社説
休戦ラインに壁を建設しても北朝鮮の若者による韓国への憧れは防げない【6月17日付社説】
北朝鮮が休戦ラインに沿って壁の建設を進めていることが分かった。西部・東部・中部の軍事境界線を北に1キロ離れた地点に沿った場所で壁の建設工事とみられる作業の様子が韓国軍の監視機器により捕捉された。先日も10人ほどの北朝鮮軍兵士が中部戦線の軍事境界線を50メートル以上韓国側に侵入する事件が発生したが、これも壁建設と関係していた可能性が高い。北朝鮮は壁と最前線部隊をつなぐ戦術道路も建設中で、軍事境界線の北側には地雷も追加で埋設しているという。休戦ラインの鉄条網に壁や地雷まで設置されれば、南北は完全に分離されるだろう。
北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記は昨年末、南北関係を「敵対的2国間関係」「戦争中の交戦国関係」と規定した。現在北朝鮮は「統一」関連の用語を削除し、組織を撤廃し、数々のオブジェなども全て撤去している。金正恩総書記は2018年の南北首脳会談で「統一に向けた努力」「敵対関係の終息」「交流拡大」「ソウル訪問」などを約束した。文在寅(ムン・ジェイン)前大統領は平壌で行った演説で「どれほど民族和解が渇望されているかを確認した」と述べた。ところが「非核化ショー」を通じて北朝鮮制裁を解除させる計画が挫折し、コロナや経済難などで北朝鮮内部も動揺しているため、金正恩総書記はついにその本心を表し始めた。金氏王朝は、自分たちにとって最大の脅威は米国でも中国でもなく、国民が豊かに暮らす大韓民国と考え始めたのだ。
金正恩総書記は2020年末、韓流阻止を目的とする「反動思想文化排撃法」を制定し、韓国ドラマを視聴あるいは広めた人間を処刑することを決めた。その際金正恩総書記は「脊髄を削り取って殺せ」と指示した。韓国に対する憧れが金氏世襲独裁の根幹を破壊することを恐れたのだ。北朝鮮に強制送還された脱北者で韓国行きを目指していたケースや、韓国人や教会などと接触した事実が明らかになった場合、政治犯収容所行きか、あるいはその場で処刑するほど彼らは神経質になっている。金正恩総書記は北朝鮮住民の脱出を阻止するため1400キロにわたる中朝国境全域を鉄条網で封鎖することも決めた。
「市場世代」とも呼ばれる北朝鮮のMZ世代(1980年代ー2010年生まれ)はそれまでの世代とは異なる。朝鮮労働党ではなく市場が自分たちを食わせ、生かしてくれたことを体験した彼らは、金正恩総書記の権威に無条件服従することはしない。今も休戦ラインの北側には北朝鮮の50万-60万人のMZ世代が兵役に就いている。北朝鮮への拡声器放送が再開されれば、彼ら最前線の北朝鮮軍がまず韓流や外部の情報に接するようになるだろう。北朝鮮体制の特性上、米国のミサイルよりも自由世界の情報の方がはるかに脅威だ。休戦ラインの壁の第一の目的は「MZ世代の北朝鮮軍兵士」の脱北を阻止することにある。
旧東ドイツは1961年にベルリンの壁を建設したが、自由世界の情報流入を阻止することはできず、国内の不満や矛盾が爆発すると、壁は一瞬にして崩壊した。今後北朝鮮もそうなるかもしれない。