▲李河遠(イ・ハウォン)外交担当エディター

 今年5月に開催された済州フォーラムの韓日関係セミナーには、印象深い幾つかの場面があった。朴喆熙(パク・チョルヒ)国立外交院長と共に発表者として登場した日本側の人物は森健良・元外務次官。議院内閣制の日本において、外務次官は外交官の最高位だ。ほんの9カ月前まで日本外交を指揮してきた人物が、韓国で開かれた公開セミナーに出席したのだ。2018年の大法院(最高裁に相当)による日帝徴用賠償判決、19年の安倍内閣による経済制裁で両国関係者が握手すらしなかった時期には、想像することも困難だった。森・元外務次官はこの日、「尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の(韓日関係正常化)決断に対しては尊敬するほかない」と語った。昨年の東京訪問時、親交のあった日本の外交官から私的な席で「尹大統領を尊敬するようになった」という言葉を聞いたことがある。だが、公の席で日本側の要人から同じような言葉を聞くだろうとは、夢にも思わなかった。

 セミナーの聴衆の相当数は、東京から修学旅行でやって来た高校生だった。およそ30人の日本の高校生が2時間近く、耳を傾けてしっかり聞き入っている様子だった。高校生のうち3分の1ほどは通訳機を付けていなかった。韓国語を聞き取れる生徒が少なくなかったのだ。森・元外務次官と夕食を共にした際、駐韓日本大使館の幹部も同席した。その人物に「日本から修学旅行でやって来た生徒たちを見て感動しなかったか」と尋ねると、明るく笑いながら「感動した」と答えた。

 済州フォーラムのエピソードが象徴するように、昨年3月の尹大統領の決断以降、韓日関係は安定化している。ネイバーが株式を持っている「日本の国民的メッセンジャーアプリ」LINEの問題がさらなる拡大を見せないこと、韓国海軍と海上自衛隊が5年半ぶりに、東海で発生した軍事的対立の再発防止に合意したことがこれを象徴する。

 それにもかかわらず、多くの韓国国民は、韓日関係の回復を実生活の中で体感できていない。こういうときに両国の国民が「韓日関係が良くなったので便利になった」と感じる措置を大胆に取ってこそ、両国はさらに未来志向的に進んでいくだろう-という提案は多い。その中でも代表的なのが、入国の簡素化措置だ。両国は、2022年の新型コロナ問題でいったんは中断していた相手国観光客のノービザ入国を再開し、相互訪問客は増える傾向にある。観光業界は、今年は1000万人の韓国国民が日本を訪れ、300万人の日本人が韓国を訪れるだろうと推定している。そのため、とりわけ韓国の観光客が日本を訪問する際、入国審査場で長時間待つケースが頻繁に発生している。飛行機が日本の空港に降りてから30分以上も列を作って待つケースも少なくない。

 これを解消するため、事前入国審査制を施行する必要がある。事前入国審査制は、出国審査時に相手国の入国審査を一緒に受けて、到着後は専用の出口を利用し、便利に入国する制度だ。これは両国間の合意で既に施行された前例がある。韓日FIFA(国際サッカー連盟)ワールドカップ大会当時の2002年5月15日から6月30日まで、事前入国審査制が施行された。当時、成田空港・仁川空港にそれぞれ14人の出入国審査官が派遣され、出入国審査を一度に処理した。韓日両国がこの制度を復活させれば、飛行機から降りた後、入国審査場で列を作らなくてもよく、旅行の時間を短縮できる。韓国は国内に15の空港があるが、日本は100を超える。このうち20近くが国際空港なので、韓国の方がより多くの恩恵を受けることもできる。

 来年は韓日国交正常化60周年に当たる年だ。両国政府が尹錫悦・岸田宣言を通して、政治的に意味のある分岐点を作ることも重要だ。これと共に、韓日の旅行客が入国審査場で列を作らなくてもいい措置を施行すれば、両国国民に実質的な恩恵を与えるのはもちろん、後に経済共同体をつくる基調にもなり得るだろう。

李河遠(イ・ハウォン)外交担当エディター

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