▲ソウル市西大門区の国民年金公団ソウル北部地域本部/ニュース1

 「1日に1500億ウォン(約173億円)」――。韓国国会で国民年金改革案が処理されないために、毎日積み上がる国民負担だ。2055年には国民年金基金が底をつく。2093年までの累積赤字は、2京1656兆ウォンに達すると予想されている。

 今年7月5日、与野党は現在9%の保険料率(所得ベースの納付額の料率)を13%に引き上げることで合意した。所得代替率(年金受給額が現役世代の平均手取り収入の何%に相当するかを示す指標)も44%とすることで妥協した。同案が国会を通過すれば、基金が払底する時点は9年先送りされ2064年となる。2093年までの累積赤字は3738兆ウォン減少する。しかし、国会が年金改革案を処理しないため、1年に約54兆ウォン、1日に1484億ウォンずつ赤字が膨らんでいるのだ。

 年金改革が遅々として進まず、これまで蓄積した基金を消費する間、年金を取り巻く状況は急激に悪化している。韓国統計庁の「長期人口推計」によると、65歳以上の人口は来年初めて1000万人を突破する。それと同時に、韓国は65歳人口の割合が20%を超え、超高齢社会に入ることになる。一方、出生率は世界最低水準にまで低下。今年の年間合計特殊出生率は初めて0.6台に低下する可能性が示されている。韓国の0~4歳の人口は北朝鮮より少ない。こうした人口構造は年金財政をさらに悪化させている。また、国家財政に深刻な負担となるため、国際通貨基金(IMF)などは韓国経済の最優先課題として、年金改革を挙げるほどだ。国内外が韓国経済を脅かす最も大きな時限爆弾として「国民年金」問題を指摘しているのだ。

 年金改革は労働、教育と共に、尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権が国政課題として掲げた三大改革の一つだ。国会改選前の国会会期終了直前、保険料率13%、所得代替率44%への調整案を優先処理しようという共に民主党の李在明(イ・ジェミョン)代表の提案を大統領室は断った。「与野党が時間に追われて決定するのではなく、国民全体、特に青年世代の意見を十分に反映する必要がある」という理由だった。

 ボールは改選後の国会にあるが、国会はまだ年金特別委員会の設置もできていない。政府・与党は「国民年金の枠組み自体を変更する構造改革も同時に進めなければならない」との立場だ。国民年金と基礎年金、各種特殊職域年金を統合するなどの構造改革は1~2年で解決できる問題ではないというのが専門家の意見だ。野党は「年金改革は政府が主導すべき問題だ。我々が懇願する問題ではない」というムードだ。このため、さらに時間を無駄にする可能性が高い。

 国民の負担を増やそうという年金改革は人気のない政策に違いない。フランスのマクロン大統領は、2022年に再選に成功すると、定年を62歳から64歳に延長し、年金を100%受け取るための保険料納付期間を、従来の42年から43年に延ばす年金改革をわずか1年未満の期間で断行した。その過程で激しい批判に直面したことが、マクロン大統領の不人気の主な原因の一つとして挙げられる。

 尹錫悦大統領も年金改革が「票」にならない政策であることを熟知している。政権発足当初、周囲の参謀がそうした懸念を伝えると、「大統領は再選できるわけでもなく、こうしたことをまともに取り組まないならば、いったいなぜ大統領をやるのか」と語ったという。尹大統領のそんな気持ちは変わってしまったのだろうか。医療改革、労働改革で見せた強い推進意志が年金改革では全く見えない。どうせ根気強く改革を推し進めようと決心したのならば、国家と国民のために今何が最も重要で、何が現実的にできるのか考えるべきだ。「与小野大」の国会では、したくてもできないことが多い。手遅れになる前に野党も同意した年金改革のアクセルペダルを踏まなければならない。

辛殷珍(シン・ウンジン)社会政策部長

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