の調査結果を入手した国民権益委員会(権益委)は「発達障害の特性が考慮されていない脱施設政策により、深刻な人権侵害が発生している」と指摘する。

 7月8日現在の本紙の取材をまとめると、ソウル市は2021年4月に閉鎖された京畿道金浦市の障害者居住施設「享有の家」を退所した障害者のうち55人を追跡調査した。享有の家は脱施設理念に従って19年から100人を超える障害者を送り出した。退所した障害者のうち55人がソウル市の支援する住宅に定着した。全員が重度の障害者であり、大多数が知的障害や自閉症を伴うなど、発達障害のある障害者たちだった。

 ソウル市が昨年2月にこれら障害者の状況を確認したところ、6人がすでに死亡していたことが分かった。下肢脊髄まひを患っていたAさん(68)は、2021年に退所し1カ月で床ずれとなったが、すぐ発見できなかった。Aさんは病院に運ばれたものの、敗血症で3カ月後に死亡した。知的障害のあるBさん(47)は、家族がいない無縁者だったが、21年に施設を退所し、同年死亡した。肢体障害者Cさん(51)も、19年の退所から3年で亡くなった。このほか3人は、いつ、どのように死亡したのかも確認されていない。

 死亡者を除いた49人のうち4人は他の施設に移動し、7人は家族と共に暮らしていることが分かった。残りの38人はソウル市支援住宅で「自立」していた。ところが、このうちコミュニケーションが可能なのは9人だけだった。ほかの9人は頭の動きや「はい」「いいえ」程度の言葉しかできず、20人はコミュニケーションが全く不可能だった。にもかかわらず、16人の退所同意書は、障害者本人が自筆署名したか、印鑑を押したことになっていた。一部の障害者は住民センターに印鑑登録し、印鑑証明を発給したことになっていた。

 ソウル市は昨年7月、こうした調査結果の一部を公開し、6人がすでに死亡していたことと生存している障害者の退所書類が疑わしいということについては公開しなかった。調査結果を入手した権益委は、死亡した障害者が施設に引き続き入所していれば、24時間ケアを受けることができるため、死亡に至らなかった可能性もあるとみている。また「発達障害者の施設退所決定が専門医の判断や所見なしに盲目的に行われている」と指摘した。各発達障害者に24時間ケアが必要なのか、自立した生活が可能なのかを専門医が判断する手続きが無視されているというわけだ。さらに権益委は「発達障害者は障害者支援住宅への申請や契約書の作成ができる状態ではないが、支援住宅に入居している」とし、誰かが住宅契約のために障害者の印鑑を代理で登録している可能性も指摘した。

 権益委は、障害者の支援住宅を運営する事業者が障害者活動の支援機関を合わせて運営することで「障害者の供給機関」となっていると批判した。施設に居住していた障害者を退所させ、支援住宅に「誘致」することで、これら障害者を対象とするケア事業まで受注。政府予算を得ることができるといった構造だ。

 権益委は10日、国会でこうした分析結果を公開し、脱施設政策および発達障害者のケアと関連した制度改善を関係部署に勧告する案を検討した。

キム・ギョンピル記者

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