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 中国が、「フルーツの王様」と呼ばれるドリアンの世界最大の消費国という立場を利用し、東南アジア諸国を翻弄(ほんろう)している。友好国に対しては市場を開放する一方で、少しでも摩擦を抱える国には突然輸入禁止措置を取るといった具合だ。中国の強力な「ドリアン覇権」に、東南アジアの国々の明暗が分かれている。

 中国海関総署(韓国の関税庁に相当)は先月25日、中国生物安全法と検疫など関連要件を満たすマレーシア産の生ドリアンについて、輸入を認めると発表した。これは先月19日、中国の李強首相がマレーシアとの国交樹立50周年を記念してマレーシアを訪問した際に約束したものだ。これでマレーシアは、タイ、ベトナム、フィリピンに続き、中国に生ドリアンを供給できる4番目の国になった。

 トゲがある分厚い皮に包まれたドリアンは、強烈な香りを放つが、黄色い果肉は甘くてバターのように柔らかく「悪魔のフルーツ」「フルーツの王様」と呼ばれている。中国でドリアン1個の価格は大きさ・品種によって200-300元(約4430-6640円)ほどだ。スイカ10個分に匹敵する高級フルーツだが、飛ぶように売れている。中国はドリアンの消費量のほとんどを輸入に頼っているが、昨年だけで67億ドル相当の生ドリアンを輸入した。これは中国が輸入しているフルーツの中で1位だ。4年前の2019年(16億ドル)と比べると4倍以上増えている。英誌エコノミストは「中国は、全世界の輸出用ドリアンのほぼ全てを買い占めている」と指摘した。

 中国はこのように巨大なドリアン市場を、東南アジア諸国を手なずける外交カードとして利用している。このところ親中的な態度を見せるマレーシアに市場を開放したことが代表的な例だ。マレーシアは、中国と東南アジアの国々が領有権を巡って争う南シナ海問題に対し、相対的に融和的態度を見せてきた上、5G(第5世代)移動通信事業にも中国企業ファーウェイ(華為技術)の参加を認めた。中国とロシアが主導する新興国連合体「BRICS」に加盟する意思も明らかにしている。ドリアン市場への進入権は、中国がマレーシアに贈るプレゼントのようなものだ。

 一方、ほぼ同じ時期に中国は、ベトナムの農場18カ所と流通企業15社、合わせて33の供給ラインからのドリアン輸入を停止した。表向きの理由は、ベトナム産のドリアンから過剰な量の重金属が検出されたというものだ。ベトナムは昨年だけで20億ドル相当のドリアンを中国に輸出した。これは中国に輸出する農産物全体(115億ドル)の18%に相当する。今年1-4月にも4億3200万ドル相当を中国に輸出し、前年同期比で170%近く増加した。そのため中国による輸入停止措置はベトナムの農家にとって大きな打撃となっている。

 中国がベトナム産ドリアンの輸入を停止した本当の理由は明らかになっていない。ただし、強大国に抱き込まれずに実用を強調するベトナムの「竹の外交(柔軟でありながらも強い竹の性質になぞらえた外交姿勢)」が中国の機嫌を損ねた可能性はある。ベトナムは数年にわたり、米中対立の中で中国をけん制できる域内パートナーとして米国が重視している相手だ。昨年9月にはバイデン米大統領が自らベトナムを訪問し、両国関係が「包括的戦略パートナーシップ」に格上げされた。今月に入ってからはロシアのプーチン大統領がベトナムを訪れた。

 中国が相手国に警告を与える際に食糧輸入を武器にするのは珍しいことではない。2012年に南シナ海の領有権紛争が原因でフィリピンとの関係が悪化した際には、害虫問題を理由にフィリピン産バナナの輸入を禁止した。中国からの独立を主張する台湾政府寄りであることから、中国は何かにつけて台湾産パイナップル、マンゴー、タチウオやアジなど魚類の輸入停止・再開を繰り返している。フルブライト大学ベトナム校のウエン・タン・チュン教授は「(ベトナムの)ドリアン販売者たちは、中国が貿易を制裁手段として使う可能性があるということを知っている」と指摘した。

北京=イ・ユンジョン特派員

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