反中基調を前面に押し出す頼清徳・台湾総統が5月20日に就任し、中国と台湾の間で衝突の危険が高まるという懸念が出る中、米国ワシントンの専門家らが「中国は戦争なしでも台湾を『接収』できる」という分析結果を得た。低強度の脅しを繰り返すことで台湾内部の「危険な反中より安全な親中がまし」という世論を拡散させ、米国・台湾関係の弱体化を誘導する戦略を通し、台湾を実効的にコントロールできる-という結論をシミュレーションを通して導き出した。

 米保守陣営を代表するアメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)と軍事戦略専門の米国戦争研究所(ISW)は最近、協同で発表した115ページの報告書を通して、こうした分析結果を明らかにした。AEIとISWは過去1年間、中国当局の立場から「ウォーゲーム(戦争シミュレーション)」形式の仮想シナリオを展開した結果、こうした結果を導き出したと明かした。本紙が入手した報告書によると、中国の最終目標は台湾といわゆる「平和協定」を結び、「平和両岸委員会」など政治機構を立ち上げて事実上台湾の支配権を獲得することだ。

 報告書は、中国が「戦争なき台湾支配」戦略を4段階に分けて進めるとの見通しを示した。頼清徳総統が就任した2024年5月から次期総統選挙がある28年まで、中国が台湾を実質的に支配するため遂行する仮想のシナリオを次のように提示した。

 第1段階は来年末まで。中国が台湾周辺の航路および航空路を閉鎖し、海底ケーブル切断、電子戦などを通して台湾社会の不安感を造成する。報告書は「(中国の妨害で)きれいな水道を利用できなかったりエネルギーが突然途切れたりして台湾社会は動揺することになり、政権の支持率は下落する可能性がある」とした。頼清徳政権の反中路線が中国をいら立たせ、台湾居住者の危険を大きくしている-という世論を形成することが目標だ。

 第2段階は米台関係のかく乱。米国は中国との貿易紛争の過程で、このところ台湾と一層密接になっている。台湾周辺の混乱は中国ではなく米国のせいだという世論を広めて台湾内部の反米感情を増幅させようというのが目的だ。米国では、米国民1億7000万人が使用している中国企業所有の動画シェアアプリ・ティックトックなど、ソーシャルメディアを動員して「他国の対立への介入を最小限にしよう」という外交基調である孤立主義の雰囲気を拡大する見込みだと報告書は示した。孤立主義は、今年11月の米国大統領選挙に共和党候補として出馬するドナルド・トランプ前大統領が掲げる「アメリカ・ファースト」の基調とも通じる部分がある。

 第3段階は海上封鎖など軍事的な脅しを徐々に強めていくと同時に、台湾内部に「中国との和親を通しての平和」世論を拡散させるというもの。報告書は「この過程で韓日など周辺国が台湾問題に神経を使えないように、北朝鮮の核実験および局地挑発などを誘導することもあり得る」と予想した。

 こうした過程を経て台湾と米国などで「台湾は中国と平和に過ごす方がよい」という世論が固まれば、最後の第4段階を通して平和協定を結び、平和委員会を立ち上げて「支配体制」を完成させるというのが報告書の結論だ。中国は1997年、英国が香港を返還した後、一時「一国両制(一国二制度)」を保障すると約束したが、結局は自由な言論への弾圧などを通して香港の自由民主主義を除去した。台湾もまた同じようなプロセスをたどる可能性が高い、という見方も出た。

 報告書は「米国およびインド太平洋地域の同盟諸国の支援に後押しされた台湾内部のいわゆる“分離主義者”を挫折させ、『両岸の平和』という名目で中国の要求に100%応じる(親中)政治家に権力を移譲するのが中国の計画」だとした。中国のこのような「台湾服属」シナリオは、北朝鮮の核・ミサイルの脅威に直面している韓国にも大きな示唆を与える、との指摘がある。米連邦議会の関係者は「中国と北朝鮮・ロシアなどは一様に挑発を継続しながらも、表向きは『平和』を叫んでいる」とし「中国などが展開している心理戦・世論戦の危険性をきちんと認識して対応すべき」と語った。

報告書の著者の一人、ダン・ブルーメンタールAEIシニアフェローは最近、同報告書の結果などを基に、米下院中国特別委員会のジョン・ムーレナー委員長(共和党)とラジャ・クリシュナムルティ筆頭委員(民主党)などと共に米国の対応案を話し合ったという。報告書は「米国政府が、中国の軍事的挑発の可能性にのみ集中して準備する場合、中国が既に隠密裏に進めている『ハイブリッド強圧戦略』にはきちんと対応できないかもしれない」と警告した。

ワシントン=イ・ミンソク特派員

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