▲北朝鮮人権活動家殺害未遂で使われた毒針ペン

 米ワシントンの「国際スパイ博物館」を取材した。4階の展示室では学生を含む観覧者が「わずか10年前までこんな機械を実際に使っていたなんて」「びっくりするし鳥肌が立つ」などと語り合っていた。

 国際スパイ博物館では先週から北朝鮮の暗殺犯や工作員などが実際に使った毒針ペンや赤外線カメラ、通信機器など7点が新たに展示され、大きな話題になっている。

 このスパイ博物館は2002年にオープンし、世界で最も多い1万点以上のスパイ関連展示物を所蔵している。昨年だけで69万人が訪れ、4年前にはギネスブックに登録された。この博物館で北朝鮮関連の展示は今回が初めてだ。今回本紙の取材に応じた博物館マネージャーのイライザ・ブラン氏は「博物館は世界中の新たな話題やテーマに関連する収蔵品を集めている」「今回入手した(北朝鮮関連の)展示物は他にはない幻想的なものばかりだ」と述べた。

 中でも最も注目を集めているのが暗殺道具の一つである毒針ペンだ。2011年に北朝鮮へのビラ散布を主張した元脱北民人権活動家で自由北朝鮮運動連合の朴相学(パク・サンハク)代表暗殺未遂事件が起こり、北朝鮮偵察総局のスパイが逮捕されたが、その際スパイが所持していたのがこの毒針ペンだ。当時朴代表はこの人物に会うところだったが、直前で韓国の情報機関に止められ幸い無事だった。

 このペンは一見するとごく平凡なパーカー製のシルバーのボールペンに見えるが、中にはペンではなく毒針が仕込まれている。右に3-4回回してからボールペンの上部を押せば毒針が銃弾のように飛び出す仕組みだ。毒針が命中するとその場で筋肉がまひし、息が詰まり命を失うという。この種の毒針はボールペンや万年筆などに仕込むのが容易で、射程距離も10メートルあるため近距離からの奇襲攻撃によく使われるという。1968年の青瓦台(韓国大統領府)襲撃事件でも使われ、1990年と95年の2回韓国に侵入したキム・ドンシク氏もこの毒針ペンを使った。

■自殺用毒入りリップスティック

 暗殺犯や工作員が使った「毒入りリップスティック」も博物館で注目を集めている。黒い容器入りのリップスティックだが中には毒が入っている。博物館は「通常10ドル(約1550円)もしないリップスティックだが、その中に毒が入っているので使用した人間はその場で命を失う」「暗殺ではなく自殺用に使われるケースが多い」と説明した。

■通信機器の短波ラジオやコード表など

 北朝鮮スパイは本国と効果的に遠距離通信する際には日本のパナソニック製短波ラジオRF-B65を使った。また北朝鮮の乱数放送を解釈する「コード表」も展示されている。例えば「86093」という数字は「暗殺」を意味する。北朝鮮兵士が夜の非武装地帯(DMZ)で使った赤外線カメラ、北朝鮮暗殺犯が作戦中に本国と通信する際に使った古いトランスミッター(送信機)も展示されている。

 この博物館で北朝鮮スパイ関連の展示が始まったのは昨年7月。博物館学芸員のアンドリュー・ハモンド博士による脱北者キム・ヒョンウ氏への公開インタビューがきっかけだった。キム・ヒョンウ氏は元北朝鮮情報機関所属で、脱北後の2015年から韓国のあるシンクタンクに勤務している。キム・ヒョンウ氏の波乱万丈の脱北過程と韓国に定着するまでのエピソードを聞こうと、平日の夕方にもかかわらずインタビューには数百人の聴衆が集まった。これを見た国際スパイ博物館は韓国の情報機関である国家情報院に協力を求め、北朝鮮関連の展示を世界で初めて行うことになった。

■「北朝鮮は孤立した権威主義国家」「最も抑圧された国」

 博物館は今回の展示について「今も続く韓半島分断、北朝鮮の核とミサイルの暴走などに関心を持つ機会になれば」と語る。マネージャーのブラン氏は「多くの人が情報活動の歴史、そして今世界で起こっている出来事をしっかり理解してほしい」「これが博物館の教育的使命だ」と述べた。

 博物館は展示案内で「共産主義の北朝鮮は1950-53年に韓国戦争を起こし韓半島統一を目指したが、失敗した」と説明し、韓半島分断が北朝鮮の南侵から始まった事実を明確にしている。また北朝鮮に関する案内には「48年から今も金氏一家に統治されている孤立した権威主義国家で、世界で最も抑圧された国」「党の方針から外れるとか、政権にとって脅威になると判断されれば、ひどい場合は命を失うこともある」などの説明もある。

ワシントン=金隠仲(キム・ウンジュン)特派員

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