▲ソウル明洞の両替所の店頭に表示された為替レート/4月28日、聯合ニュース

 最近韓国が1人当たり国民総所得(GNI)で初めて日本を上回ったというニュースを聞き、日本に留学していた世界的金融危機の時代を思い出し、隔世の感だった。当時は円が急騰し、留学生は大打撃を受けた。円・ウォン相場は2007年には100円=約750ウォンだったが、2008年には同1500ウォンを超えるほどウォン安が進んだ。円高では日本商品が海外で割高になるため、日本の貿易収支を悪化させる悩みの種でもあった。 

 日本は今、金融危機の当時とは真逆の状況を経験している。コロナが終息し、最近数年間で円の価値が急激に低下した。オーストラリアなどの外国で働けば、日本の2倍も稼ぐことができるため、日本の若者たちが熱心に働いても、外貨ベースでは収入が他国を大きく下回ると報じられている。

 また、日本人が外国に旅行に行くことも簡単ではなくなった。休暇シーズンにハワイに行った日本人が物価を心配し、宿で自炊できるように日本から米や食材を持っていったと報じられている。東南アジアから日本に来た労働者は、以前と同じ金額の円を送金しても、自国通貨では目減りしてしまい不満を抱いているという。

 日本はコロナ以降、インフレを経験している。勿論それは日本だけでなく世界的な現象だ。しかし、インフレに関連し、日本が他国と異なる点は、コロナ前に30年近くにわたるデフレを経験していたことだ。毎年物価が上がった多くの国とは違い、日本経済は長い間、多くの財貨やサービスの価格が固定されていた。そのため、最近のインフレは30年ぶりに経験する大きな変化だ。約20年間日本で暮らしている筆者は、理髪店でもレストランでも値上げに驚く。

 日本だけが持つもう一つの特徴は、円安による追加インフレだ。2021年末から米国をはじめ主要先進国が物価を抑えるために利上げに踏み切ったが、日本ではまだまともに利上げが行われず、その結果として円の価値が下落し続けた。それは当然、輸入物価の上昇につながる。自宅前のスーパーマーケットで500ミリリットル入のコーラは10年以上、1本100円以下で買うことができた。しかし、今は100円玉では買えなくなった。

 インフレが日本に悪影響だけを与えるとは言えない。デフレで低体温症を経験した日本経済に温風を吹き込んだとも言える。賃金はかなり上昇した。日本労働組合総連合会(連合)によると、今年の春闘の平均賃上げ率は5.25%だった。これは30年間で最も高いの賃上げ率だ。2019年に東京都の最低賃金は1013円だったが、2023年には1113円まで上昇した。

 現在、日本は外国人観光客の急増に苦しんでいる。日本の商品やサービスが安いと感じた外国人が押し寄せ、需要を増やすため、日本経済にとっては良いシグナルでもある。筆者の職場がある渋谷駅近くでは外国人観光客で路上も飲食店も混雑している。観光産業に携わる日本人の収入も増えたとみられる。

 円安が長期化する原因の一つは、日本企業や個人による海外投資の拡大だ。円ではなく外貨に対する需要が高まるためだ。日本政府によると、日本の対外純資産は2023年末現在で471兆3061億円だった。1年間で12.2%増え、過去最高となった。日本は33年連続で世界最大の純債権国の座を守った。

 円高の当時に行われた多額の海外投資による資産は、最近の円安局面で「ドル箱」の役割を果たしている。円に換算すれば、日本の資本家と企業の資産が増えたと言えるからだ。日本政府が円安対策に積極的に取り組まない理由の一つだろう。

高準亨(コ・ジュンヒョン)青山学院大教授

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