▲韓国各地に飛んできた北の対南風船-慶尚南道居昌郡渭川面の水田で29日、北朝鮮が飛ばした対南風船が発見され、警察が出動して現場を調べている様子。/慶南消防本部

 北朝鮮が飛ばしてきた数百個の「汚物風船」が韓国全域を覆った。北朝鮮と接する京畿道・江原道はもちろん、韓国軍の陸海空軍本部がある忠清南道鶏竜台、白頭大幹を越えた先に位置する慶尚南道居昌でも発見された。

 韓国軍によると、北朝鮮は28日の夜から29日の午後まで十数時間にわたり、汚物をぶら下げた大型風船をばらまいた。北朝鮮が最近、ある対北団体によるビラ散布を「挑発」と規定し、今月26日に「紙くずと汚物をばらまく」と予告してからわずか2日後のことだった。韓国軍の合同参謀本部(合参)は「29日午後4時までに確認された対南風船はおよそ260個で、北朝鮮軍が1日で散布したものとしては歴代最大の規模」とした。

 北朝鮮の金与正(キム・ヨジョン)労働党副部長は29日の夜に談話を通して、対南汚物風船は「人民の表現の自由」だとし、散布を制止するには限界があるので「大韓民国政府に丁重に了解を求めるところ」と述べた。韓国政府が、対北ビラは表現の自由であって禁止できないと言っているのを、皮肉ったのだ。その上で金与正副部長は「自由民主主義の幽霊たちに届ける心のこもった『誠意の贈り物』」だとし「引き続き、引き続き拾い上げなければならないだろう」と主張した。

 対南風船には、家畜の分泌物が入った肥料、たばこの吸い殻、紙くずなど汚物が入った袋が取り付けられていた。「ビラ」など体制宣伝用の伝単などは現在までのところ確認されていない。ごみだけを南側に送り込んでいるのだ。北朝鮮は2018年の平昌冬季オリンピック前後に対南風船散布をやめたが、今回およそ6年ぶりに再開した。合参は「レベルの低い行為を即刻中断すべきことを厳重に警告する」とコメントした。

 北朝鮮は、29日の早朝には西海地域で南側に向けてGPS(衛星利用測位システム)電波のかく乱攻撃を実施した。韓国軍は、対南風船とGPSかく乱による人命・財物の被害はないと伝えた。北朝鮮の「グレーゾーン挑発」が本格化したという見方が出ている。戦争ではない軍事手段で韓国社会を揺さぶろうとする戦略だ。韓国政府の関係者は「韓国国民や政府がこうした心理戦・複合脅威に果たして動揺するかどうかテストしたいと思って行っている」と語った。

 北朝鮮との隣接地域に当たる京畿道東豆川・坡州などでは28日の夜から、風船の残骸および汚物が見つかったとの通報が相次いだ。風船は、北朝鮮との隣接地域から300キロ近く離れた慶尚南道居昌郡でも発見された。韓国軍の消息筋は「通常型の爆弾に放射性物質を詰めた北朝鮮版『ダーティー(汚い)ボム(dirty bomb)』攻撃は心配したが、本当にごみを送るとは予想外」と語った。

 京畿道の住民は、28日の深夜に発信された災害ショートメールで恐怖に震えたこともあった。災害ショートメールは、北朝鮮の対南ビラと推定される未詳の物体が識別されたという内容だったが、「対南伝単推定未詳物体」という表現があいまいな上、災害ショートメールに「Air raid preliminary warning(空襲予備警報)」という英文が添えられていたからだ。空襲という単語を見て「本当に戦争が起きたのか」という問い合わせが相次いだという。京畿道漣川郡に住むパク・タソムさん(36)は「いきなり鳴り響いた警報のショートメールに、いつものように行方不明通報のショートメールだろうと思ったら、唐突にも『対南ビラが散布された』という内容だった」とし「深刻な状況なのだろうかと不安に思い、しばらく眠れなかった」と語った。

 北朝鮮軍が散布している対南ごみ風船は、直径2-3メートルの風船二つから成り、静電気で風船を破裂させる電子装置が付いている形態だと分かった。タイマー方式で、特定の時間になると風船が破裂してごみの入った袋を地面に落とす仕組みだという。昔と違って、重さ40-50キロの物まで運搬が可能だ。韓国軍は、28日の夜に対南ごみ風船の南下を捕捉した後、「マニュアル通りに対応せよ」と伝えたという。民間地域に対する照準射撃は対民被害の恐れがあるので撃墜するな、という意味だという。

 韓国軍関係者は「対北ビラ、対北拡声器放送などを活用した比例的対応を検討している」と語った。ネットでは「韓国も大便を送るわけにはいかないので、北朝鮮で人気だという映画『破墓』を収めたUSBメモリーをばらまこう」「北朝鮮が南側に堆肥を送ったが、韓国も人道的観点から北朝鮮全域に『肥料風船』を飛ばそう」などの反応が出ている。

 だが、北朝鮮の全方位的風船散布を「ハプニング」としてやり過ごしてはならない、という指摘も出ている。韓国軍の消息筋は「北朝鮮が対南風船を通して韓半島全域に対する投射力を示した」とし「北朝鮮が生物化学兵器を入れた風船を送ってきた場合、民間の被害も生じかねない」と語った。

 合参は「北朝鮮は2016年から18年まで韓国側にビラを散布して自動車が破損するなどの被害があり、風船に汚物を入れるなどの低レベルな行動を取った」とし「不審な物体を見つけた場合は触らずに通報してほしい」とコメントした。

 北の無差別対南ごみ風船散布に、対北団体も対抗を予告した。自由北朝鮮運動連合は、昨年10月以来7カ月ぶりとなる今月10日の午後11時ごろ、対北ビラ30万枚とトロット(韓国演歌)動画などを収めたUSBメモリー2000個を風船に積んで北へ送ったことがある。朴相学(パク・サンハク)代表は「風向きが北に変わる時期にまた対北ビラを飛ばして送る計画。今度は20万枚ほどを準備している」と語った。

ヤン・ジホ記者、議政府=キム・ヒョンス記者

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